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空の青さが、やけにムカツク

『揺れるココロ、と高鳴るドウキ』__完全自作の小説・詩・散文サイト。携帯からもどうぞ。
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 ボーン ボーン ボーン ボーン
 古時計の音が聞こえな気がして、私は目を覚ました。

「お母様、お母様お母様、おかあさ、まー!! お母様お母様お母様、私を、私を、私を、許してー!! 親不孝の私を、私を許して下さいまし。お母様お母様お母様」
 隣の部屋から声が聞こえる。
 こちらの壁を叩きながら誰かの声が聞こえてくる。
 私には記憶が無いため、この病院に入院しているということは知らされている。だから、隣の声が誰のものなのかは分からない。隣の女の子は本当に私の子供なのだろうか。
 それ以前に私に子供が居るのかどうかさえ記憶が失われているから。
 廊下から足音が聞こえ、私の部屋のドアが開いた。
 主治医が新聞紙を抱え、立っている。
「こんにちは━━さん。今日はあなたに関する新聞記事を持って来ました。少しでも思い出せるきっかけになってくれるかもしれませんので」
 主治医は私にその束を渡す。彼の眼鏡の奥の瞳に怪しい光が宿った気がした。

 以下、新聞紙の見出しと内容。

【無理心中か!? 娘の運転する車が海に突っ込む】
 ×月×日未明、━━さん母子の車が海に転落する事故が起きた。調べによると、車を運転していたのは娘の━━さん(21)である。目撃者急によると、海へ向かってスピードを上げたという。

【原因は精神錯乱か】
 ━━海に車こと転落した母子が、二人暮らしであることが分かった。さらに娘さんには精神疾病があることも判明。症状は比較的に軽いものだという。統合失調症であり、突然の被害妄想に襲われたのではないかと思われる。社会復帰を目指して車の運転を練習していた最中の悲劇であった。

【事故の母子、意識を回復】
 以前に何度か取り上げた、海へ転落した母子の意識が回復した模様。なお、母親の意識は、はっきりしているものの、記憶が喪失されていることが分かった。娘の記憶はしっかりしているが、精神が不安定になっているという。母子の精神安定のために、二人の病室は別にされているとのこと。

 私は記事を読んでも、他人事としか思えなかった。
 私がこの事故に巻き込まれたということなのだろうか?
 ……信じられない。

【新聞に混じったメモ用紙】
 ♪スカラカチャカポコチャカポコチャカポコ
 ♪私は本当の私で無い あなたが本当の私だから だけれどあなたも偽者で 私が本当の私であるはず
 ♪スカラカチャカポコチャカポコチャカポコ
 ♪スカラカチャカポコチャカポコチャカポコ

