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空の青さが、やけにムカツク

『揺れるココロ、と高鳴るドウキ』__完全自作の小説・詩・散文サイト。携帯からもどうぞ。
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 彼女の指は白魚のよう。ピチピチと携帯のタッチパネルを操作する。
 ブラウンの入った瞳はピータンみたいで、それを包む青みがかった白眼は爽やかそうなゼリー。どちらも薄い涙に濡れて、みずみずしい張りがある。
 耳たぶは柔らかそうで丸みを帯びている。リングのピアスが光を反射し、まるで剥き身にされた貝からしたたる水滴に見える。
 筋の通った鼻は適度に高く、小鼻と影のできた鼻の穴が、なぜか海老を連想させる。
 ふんわりと微笑んだ彼女の頬は、生気にみなぎりほんのり赤い。盛り上がったその部分は、上品な甘さを含んだ和菓子のようだ。
 厚く、健康的な唇は一対のハバネロ。そこからのぞく白い歯は、きれいに並んだ小粒のホワイトチョコレートさながら。
 茶色い髪にボブカット。ストレートな髪質はモンブランケーキのムース。
 蒸かした男爵芋のような体温を持った膝から伸びる、しなやかな脛は、茹でた鶏のササミのよう。
 レースのショーツに包まれたヒップは歯ごたえ優しい桃。
 ブラジャーのカップに収められた胸は、きっと上質なミルクプリンに違いない。
「失礼しました」彼女は雛鳥のような声を発して詫びる。
 そうして戸惑った仔羊の動きで動揺し、携帯をしまう。

 わたしの脂ぎった腹が鳴る。
 ――美味そうだ。
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 情報、漏洩、クレジットカード

 ゲーム、リセットボタン、猫。

 携帯電話、水没。

 暗闇、顔面、蜘蛛の巣。

 壁、爪痕。

 押し入れ、染み。

 洗顔、洗髪、背後。

 排便、肛門、ゴキカブリ。

 キタキツネ、エキノコックス。

 皮膚、昆虫、産卵。

 爪、指、針。

 目、剃刀。

 擦り傷、紙ヤスリ。

 ペットボトル、詰め替え薬品、誤飲。

 プレス機、誤作動、圧力。

 エレベーター、ロープ、切断、落下。

 入浴、漏電。

 ガソリンスタンド、静電気、炎、臭気。

 刃物、内臓、失血。

 膨張、浮上、溺死体。

 死体、時間、虫。

 メルトダウン、暗愚、無能、政府、数年後、数十年後。
  

 ぬいぐるみに、自分の名前を書いた一枚のノートを押し付け、部屋の壁にサンドした。
 真新しい包丁を構える。
 狙いを定めて、私は突いた。
 くすんだ刃に光がにじむ。
 手応えはノート、布切れ、綿、布切れ、壁紙、そして木造の壁。
 思ったよりも簡単だった。簡単すぎて、少し不安になった。
 包丁から手を放しても大丈夫だろうか。
 躊躇した後、もう一押し。それから手を放した。
 包丁は自立して、壁と垂直に刺さっている。
「良し」
 ペティーナイフを取り上げる。
 深呼吸をした。
 頭の中が雑念で飽和して、私の身体以上に自分自身への憎悪で満たされ汚染されていく。同時に高揚した不快感が膨らみ、耐え難いほど部屋いっぱいに負の圧力がみなぎってくる。
 私はその瞬間、小さなナイフを持つ手をどう動かしたのか覚えていない。ただ手に伝わる感触と空気を裂く音が、やけに遅れて感じられた。
 見ると、ぬいぐるみの片耳は千切れて無くなり、目の役割を果たしていたボタンは両方とも失われていて縦横に裁断されたノートは破片を撒き散らしぬいぐるみの四肢や胴体からはハラワタのような綿が顔を出し頭からは脳みそみたいにはみ出ていて後ろの壁紙にも呪いの爪痕のような刺し傷切り傷が穴を開けている。
 放心した私には、壁紙の傷に糾弾されているのではないかと感じられた。
「私たちに罪は無いのに。罪があるのはあなただけのハズなのに」そんなメッセージ。
 罪。
 私の罪。
 私だけの罪。
 それは私が見た一瞬の夢、幻。希望に思えた我欲の塊。
 私は生きているだけで幸せなのだ。それ以上の幸福など認められない罪深き存在。
 私の目に写る幸福は、誰かのもの、他者のもの。勘違いをしてはいけない。それは私に眩しすぎる。それを求めては罰があたる。
 もっと自重すべきなのだ。もっと卑屈に道を行き低劣な物を食い俗に染まった生き方を。私に合った生活を。
 包丁を投げ捨て、ぼろぼろのノートを改めてぬいぐるみに貼ると、私の心と同じく不具者となった、私の分身を優しく胸に抱き、少し色褪せた暗がりの中に横たわった。

