白い機体をなめるようになでる。
コイツの名前はカルメン。
惜しいけれども最期の出撃。
華々しくしく散ろう、二人で一緒に。
乗り込むコクピットはいつものように馴染んで僕を受け入れる。
艶めかしく光を反射するカヴァー。
上下に揺れる機体の中でコントロール、ゆっくり進めて滑走路へ。
すべての指示は、僕が出す。
僕とコイツのラストフライト。
速度をあげて夜の空へと。
地を離れると加速の重力、空気の浮揚。
冷静と興奮、判断と高揚、操縦と反応。
主と従者。
時に従者は空気の抵抗を受け、主を煩わせ。しかしそのもどかしさが支配欲を増幅させる。
無断の出撃は最期の足掻き。
どうせこの国は陥ちるのだ。
優雅にロール、楽しく急上昇、美しいほどの背面飛行。
頭上に地上、倒錯した世界からお前と急降下。
見せつけるように空のダンス。
乱れるように空のスウィング。
アップダウンの激しい挑発、右へ左へわがままに。
解放された抑圧を見せつけるように。
喘ぐようなアラート。
やっと出てきた敵国の機体は複数。
「行くぜ、相棒」乱暴に、時に優しくカルメンの機体をゆらす。
ロックオンからの激しい離脱の波。
もう機体は、どの方向にブレているのかすら分からない。
無数の弾丸に曝され、凌辱される機体。
けなげな相棒を内側からなでる。
後方からの激しい衝撃。
煙をあげて爆発するエンジン。
望んでいた足掻き。
求めていた死地。
爆風で千切れる尾翼の感覚が、むしろ心地よい。
「相棒、お疲れ」僕は愉悦に浸っていた。「カルメン、最後の花火だ。派手にイこう」
残弾を、すべて発射する。
何機かは道連れにできたみたいだ。
キャノピーにはすでに炎が回り、墜落の地面は迫っている。
「お前と死ねて、僕は幸せだ」
僕は笑顔で、本当の最期となる振動に身をまかせる。
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