冴えない青年が、海岸を散歩中、古めかしいランプを見つけた。
半ば砂浜に埋もれていたそれを拾い、青年は砂を払った。
するとランプから魔神が表れた。
「私はランプの精」魔神は言う。「あなたの願いを━━」
「ああ、良く物語に出てくる奴か」青年は無感動にランプの精の言葉を遮る「三つの願い事を叶えてくれるとかいう?」
「ほう、私を知っているとは話しが早い。しかし願い事には制限があって━━」
「知ってる知ってる」青年さまたも魔神の話しの腰を折る。「願い事を増やしてくれとかいうのがタブーなんだよね」
魔神は頷き、しかし言った。
「説明を省略されるのはありがたいが、何だか遣りづらいな」
「ま、細かい事は気にすんなって」青年は相変わらずの無感情な口振りで言った。
「それはそうかも知れないが……まぁ良い。取り敢えず願い事があるのなら言え」
「うーん。そうだなぁ」青年は少し考え、言った。「俺、ロクな学歴もないし、最近、出合いもないからなぁ」
「では優秀な頭脳と美女を手に入れたいのだな」
「いやいや、ちょっと待って。それじゃあ、ありきたり過ぎてつまんない気がする」
「なるほど」魔神は言う。「お前は変わり者のようだからな、そうしたモノには興味が無いと言う事か」
「いや、興味が無いってワケじゃないけど……ね」
「ならば何を願う?」
「えーと、そうだな、過去に戻って人生をやり直したい。しかも今の記憶を保持したままで」
「ほう、それは確かに珍しい願い事だ。今の記憶を持ったまま、過去に戻りたいのだな?」
「うん。これが一つめの願い事なんだけど、大丈夫?」
「大丈夫だ。しかし問題は、そうすると残りの二つの願いはどうなるのだ?過去に戻ったら、私と会えなくなる可能性がある。その場合━━」
「じゃあさ、過去に戻った後、今日、この日にまた会うようにしてくれれば良いんじゃね?」
「それが二つめの願いか」
「そう」青年はあっさり言った。「三つめの願い事はその時にでもする、って事でどう?」
魔神はしばし考え、それが願いならばそうしようと請け合った。
そして青年は記憶を保持したまま、自分の過去に遡る。
こうして、幼い体を持った青年が、幼稚園時代に現れた。
青年、いや、子供に戻った彼は、運動神経はともかく、秀才として持て囃される事となる。
さらには初恋の相手に子供染みたイタズラをせず、ストレートに自分の気持ちを伝え、優秀さもあって交際が始まった。
しかも、思いがけないことに、この幼稚園児特有の頭脳、つまり柔軟性を持った脳が、勉強をするために役立った。
要は残った記憶との相乗効果もあり、彼の才能はめきめきと頭角を表したのである。
そうして、彼は問題なく進級をし、超一流の国立大学へと進学もし、周りには女の子が集まり、公私とも順風満帆な生活を送っていた。ように思われた。
しかし━━
二つめの願い事を叶える時が来た。
魔神が青年の前に再び現れたのである。
「約束だ、やって来たぞ」魔神が言う。「三つめの願い事はなんだ?」
「あの、さ」青年は頭を掻きながら、気まずそうに言う。その口振りには、以前のようなぞんざいさがない。「言いにくいんだけど……」
「どうした」
「今、かなりの就職難でね、この国一番の大学に通っている俺でも、就職先が見つからない。成績が良い分、プレッシャーが酷くて、正直、今とっても悩んでる」
「では三つめの願いは安定した会社への就職と言うことで良いのかな?」
青年は魔神の言葉に頭を振る。
「安定した会社に就職したって、先が見えてる。レールの上を走るなんて、考えただけでも億劫だよ。ああ、昔みたいにちゃらんぽらんな生活が懐かしい」
「では」魔神が口を挟む。「元の生活に戻そうか」
青年は慌てて手を振った。
「やめてくれ、ただの愚痴だよ、愚痴。言ってみただけだ」
「ならば三つめの願い事はどうするのだ」
「起業したい」
「会社を始めるのか? こういった場合、だいたいの人間は働かなくても済むような金を要求するのが普通なのだがな」魔神は続ける。「なるほど、起業した会社が儲かるようにして欲しいという願いだな」
「それじゃつまらないだろうそれこそレールの上を走る代名詞みたいなもんだ」即座に青年は否定した。「こんな時代だからこそチャンスだと思うんだ。だけど起業するにあたっての妙案が浮かばない。そこで、アイデアが欲しいんだ」
「アイデアだけで良いのか?」
魔神の言葉に青年が頷く。
「そこそこのアイデアで良いんだ。そのくらいのアイデアをもらったら、後は俺の実力で勝負してみたい」
希望の光を宿した青年の目を見て、魔神はその変わり様の衝撃と共に、久し振りにまともな人間の姿を見た感動を味わった。
