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空の青さが、やけにムカツク

『揺れるココロ、と高鳴るドウキ』__完全自作の小説・詩・散文サイト。携帯からもどうぞ。
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 辛いの?
 ううん、悲しいの。

 寒いの?
 ううん、寂しいの。

 痛いの?
 ううん、触れてほしいの。

 まぶしいの?
 ううん、泣きたいの。

 流されるままで良いの?
 ううん、転がり墜ちたいの。

 どうして否定ばかりするの?
 ううん、君の言う事も本当なの。

 さっきまでの答えは嘘だったの?
 ううん、全部が本当なの。

 分からない。あなたは結局、何がしたいの?
 ううん、本当は、君が一番分かっているはずじゃないの。

 ━━死にたいの?
 ううん……生きているのは確かに怖いけれど━━死ぬのは……死ぬのは、もっと怖い気がするの。


 あなたは、私と暮らしたくないと思っているの!
 だから、迷っているの。

 あなたは、どうして私と別れたいなんて言うの!
 だから、君を不幸にしているのじゃないかと思っているからなの。

 あなたはどうして、そう考えてしまうの!
 だから、僕には生活力が無くて、君に苦労をかけてしまうだけ、そう考えたからなの。

 あなたのおかげで、私は頑張れていたの!
 だから、僕は君の荷物として、疲れたの。

 あなたは荷物なんかじゃないの!
 だから、荷物でないとしても、その位置に疲れたと言いたいの。

 あなたをペット扱いしているとでも言うの!
 だから、言い方なんて関係なく、このままでは、君と僕が腐って行くような気がするの。

 ━━あなたが……私には、あなたが居ないと駄目になるの!
 だから……君は僕と居ると━━駄目になる気がするの。


 なら、私の事が嫌いになったの?
 いや、君の事が大切だから、こうしないといけない気がしたの。

 なら、あなたに依存しているとか、言うつもりなの?
 いや、難しい事は分からないけれど、君の負担になりたくないの。

 なら、あなたは私の負担じゃない。そう言っても、それでもあなたは別れるつもりなの?
 いや、別れるというよりも、このままでは、僕達はどこにも行けない気がするの。

 なら、どこに行くつもりなの?
 いや、それは、まるで分からないの。

 なら、今すぐでなくても良いんじゃないの?
 いや、僕は少しでも早い方が良いと思うの。

 なら、あなたが出て行った後、私はどうしたら良いの?
 いや、君は君のままで良いと思うけれど、それまでには、時間がかかるかもしれないね。だから、ゆっくりでも良いと思うの。

 なら、あなたはどこまでも私が独りで生きていけると思っているの?
 いや、またどこかで会えるかもしれないし、他の素敵な人が現れるかもしれないって思ってるの。

 なら、あなたは本気で、私がパートナーでなくても良いって思っているの?
 いや、僕のパートナーは君だけだと思う。これからも君以上の人とは出会えないと思うし、出会うつもりもね、本当はないの。

 ━━なら……私が生きてく意味がなくなるのと一緒じゃない━━私には、もう何もないの?
 いや、君は強い。僕なんかよりも。だから、君にはもっと先の道へと進んでほしいかったのに、ウッ、なに、包丁、ゲホッ、どうして、どうして……止めろ、君までどうして死のうとする、心中なんかしようとするの?
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 天使と悪魔は表裏一体の存在だ。
 その顕著な例が、死の天使、サマエル。
 サマエルは始め、病人を天に召すという重要な役割を持った天使であった。
 しかし死を司るという性質のため、いつしか立場は死へ誘う悪魔として堕とされる。
 そして、堕天使となり、死神の扱いを受けることとなった。
 まさしく、聖と邪は表裏一体である。このことに気づいた19世紀の巨人は、神の存在を疑問視し、結果、ツラトシュトラを媒介とし、力への意思を示した。
 だが、彼の指針は個による超人への憧憬であった。 そこに、彼の危うさを見受けることができる。
 畢竟、人間とは社会的生物なのである。
 彼の見落とした部分は、そこにある。
 人とは、人との間、関わりを持ってこその人間なのだ。
 個と個の思考、嗜好、志向とは、微妙に違い、その差によってバランスを保っている。
 互いに研磨し、止揚することによって、人間社会は進歩して行く。
 個と個のつながりが、超人対超人であることが望ましいのだが、自らを全肯定しながらも迷いの中に在る者である。
 したがって、超人とは超人たるがゆえに、己が主張と他者の主張とは僅かな誤謬によって反発することも、想像に難くない。
 それは当然、軋轢をもたらす。
 ならば、これから我々の進むべき道とは何なのか。
 そこに超人と対極にある、全否定をもってするのは安易かつ不適当で不誠実な対応であろう。