 直後、私は頭痛に苛まれた。
 隣の部屋から声が聞こえる。
「お母様お母様お母様お母様、どうか、どうか親不孝の私を、私を許してー!!」

 主治医の女医が笑っている━━?
 邪悪な感情。
 この女は……夫を……奪っ……

 ボーン ボーン ボーン ボーン
 古時計の音が聞こえたような気がして、私の意識は、まどろみ始めた━━
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 ニーコちゃんは可愛いメスの白猫だ。
 二年ほど前にユウ君(勇輝、当時小学二年生。この時、将来の夢はお医者さん。しかしなぜか高校時代に弁護士になろうと決意。一流大学にて法律を学ぶも、途中で子供時代の夢を思い出し、医学部へ転向する。そして産婦人科医となり、自ら妻の出産時にて二人の子供((共に女児))を取り上げる事となる。後、長女は勇輝のもう一つの夢であった弁護士の資格を取得し、法律家への道へと進む。次女は父の後を継ぐため医大へ通うが、そこで出逢った男子学生と学生結婚。勇輝は怒り、一時絶縁状態になるも、二人が真面目に医師免許を取り、次女は産婦人科、夫は小児科の医師として成長するにつれ、両者の関係は軟化。結果的には次女を後継として迎え入れる事となる。なお、この時に長女が双方の間を取り持ったのではないかと近隣住民にはもっぱらの噂)に拾われたのだ。
 その時にニーコちゃんが「ニーニー」と鳴いていたので、ユウ君はニーコちゃんと名付けたのだ。
 初め、ママ(ひろ子。専業主婦。夫、達也との出会いは十年前。子供は勇輝一人。後の子と孫との関係に気を揉むが、無事に和解した事に安堵する。その時の猫の数は三匹)は反対したのだが、パパ(達也。私立中学教諭。性格は至って温厚。同僚、学生共に信任は厚い。彼の勤める私立中学校は一クラス二教諭制度であり、この時期の彼は主担任。数年後に学年主任となる。後、教頭、校長へと出世し、定年退職。子と孫との問題には楽観視しており、趣味のゲートボールに興じていた。結果から言って、彼の楽観的視点は正しかったのだが、自ら積極的に動かなかった事に対し、妻から小言を言われる)が「情操教育にもなるし、良いのではないか」との意見によって、ニーコちゃんはユウ君の家で飼われる事に決まったのだ。
 ニーコちゃんは朝、家族と一緒にカリカリした朝食を食べる。それからユウ君が学校へ行くまで、猫じゃらしで遊んでもらう。
 ユウ君が学校へ行ってしまうとママは忙しく家の中でパタパタ動き回るので、ニーコちゃんは家の玄関前に出て、日だまりに箱座りをして目を閉じる。
 しばらくすると近所の飼い猫、アメリカンショートヘアのショコラさん(茶と黒の縞模様、十歳、メス)が遊びに誘って来てくれる。
 そして二匹で散歩をするのだ。草の匂いをかいだり蜻蛉を追いかけたりしながら。
 ルートは決まっていて、ニーコちゃんは、いつもショコラさんの後ろについていく。なぜだかショコラさんさらは、覚えていないはずの、お母さんの匂いが感じられるからかもしれない。だからニーコちゃんはショコラさんと散歩できるだけで楽しくなるのだ。
 お昼近くになると、二匹は古いアパートへと向かう。
 そこには猫好きのお爺さん(春夫、元左官職人。昔は腕が良く、仕事も入ってきたが遊び好きでギャンブルに金を使い過ぎ、その金使いの荒らさから妻に愛想を尽かれて三十年前に離別。今は独身で年金暮らし。少ない収入のために賭け事は控えている。今の友達は、もっぱら安い酒と一夜干しのスルメイカ)が住んでいて、猫まんまを御馳走してくれるのだ。それに猫の扱いも上手い。耳の後ろや尻尾の付け根辺りを掻いてくれたりして、ニーコちゃんとショコラさんは喉を鳴らす。
 お爺さんはショコラさんを「茶の助」ニーコちゃんを「白の介」と呼んでいる。けれど二匹には名前なんてどうでも良いのだ。
 喉を鳴らして、ショコラさんと土の上でゴロゴロ転がって、お爺さんがニコニコしてくれれば、それだけでニーコちゃんは嬉しくなる。
 そのうちにショコラさんは眠くなってきたのか、玄関前に置いてある白い発泡スチロールの箱に入る。するとお爺さんは「ゆっくりしてお行き」と言って部屋に引っ込む。
 ニーコちゃんは自分も眠くなってきたのに気付くと、ショコラさんの上に重なって丸くなり、仲良く二匹で昼寝をする。
 夕方くらいになると、二匹は自然に目を覚まし、それぞれ勝手に家へ帰る。
 家ではユウ君が学校から戻っていて、ニーコちゃんはユウ君の膝に乗ると丸くなる。そして撫でてもらっているうちにウトウトし始めるのだ。
 でも晩御飯のためにすぐ起こされる。
 晩御飯は夜と違って、缶から出された魚味の柔らかい物を食べるのだ。カリカリしなくて少しつまらないけれど、味はこちらの方が好きなのだ。
 食後にユウ君と遊びたいのだけれど、いつも「宿題の邪魔しないで」と怒られる。仕方がないので、転がってきた消しゴムで遊ぼうとすると、その事でまた怒られる。
 そこでニーコちゃんは、テレビを見ているママの膝の上に乗る。
 時間が経つと、ユウ君は部屋から出て、お風呂に入る。
 ニーコちゃんは耳をピクピクさせて、ユウ君がお風呂から上がるのを待つのだ。
 そしてユウ君がお風呂から出ると、後ろをついて行く。部屋に入り、ユウ君とニーコちゃんは一緒に布団へ潜る。
 ユウ君のベッドにはユウ君の匂いが染みついていて、その匂いに包まれているのが、ニーコちゃんには一番安心できる時なのだ。
 きっと、初めてユウ君の腕に包まれた時と同じ感じがするからだろう。
 ニーコちゃんは体が大きくなって、今ではユウ君の腕から、はみ出てしまう。
 だから、あの頃の感じが味わえる、ユウ君のベッドが好きなのだろう。
 寂しさから救ってくれた、温かさに包まれて眠るのだ。
  

