最近、寝起きが悪い。
麻酔医という仕事柄、睡眠不足は否めない。だが、慣れているはず。
常駐医からフリーになり、収入はアップ、ある程度自分の時間も持てるようになれた。
なのに、頭が重い、体がダルい、寝返りすら面倒臭い。
意識の底に、粘りつく鉛が溜まっている感じ。
枕の隣で、携帯が鳴っている。
多分、仕事のだろう。
右手を動かす。
それは胸の上を這う虫のような感覚。
自分の手なのに、別の物体が動いているみたいだ。
携帯を掴み、電話に出る。
電話の相手は予測通り、緊急オペの呼び出しだった。
相手の話は分かるのに、内容が分からない。
寝返りのせいで、理解するための思考が活動していないのか。
私は仕事の依頼を受けるために声を発した。しかし声は溜め息の如く希薄で、音を放ってはいなかった。
抵抗する体を強制的に起こす。それで、やっと声らしい声が出た。
電話を切り、ベッドから足を降ろす。
そこで、私は混乱した。
立ち上がれない。体が言うことを聞かないのだ。
どうしてだろう。初めての感覚。
混乱のあまり、立ち上がる動作とはどのように行うのかすら忘れてしまった。
「フン」とか「ヨッ」などと掛け声しても動かない。
少し考えて、反動をつけることにした。
一度体重を後ろにかけ、私はそのまま寝転がった。
アレと思う。
自分は何をしようとしていたのか。
右手に掴んだままの、携帯電話。
そうだ、仕事に行かなくては。
頭は急く。しかし体が反応しない。
起きろと念じる。
強く念じる。
しかし脳は筋肉に電気信号を送っていないのか、呉作動しているのか、ベッドでのたうち回ることしか出来ない。
遅れては大変なのだ、人の命に係わる仕事なのだ。
早く仕度をしなければ。
思うほどに体が拒絶する。
こんな状態下で、きちんとした仕事が出来るだろうか。
不安になる。
時間は進む。
焦れる。
手のひらの異物が強く、重く感じる。
汗が滲む。
なぜ動けない、なぜ、なぜ、なぜ。
焦燥に変わった不安が、さらに変化し、虚ろになる。
仕事の出来る状態ではない。
私は電話の履歴から、先方の病院へ断りの電話をかけた。
声が震えているのが自分でも分かる。手のひらにはじっとりした汗。
電話を切り、携帯を放り投げる。
数分後、私の体はしっかりと動いていた。
これなら仕事に行けたのではないか。私は自分を責める。
責める心は責められている自分だ。罰しているのは罰せられている自分だ。罪を負った私に、私が罪を着せている。
「ただ、仕事をしたくなかっただけなのではないか」
怠惰という、ひとつの大罪。
私の心はループする。
この罪を購うことは出来るのか?
虚ろな心は無気力を呼び、絶望が呼応して現れる。ともに誘われ、チラと頭をよぎるのは、死の幻影。
この状態を異常だと感じ、ループから抜け出せたのは奇跡に近い。
分野は違えど、私が医療に係わる職業に就いていたからか。
これは鬱病の初期段階だ。
しかし、思ってもみなかった。
うつとは心の病のはずなのに、体が動かないという症状から来るなんて。
麻酔医という仕事柄、睡眠不足は否めない。だが、慣れているはず。
常駐医からフリーになり、収入はアップ、ある程度自分の時間も持てるようになれた。
なのに、頭が重い、体がダルい、寝返りすら面倒臭い。
意識の底に、粘りつく鉛が溜まっている感じ。
枕の隣で、携帯が鳴っている。
多分、仕事のだろう。
右手を動かす。
それは胸の上を這う虫のような感覚。
自分の手なのに、別の物体が動いているみたいだ。
携帯を掴み、電話に出る。
電話の相手は予測通り、緊急オペの呼び出しだった。
相手の話は分かるのに、内容が分からない。
寝返りのせいで、理解するための思考が活動していないのか。
私は仕事の依頼を受けるために声を発した。しかし声は溜め息の如く希薄で、音を放ってはいなかった。
抵抗する体を強制的に起こす。それで、やっと声らしい声が出た。
電話を切り、ベッドから足を降ろす。
そこで、私は混乱した。
立ち上がれない。体が言うことを聞かないのだ。
どうしてだろう。初めての感覚。
混乱のあまり、立ち上がる動作とはどのように行うのかすら忘れてしまった。
「フン」とか「ヨッ」などと掛け声しても動かない。
少し考えて、反動をつけることにした。
一度体重を後ろにかけ、私はそのまま寝転がった。
アレと思う。
自分は何をしようとしていたのか。
右手に掴んだままの、携帯電話。
そうだ、仕事に行かなくては。
頭は急く。しかし体が反応しない。
起きろと念じる。
強く念じる。
しかし脳は筋肉に電気信号を送っていないのか、呉作動しているのか、ベッドでのたうち回ることしか出来ない。
遅れては大変なのだ、人の命に係わる仕事なのだ。
早く仕度をしなければ。
思うほどに体が拒絶する。
こんな状態下で、きちんとした仕事が出来るだろうか。
不安になる。
時間は進む。
焦れる。
手のひらの異物が強く、重く感じる。
汗が滲む。
なぜ動けない、なぜ、なぜ、なぜ。
焦燥に変わった不安が、さらに変化し、虚ろになる。
仕事の出来る状態ではない。
私は電話の履歴から、先方の病院へ断りの電話をかけた。
声が震えているのが自分でも分かる。手のひらにはじっとりした汗。
電話を切り、携帯を放り投げる。
数分後、私の体はしっかりと動いていた。
これなら仕事に行けたのではないか。私は自分を責める。
責める心は責められている自分だ。罰しているのは罰せられている自分だ。罪を負った私に、私が罪を着せている。
「ただ、仕事をしたくなかっただけなのではないか」
怠惰という、ひとつの大罪。
私の心はループする。
この罪を購うことは出来るのか?
虚ろな心は無気力を呼び、絶望が呼応して現れる。ともに誘われ、チラと頭をよぎるのは、死の幻影。
この状態を異常だと感じ、ループから抜け出せたのは奇跡に近い。
分野は違えど、私が医療に係わる職業に就いていたからか。
これは鬱病の初期段階だ。
しかし、思ってもみなかった。
うつとは心の病のはずなのに、体が動かないという症状から来るなんて。
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Re:無題
ありがとうございますm(_ _)m
このお話は、実際、自分の経験を織り混ぜて書いた物語です。
心の病のハズなのに、体の不調に戸惑い、後手後手に回ってしまった体験。
これを知って頂く事によって、早期発見、治療に役立てられたらとの思いから書きました。
物語は生き物です。初期案から外れ、ややライトな雰囲気になってしまいました。でも、この簡略化が、うつを知らない方々に伝わり易いのかも知れません。
分からないモノです(^_^)
このお話は、実際、自分の経験を織り混ぜて書いた物語です。
心の病のハズなのに、体の不調に戸惑い、後手後手に回ってしまった体験。
これを知って頂く事によって、早期発見、治療に役立てられたらとの思いから書きました。
物語は生き物です。初期案から外れ、ややライトな雰囲気になってしまいました。でも、この簡略化が、うつを知らない方々に伝わり易いのかも知れません。
分からないモノです(^_^)