 ディスプレイを見て、笹木は溜め息を吐く。
 どうしたって、この後が続かないのだ。
 それも当然と言えよう。
 笹木は巨人の天才ではない。
 彼は、明日締め切りのレポートを書いている一学生にすぎないのだ。
 何杯目かのコーヒーを飲み、笹木はコメカミの強張りをほぐす。
 そしてふと、手を伸ばす。
 壁に掛けられたコルク製のパネル。
 ピンで止められた、いくつか写真。
 実家の猫、彼女の写真、友人の笑顔、ベースを弾く笹木、夜の中で彩られたモンサンミッシェル。
 一つ一つ、笹木は写真に触れる。
 指先で、撫でるように。
 指紋がつくのも構わず。
 手が、安らぎを感じる。
 手に、思い出が伝わる。
 手の、その指先から疲れが薄れ、暖かい優しさに包まれる。
 手を、手を伸ばし、触れただけなのに、笹木は静寂覆われ、一瞬の安らぎに心を奪われる。
 理屈じゃないんだ、笹木は思う。
 小さな集団であっても、無私、無欲、無償、利他、自己犠牲の精神すら、個々人の思いは擦れ違う。
 互いに思い合っていても、どれ程、皆の幸福を考えてした行動であっても。
 それによって、人は諍う。
 人間が、皆同じ考えを持つ方が異常なのだ。何かに突っ走る、集団心理と同様に。
 悲しいけれど、それが現実というものだ。
 人はどこまでも分かり合えない。だからこそ主張し、折り合いを付け、分かった気になって納得という妥協をする。
 しかし、それは馴れ合いだ、予定調和でしかない。
 不協和音を産み出さなければ、閉塞した現状を打破しえない。
 そして、新しい不協和音は、ここにある。
 笹木は手を握り締め、ディスプレイに視線を移す。
 現実と電脳世界。
 二つの世界は交錯し、しかし決して同一視してはならない。
 なぜなら、それは理屈と本能の世界であるからだ。
 今はまだ脆弱で確定定まらない、本能である電脳世界。
 本能が牙を剥き、理性を凌駕した時代。
 何が待ち受けるのか分からない。
 けれど、変革はもう訪れている。
  

 冴えない青年が、海岸を散歩中、古めかしいランプを見つけた。
 半ば砂浜に埋もれていたそれを拾い、青年は砂を払った。
 するとランプから魔神が表れた。
「私はランプの精」魔神は言う。「あなたの願いを━━」
「ああ、良く物語に出てくる奴か」青年は無感動にランプの精の言葉を遮る「三つの願い事を叶えてくれるとかいう?」
「ほう、私を知っているとは話しが早い。しかし願い事には制限があって━━」
「知ってる知ってる」青年さまたも魔神の話しの腰を折る。「願い事を増やしてくれとかいうのがタブーなんだよね」
 魔神は頷き、しかし言った。
「説明を省略されるのはありがたいが、何だか遣りづらいな」
「ま、細かい事は気にすんなって」青年は相変わらずの無感情な口振りで言った。
「それはそうかも知れないが……まぁ良い。取り敢えず願い事があるのなら言え」
「うーん。そうだなぁ」青年は少し考え、言った。「俺、ロクな学歴もないし、最近、出合いもないからなぁ」
「では優秀な頭脳と美女を手に入れたいのだな」
「いやいや、ちょっと待って。それじゃあ、ありきたり過ぎてつまんない気がする」
「なるほど」魔神は言う。「お前は変わり者のようだからな、そうしたモノには興味が無いと言う事か」
「いや、興味が無いってワケじゃないけど……ね」
「ならば何を願う?」
「えーと、そうだな、過去に戻って人生をやり直したい。しかも今の記憶を保持したままで」
「ほう、それは確かに珍しい願い事だ。今の記憶を持ったまま、過去に戻りたいのだな?」
「うん。これが一つめの願い事なんだけど、大丈夫?」
「大丈夫だ。しかし問題は、そうすると残りの二つの願いはどうなるのだ?過去に戻ったら、私と会えなくなる可能性がある。その場合━━」
「じゃあさ、過去に戻った後、今日、この日にまた会うようにしてくれれば良いんじゃね?」
「それが二つめの願いか」
「そう」青年はあっさり言った。「三つめの願い事はその時にでもする、って事でどう?」
 魔神はしばし考え、それが願いならばそうしようと請け合った。
 そして青年は記憶を保持したまま、自分の過去に遡る。
 こうして、幼い体を持った青年が、幼稚園時代に現れた。
 青年、いや、子供に戻った彼は、運動神経はともかく、秀才として持て囃される事となる。
 さらには初恋の相手に子供染みたイタズラをせず、ストレートに自分の気持ちを伝え、優秀さもあって交際が始まった。
 しかも、思いがけないことに、この幼稚園児特有の頭脳、つまり柔軟性を持った脳が、勉強をするために役立った。
 要は残った記憶との相乗効果もあり、彼の才能はめきめきと頭角を表したのである。
 そうして、彼は問題なく進級をし、超一流の国立大学へと進学もし、周りには女の子が集まり、公私とも順風満帆な生活を送っていた。ように思われた。
 しかし━━
 二つめの願い事を叶える時が来た。
 魔神が青年の前に再び現れたのである。
「約束だ、やって来たぞ」魔神が言う。「三つめの願い事はなんだ?」
「あの、さ」青年は頭を掻きながら、気まずそうに言う。その口振りには、以前のようなぞんざいさがない。「言いにくいんだけど……」
「どうした」
「今、かなりの就職難でね、この国一番の大学に通っている俺でも、就職先が見つからない。成績が良い分、プレッシャーが酷くて、正直、今とっても悩んでる」
「では三つめの願いは安定した会社への就職と言うことで良いのかな?」
 青年は魔神の言葉に頭を振る。
「安定した会社に就職したって、先が見えてる。レールの上を走るなんて、考えただけでも億劫だよ。ああ、昔みたいにちゃらんぽらんな生活が懐かしい」
「では」魔神が口を挟む。「元の生活に戻そうか」
 青年は慌てて手を振った。
「やめてくれ、ただの愚痴だよ、愚痴。言ってみただけだ」
「ならば三つめの願い事はどうするのだ」
「起業したい」
「会社を始めるのか? こういった場合、だいたいの人間は働かなくても済むような金を要求するのが普通なのだがな」魔神は続ける。「なるほど、起業した会社が儲かるようにして欲しいという願いだな」
「それじゃつまらないだろうそれこそレールの上を走る代名詞みたいなもんだ」即座に青年は否定した。「こんな時代だからこそチャンスだと思うんだ。だけど起業するにあたっての妙案が浮かばない。そこで、アイデアが欲しいんだ」
「アイデアだけで良いのか?」
 魔神の言葉に青年が頷く。
「そこそこのアイデアで良いんだ。そのくらいのアイデアをもらったら、後は俺の実力で勝負してみたい」
 希望の光を宿した青年の目を見て、魔神はその変わり様の衝撃と共に、久し振りにまともな人間の姿を見た感動を味わった。
  