 ぼくはコンビニの店員。
 彼女は常連客。
 いつも同じアイスクリームを買いにくる。
 ぼくの、片想い。
 彼女に恋人が居るのか居ないのか、それすら分からない。
 唯一のやりとりは、レジの前。
 ぼくは顔を赤らめ、お釣りを出す手が震える。
 彼女の手を汚してはならない。
 指先が触れぬ様、さっと硬貨を渡す。
 付き合いたいけれど、それは出来ない。
 してはいけない気がする。
 いや、それは嘘だ。本当は付き合いたい。
 けれど、どうやって?
 告白、か。
 でも、失敗は許されない。
 彼女は二度と来なくなるだろう。
 いや、それ以前に、ぼくは恐い。
 告白をする勇気がない。
 それに、いきなりコンビニ店員から「好きです」なんて言われたって戸惑うだけだろう。
 ここは遠回りに何気ない顔をして、少しずつ親しくなって、と、思っても話題がない。
 何を話すべきなのか。
 左手にリングが無いことは確認してある。やはり恋人の有無を尋ねてからの方が賢明ではないだろうか。親しくなってから恋人との話を持ち出されたら、心の傷が深くなる。
 なら、どうやって尋ねる?
 彼女がぼくの好意を読み取って、話かけてくれたら良いのだけれど、世の中、そんなに甘く無いことは分かってる。
 だから連日連夜、ぼくは悩んでいる。
 来店した、彼女に見とれている時以外。
 ああ、彼女はどうしてこんなに、こんなにぼくの心を掴んで放さないのだろう。
 いや、それは嘘だ。ぼくの心が彼女を求め、執着しているだけなのだ。
 彼女の心を掴まえなければならないのはぼくの方で、その想いが募る程に反比例して心は萎縮し、話せなくなる。
 なぜなら、振られるのが恐いから。
 そして、ぼくは堂々巡りを繰り返す。
 ああ、頭がどうにかなりそうだ。
 いや、既におかしくなっているのかもしれない。
 恋をするとは、脳内物質の一種であるドーパミンが放出されている所の状況によってシナプス間に於けるニューロンの受容体に作用して多幸性を増す状態を差すことであって、これは酩酊作用と言っても良いものであり、この事例を今のぼくに当て嵌めるならば、ぼくは彼女に中毒症状を起こしているのであって、彼女すら居なければ、ぼくもこんなに悩まないで済むのではないだろうか。
 そう思うと、ぼくは彼女に支配されているとも言える。それが彼女の意思と無関係であり、ぼくからの一方的なものであったとしても。
 彼女の支配から逃れ、この悩みを一掃するためには、ぼくは殺さなければならないだろう。
 勿論、彼女のことを。
 いや、ちょっと待って。何かがおかしい。
 間違っている。
 けれどどこが間違っているのだろう。
 分からない。
 ぼくには、今のぼくには解らない。
 だけど確かなことはひとつだけ。
 想い焦がれる彼女に対し、ぼくは同じくらいの殺意を抱いている。
  

 白球を突き、他の球をポケットに落とすゲーム、ビリヤード。
 私はこのゲームが嫌いで嫌いでたまらない。
 似たゲームとしてボーリングが上げられるけれど、ビリヤードに比べたら断然マシだ。
 両者の共通点、それは他者を弾き、その存在を物理的に否定する事にある。
 ボーリングがビリヤードよりマシな所は、ガーターがある点だろう。球の方にもリスクがある。
 対してビリヤードの白球には、ゲームの主人公としての重要視された特殊なルールがある。
 つまり、私にとって、白球は他者を排除するシンボル的存在であって、その厚顔で鉄面皮な所が気にくわない。
 それは、私が自分を恥ずかしく思い、この世から消え去ってしまいたいと望む者だからだろう。