半ば砂浜に埋もれていたそれを拾い、青年は砂を払った。
するとランプから魔神が表れた。
「私はランプの精」魔神は言う。「あなたの願いを━━」
「ああ、良く物語に出てくる奴か」青年は無感動にランプの精の言葉を遮る「三つの願い事を叶えてくれるとかいう?」
「ほう、私を知っているとは話しが早い。しかし願い事には制限があって━━」
「知ってる知ってる」青年さまたも魔神の話しの腰を折る。「願い事を増やしてくれとかいうのがタブーなんだよね」
魔神は頷き、しかし言った。
「説明を省略されるのはありがたいが、何だか遣りづらいな」
「ま、細かい事は気にすんなって」青年は相変わらずの無感情な口振りで言った。
「それはそうかも知れないが……まぁ良い。取り敢えず願い事があるのなら言え」
「うーん。そうだなぁ」青年は少し考え、言った。「俺、ロクな学歴もないし、最近、出合いもないからなぁ」
「では優秀な頭脳と美女を手に入れたいのだな」
「いやいや、ちょっと待って。それじゃあ、ありきたり過ぎてつまんない気がする」
「なるほど」魔神は言う。「お前は変わり者のようだからな、そうしたモノには興味が無いと言う事か」
「いや、興味が無いってワケじゃないけど……ね」
「ならば何を願う?」
「えーと、そうだな、過去に戻って人生をやり直したい。しかも今の記憶を保持したままで」
「ほう、それは確かに珍しい願い事だ。今の記憶を持ったまま、過去に戻りたいのだな?」
「うん。これが一つめの願い事なんだけど、大丈夫?」
「大丈夫だ。しかし問題は、そうすると残りの二つの願いはどうなるのだ?過去に戻ったら、私と会えなくなる可能性がある。その場合━━」
「じゃあさ、過去に戻った後、今日、この日にまた会うようにしてくれれば良いんじゃね?」
「それが二つめの願いか」
「そう」青年はあっさり言った。「三つめの願い事はその時にでもする、って事でどう?」
魔神はしばし考え、それが願いならばそうしようと請け合った。
そして青年は記憶を保持したまま、自分の過去に遡る。
こうして、幼い体を持った青年が、幼稚園時代に現れた。
青年、いや、子供に戻った彼は、運動神経はともかく、秀才として持て囃される事となる。
さらには初恋の相手に子供染みたイタズラをせず、ストレートに自分の気持ちを伝え、優秀さもあって交際が始まった。
しかも、思いがけないことに、この幼稚園児特有の頭脳、つまり柔軟性を持った脳が、勉強をするために役立った。
要は残った記憶との相乗効果もあり、彼の才能はめきめきと頭角を表したのである。
そうして、彼は問題なく進級をし、超一流の国立大学へと進学もし、周りには女の子が集まり、公私とも順風満帆な生活を送っていた。ように思われた。
しかし━━
二つめの願い事を叶える時が来た。
魔神が青年の前に再び現れたのである。
「約束だ、やって来たぞ」魔神が言う。「三つめの願い事はなんだ?」
「あの、さ」青年は頭を掻きながら、気まずそうに言う。その口振りには、以前のようなぞんざいさがない。「言いにくいんだけど……」
「どうした」
「今、かなりの就職難でね、この国一番の大学に通っている俺でも、就職先が見つからない。成績が良い分、プレッシャーが酷くて、正直、今とっても悩んでる」
「では三つめの願いは安定した会社への就職と言うことで良いのかな?」
青年は魔神の言葉に頭を振る。
「安定した会社に就職したって、先が見えてる。レールの上を走るなんて、考えただけでも億劫だよ。ああ、昔みたいにちゃらんぽらんな生活が懐かしい」
「では」魔神が口を挟む。「元の生活に戻そうか」
青年は慌てて手を振った。
「やめてくれ、ただの愚痴だよ、愚痴。言ってみただけだ」
「ならば三つめの願い事はどうするのだ」
「起業したい」
「会社を始めるのか? こういった場合、だいたいの人間は働かなくても済むような金を要求するのが普通なのだがな」魔神は続ける。「なるほど、起業した会社が儲かるようにして欲しいという願いだな」
「それじゃつまらないだろうそれこそレールの上を走る代名詞みたいなもんだ」即座に青年は否定した。「こんな時代だからこそチャンスだと思うんだ。だけど起業するにあたっての妙案が浮かばない。そこで、アイデアが欲しいんだ」
「アイデアだけで良いのか?」
魔神の言葉に青年が頷く。
「そこそこのアイデアで良いんだ。そのくらいのアイデアをもらったら、後は俺の実力で勝負してみたい」
希望の光を宿した青年の目を見て、魔神はその変わり様の衝撃と共に、久し振りにまともな人間の姿を見た感動を味わった。
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