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空の青さが、やけにムカツク

『揺れるココロ、と高鳴るドウキ』__完全自作の小説・詩・散文サイト。携帯からもどうぞ。
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 ぬいぐるみに、自分の名前を書いた一枚のノートを押し付け、部屋の壁にサンドした。
 真新しい包丁を構える。
 狙いを定めて、私は突いた。
 くすんだ刃に光がにじむ。
 手応えはノート、布切れ、綿、布切れ、壁紙、そして木造の壁。
 思ったよりも簡単だった。簡単すぎて、少し不安になった。
 包丁から手を放しても大丈夫だろうか。
 躊躇した後、もう一押し。それから手を放した。
 包丁は自立して、壁と垂直に刺さっている。
「良し」
 ペティーナイフを取り上げる。
 深呼吸をした。
 頭の中が雑念で飽和して、私の身体以上に自分自身への憎悪で満たされ汚染されていく。同時に高揚した不快感が膨らみ、耐え難いほど部屋いっぱいに負の圧力がみなぎってくる。
 私はその瞬間、小さなナイフを持つ手をどう動かしたのか覚えていない。ただ手に伝わる感触と空気を裂く音が、やけに遅れて感じられた。
 見ると、ぬいぐるみの片耳は千切れて無くなり、目の役割を果たしていたボタンは両方とも失われていて縦横に裁断されたノートは破片を撒き散らしぬいぐるみの四肢や胴体からはハラワタのような綿が顔を出し頭からは脳みそみたいにはみ出ていて後ろの壁紙にも呪いの爪痕のような刺し傷切り傷が穴を開けている。
 放心した私には、壁紙の傷に糾弾されているのではないかと感じられた。
「私たちに罪は無いのに。罪があるのはあなただけのハズなのに」そんなメッセージ。
 罪。
 私の罪。
 私だけの罪。
 それは私が見た一瞬の夢、幻。希望に思えた我欲の塊。
 私は生きているだけで幸せなのだ。それ以上の幸福など認められない罪深き存在。
 私の目に写る幸福は、誰かのもの、他者のもの。勘違いをしてはいけない。それは私に眩しすぎる。それを求めては罰があたる。
 もっと自重すべきなのだ。もっと卑屈に道を行き低劣な物を食い俗に染まった生き方を。私に合った生活を。
 包丁を投げ捨て、ぼろぼろのノートを改めてぬいぐるみに貼ると、私の心と同じく不具者となった、私の分身を優しく胸に抱き、少し色褪せた暗がりの中に横たわった。

 そして罰。
 甘んじて受け入れるべき罰。

 もう、季節は初夏になっている。
 興奮から冷めた汗が、剥き出しの綿と混じる。不快感。しかし私にとって、それはひどく愛おしい。この悪臭にまみれた場所が、今の私にとって、唯一の安住の地。何故なら私への罰は、永遠に自らの世界へ閉じこもり、命を浪費し、少しでも長く生きる事だから。
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