 そして罰。
 甘んじて受け入れるべき罰。

 もう、季節は初夏になっている。
 興奮から冷めた汗が、剥き出しの綿と混じる。不快感。しかし私にとって、それはひどく愛おしい。この悪臭にまみれた場所が、今の私にとって、唯一の安住の地。何故なら私への罰は、永遠に自らの世界へ閉じこもり、命を浪費し、少しでも長く生きる事だから。
  

 殴られた衝撃で、アキラの眼球が飛び出した。そのまま彼はビールケースに顔面を強打し、立ち上がった時には、かろうじて視神経の束のみで目玉は体の一部であった。
 けれどそれも一瞬のこと。混乱したアキラは自分の状況を把握できないまま、のたくったので、振り回された眼球は路地裏のコンクリートにぶつかり、結果的に水晶体から体液が漏れ、レンズ体が歪み、視覚という重要な機能を壊滅的なまでに損なった。
 田舎町のキングであったアキラ、突然の裏切り、部下による警察との汚職や敵対チームとの癒着。
 すべてが明らかになった時には、もうすべてが遅かった。
 痛み、右目の損失、部下の裏切り、談合による計画的排除、様々なパニックがアキラを襲う。
 しかし混乱は役にたたない。むしろ行動を制限し活動域を萎縮させる。
 保身のために路上で丸まるアキラ。
 けれど攻撃は容赦なく、鉄板入りの安全靴が脇腹に食い込む。吐き出される空気。呼気を求めて喘いだ頭をスパイクで踏みつかれる。鈍い音がして、鼻軟骨が折れたのが分かった。鼻血が地面に広がる。ようやくつながっていた視神経もここにきて断裂し、眼球が転がった。
 アキラの眼球を誰かが笑いながら摘み、落とし、タバコの火を消す日常的な軽いしぐさで、それを踏み潰した。
 アキラのバラけていた思考回路が、屈辱にまみれた暴力的復讐に収斂される。
 彼は怒力に任せて立ち上がり、睥睨した。
 片目を失い、眼窩からは涙と血に混じった粘性のある体液がこぼれ、潰れた鼻からほとばしる血液も尋常ではない。
 暴行を加えていた者達も、アキラの気迫に圧倒され、一歩二歩と後ずさる。
 アキラはボクシング型のファイトスタイルをとる。しかし片目を失い、距離感が掴めない。が、それでも彼には意地があった。一矢を報いて、前のめりに散ろうとする、敗者に許されたただ一つのプライドというものが。
 息を整え、軽いステップ。バランス感覚を少しでも取り戻し、関節や筋肉等の肉体的ダメージを確認する。
 アキラは不敵な笑みを浮かべた。胸中にこだまする言葉はひとつ「もう駄目だ」それでも笑っている自分。決して楽観視しているどころか、最悪のシナリオが頭を巡るのに、この感情はなんだろう。
 逃げなかった自分、最後の自己満足? いや、そんなちっぽけな所すら通り抜けた、清々しい何かだった。
 数時間、いや、数十後に彼の命は終わるだろう。事実、そうなった。翌日の新聞では数々の事件に埋もれた中の、小さな記事として、数行で扱われた。
 アキラが感じたのは、クソッたれた人生からの脱却を予見したゆえの恍惚感かもしれない。それまでの奔放な生き方への肯定、決して後悔などしないという意志の現れかもしれない。
 いつだって強者は弱者になりえり、弱者も強者になりうる可能性を含んでいる。
 でも、真の強者はいつだって孤独だ。アキラは部下達の裏切りにより、本当の彼らと触れ合えた気がしたのかもしれない。
 いや、アキラ自身にも分からなかったのだ、すべては蛇足だろう。 最後に、アキラが笑った。それだけが救いであり、真実なのであった。
  

