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空の青さが、やけにムカツク

『揺れるココロ、と高鳴るドウキ』__完全自作の小説・詩・散文サイト。携帯からもどうぞ。
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 ぷっつりとは簡単に切れなかった。
 滲み出た血や体液みたいなもので粘ついていたのか、それとも包丁が滑ったのか。
 血管はこりこりっと刃を逃れ、やっと切れ目が入ったのだ。その音はどこか湿っぽくて、ぷっつりというよりも、ぷつるりという音だった。
 ぷつにゅるり、みたいな感じもしたが、伸びた管は、一旦、切れ目が入るとすんなり裂けたので、やはり、ぷつるりという感触が一番合っているような気がした。

 彼女がリストカットをしたのは、これで三度目だ。
 一度目は手首に包丁の先端を突き刺したのだが、骨に邪魔され失敗した。
 前回は傷が浅すぎ、親に発見されて全治一週間の怪我で済んだ。
 今度はしくじりたくなかったので、タオルを噛み、肘の付け根を紐で縛って血管を浮かせた。手首を氷水で冷やし、感覚も鈍くしておいた。

 重要なのは静脈ではなく動脈。それを探っているうちに、痛みはいつしか快感を伴った。
 ぷつるりと動脈が切れた瞬間には、薄氷のような笑みが顔に浮かぶ。
 溜めた水に傷口を浸す。
 赤黒い血が透明な水を汚していく。
 出血による脱力感が心地好い。
 突然の目眩。
 暗転する景色。
 足元が覚束なくなり、よろめき倒れた。

 数時間後、彼女は病院のベッドで気が付いた。
 主治医の名には、母親の名前が書いてある。
 そう、彼女の母親は外科医なのだ。
 嫌だなと彼女は思う。
 主治医である母親は、彼女に様々な質問をした。
 彼女は正直に答える。
 しかしなぜ何度も手首を切るのかといった質問には答えが詰まった。
 考えても分からなかったのである。
 けれど、母親が去り際に放った一言で、手首を切った理由が分かったような気がした。
 母親は、彼女にこう言ったのだ。
「どうせ血を流すなら、献血でもしてくれれば良かったのに。あんたへの輸血だってタダじゃないんだから」
 それは場を和ませるための軽口だったのかもしれなかったが、彼女にはもちろん、そんな風に捉えることはできなかった。
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