 人に限らず、命の有る無しに関わらず、あらゆる物質、物体は、その空間に有る限りに於いて、他者の存在を否定する事になる。
 その空間を占有するからだ。
 簡単に言えば、水の満杯な浴槽に人が入る。すると、その人間分の体積と同じだけの水が溢れ、押し退けられる。
 つまり何物かが存在するという事は、別の何物かが存在する可能性を奪い取る事なのだ。

 まさしくビリヤードそのものではないだろうか。
 他者を押し退け、自分の存在を主張、誇示をするゲーム。

 何故、私がこんな考え方に染まったのか、その説明をしなければならないだろう。
 自分を恥じ入り、消え去りたいという話は、すでにした。
 問題は、その理由である。
 私は精神的な病を患っているのだ。
 いわゆる鬱である。
 自分の呼吸すらが他人の酸素を奪い、人の迷惑になっていると感じている。
 病が治らない事に対する肉親への思い。自分を責める気持ち。
 それでも生き続けているのは、自分の足跡を滅したいのに、それは無理だと分かっているからだ。
 自分が産まれ、育ち、その間に出会った人たちの記憶から私を消したい。自分の物、した事、された事、食べた物、その他、この世に関わり、生きた証を一つも残さず、消え失せてしまいたい。
 けれども、そんな事は物理的に不可能なのだ。
 一番、それに近しい事ができるとしたならば、なるたけ人の世を平穏に生き、最低限の人とだけ関わり合い、子孫を作らず、自然死をし、私を知る者が一人も居なくなった百数十年後まで待たねばなるまい。
 市井の名も無き人間として生活し、一日も早く死ぬ事を願うだけの毎日。
 他人を押し退けてまで生きていようとは思わない。

 だから、私はビリヤードという自分を主張するゲームの、いや、白球の存在が嫌いなのだ。
 到底、私には受け入れがたい。容認する事は許されない。

 でも、本当は分かっている。
 私がビリヤードを嫌っている理由は、一種の羨望があるからだ。
 私は醜い嫉妬に駆られている。
 そしてその思いの分だけ、他者を否定し、自分に拘泥している事にも。

 分かっている。
 この心の捻れのわけも。
 私は自分が好きなのだ。
 そして、同じくらいにそんな自分が許せず、嫌いなのだ。
  

 ぷっつりとは簡単に切れなかった。
 滲み出た血や体液みたいなもので粘ついていたのか、それとも包丁が滑ったのか。
 血管はこりこりっと刃を逃れ、やっと切れ目が入ったのだ。その音はどこか湿っぽくて、ぷっつりというよりも、ぷつるりという音だった。
 ぷつにゅるり、みたいな感じもしたが、伸びた管は、一旦、切れ目が入るとすんなり裂けたので、やはり、ぷつるりという感触が一番合っているような気がした。

 彼女がリストカットをしたのは、これで三度目だ。
 一度目は手首に包丁の先端を突き刺したのだが、骨に邪魔され失敗した。
 前回は傷が浅すぎ、親に発見されて全治一週間の怪我で済んだ。
 今度はしくじりたくなかったので、タオルを噛み、肘の付け根を紐で縛って血管を浮かせた。手首を氷水で冷やし、感覚も鈍くしておいた。

 重要なのは静脈ではなく動脈。それを探っているうちに、痛みはいつしか快感を伴った。
 ぷつるりと動脈が切れた瞬間には、薄氷のような笑みが顔に浮かぶ。
 溜めた水に傷口を浸す。
 赤黒い血が透明な水を汚していく。
 出血による脱力感が心地好い。
 突然の目眩。
 暗転する景色。
 足元が覚束なくなり、よろめき倒れた。

 数時間後、彼女は病院のベッドで気が付いた。
 主治医の名には、母親の名前が書いてある。
 そう、彼女の母親は外科医なのだ。
 嫌だなと彼女は思う。
 主治医である母親は、彼女に様々な質問をした。
 彼女は正直に答える。
 しかしなぜ何度も手首を切るのかといった質問には答えが詰まった。
 考えても分からなかったのである。
 けれど、母親が去り際に放った一言で、手首を切った理由が分かったような気がした。
 母親は、彼女にこう言ったのだ。
「どうせ血を流すなら、献血でもしてくれれば良かったのに。あんたへの輸血だってタダじゃないんだから」
 それは場を和ませるための軽口だったのかもしれなかったが、彼女にはもちろん、そんな風に捉えることはできなかった。
  

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