【ある新聞記事】
 ——さん(14歳)が、××区にて殺害された。犯人は直ぐさま逮捕。動機は「むしゃくしゃしてやった、相手が誰だろうと関係ないと思った」と供述している。

【あるテレビニュースショー】
 リポーター「——さんは、この壁に背を向け、素手で犯人に抵抗したのです。持っていた携帯電話で警察に連絡をしたのですが、しかし無情にも犯人はその携帯電話を取り上げ、彼女を刺殺しました」
 メインキャスター「まったく、これからという未成年に対し、こういった犯罪が後を絶えませんねぇ。しかも自分勝手で短絡的な動機という、これでは被害者も浮かばれません」
 コメンテーター「まったくです。同様の事件というは今までも多く、亡くなった家族の心情には計り知れないものがあるでしょう」

 数日後。

【あるテレビニュースショー】
 リポーター「——さんが、今の医療界では治らない病にかかっていた事が分かりました。しかも彼女の余命は半年、病と戦い、これを受け入れ、静かな生活を送ろうとした矢先の事件だったのです」
 メインキャスター「それひどいですねぇ」
 リポーター「そうなんです。死と向き合い、それを克服し、これから生への決意を固めたという時に、彼女は不幸にも事件に遭遇してしまったのです」
 コメンテーター「あらぁそうなの、お可愛そうにねぇ。私にも同じ年頃の娘が居るから、残されたご両親のお気持ちが分かりますわぁ」
 リポーター「そうなんです。せっかく死を乗り越え、家族皆さんで協力していた矢先の事ですからね」

 数週間後

【あるテレビニュースショー】
 リポーター「——さんが亡くなった事件を風化させないためにも、この悲劇を映画化しようという動きがありまして——」

【ある雑誌の記事】
 ——さん(14歳)が亡くなった事件について、映画制作会社と被害者家族との確執が露わになった。
 家族としては、今後、今までについての苦悩を忘れたいという意見が上がったのだ。
 それに対し、映画制作会社の意見は真っ向から対立している様子である。

 一年後。

【ある雑誌の記事】
 約一年前、——さん(当時14歳)が凶器に倒れた事件が、この度、映画化される事に決まった。
 映画制作会社からの熱心な態度が遺族の心を促したのだろう。キャスティングとしては、今、若手ナンバーワンとの呼び声の高い新人女優の——

 一年と数ヶ月後

【あるテレビニュースショー】
 リポーター「まずは映画公開記念、おめでとうございます。この度の役にあたって苦労された部分はありましたか?」
 主演女優「そうですね、やっぱり病気を克服する場面が難しかったですね。自分だったらどうするかなとか、どういう気分だったのかなとかですとか。それと一番大変だったのが最期の場面ですね、どんな気持ちで亡くなったのかなって。それが一番大変でした」

 その後、彼女の関連本が出版され、家族の手記も制作された。
 しかし、印税やら映画化にあたっての金銭トラブルやらが遺族と出版社、映画配給会社の間で表面化し、裁判沙汰になるまでに発展。
 その後も話題として、何度もマスコミを賑やかしたという。
  

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