 メメクラゲを探していたら、クラムボンを見つけてしまった。
 クラムボンを、どう表現したらいいのだろう。
 それはもう、かぷかぷしていたのだけれど、かぷかぷ笑っていたのだけれど……。
 ━━とにかく、かぷかぷしていたよ!
  

 カンカンカンカンカンカンカンカンカン
 長い、踏切。
 電車の通過量と待ち時間の配分がおかしいのか。
 五分に二台くらいしか通らない。
 まぁ、どうでも良い。
 今は、ただ、めんどくさい。
 カンカンカンカンカンカンカンカンカン
 昨日は疲れた。
 彼と喧嘩し、眠れなかった午前二時。
 いつもなら、すぐに謝りのメッセージが届くのに。
 おかげで、かなりの寝不足だ。
 カンカンカンカンカンカンカンカンカン
 今日は、ケータイに電話をしようかメールを送ろうか、どうしよう。
 いっそのこと、連絡しないで、放っておくか。
 でも、だけれど、きっと━━
 いつだって、理由は私にあるのだ。
 なのに、いつだって謝るのは彼からだ。
 リストバンドの下にある傷が疼く。
 カンカンカンカンカンカンカンカンカン
 やはり、私は重荷、なのだろうか。
 今回こそは、素直になって……でも、きっとまた向こうから。
 こう考える私は、彼を信じていると言うより、依存してしまっているのではないだろうか。
 イヤだ厭だ嫌だ、考えたくない、頭が重い、めんどうくさい。
 朝から大事な会議があるのだ。
 テンテンテンテンテン
 あれ? 踏切の音が変わった?
 カンカンカンカンカンカンカンカンカン
 ……気のせいだったようだ。
 カンカンカンカンテンテンカンカン
 ああ、カンカン鳴っていると言うのは、人間の声帯や文字に制限があるからか。
 本当にはカンカンとも、テンテンとも、鳴っていないのだ。そう聞こえるとインプットされている。
 要は思い込み、か。
 だから、さっきは戸惑ったのだろう。
 鳥の鳴き声や、犬の鳴き声だって国によって違う。狂言での犬は「びょうびょう」と鳴くらしいから、時代によっても違うのか。
 なら、擬音は人間の表現できる限界。本物の音に負けた証。
 現実への、ささやかな抵抗。
 カンテンカンカンカンテンテン
 でも、なんでだろう。
 いつもはこの踏切の警告音は、けたたましく耳障りなノイズにすぎなかったのに、今は少し優しく聞こえる。
 変なことを考えていたせいなのだろうか。
 人間の限界を越えた音のリズムが快い。
 カンカンカンテンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンテンテンカンカンカンカンカンカンカンカンテンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンテンテンテンテンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンテンテンテンカンカンカンカン
 頭が重い。
 限界━━私の限界。
 私と彼との限界。
 もう、考えたくない。
 カンテンカンカンカンテンテン
 ━━誘われてる、気がした。
 カンテンカンカンカンテンテン
 ……でも、どこへ?
 カンテンカンカンカンテンテン
 分からない。でも、
 ……でも、行かなくちゃ。
 黄色と黒の縞模様。
 そのバーを掴み上げた、その先に。
  

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