俺は普段から大言壮語を吐くが、それは場の雰囲気が盛り上がったための、浮わついた気持ちでしかない。
つまり俺という人物はお調子者で、そのくせ大したことの出来ない男である。
いざという時には何も出来ないのだ。心が萎縮してしまう。
そんな俺は今、途方もない恐ろしさに駆られている。
俺はカーブの多く狭い道を走っているのだが、真後ろの車が煽り運転をしているのだ。
まるでトムソンガゼルを襲うトラかライオンみたいに。
困った事に、相手は短距離を走る野獣ではなく、車体に派手な塗装を施して意気がっている追跡者であるという事だった。
時速は60キロを維持している。車間距離は数十センチ。俺はこの速度のままカーブを曲がり、そのたびに冷や汗が流れる思いがする。しかし相手はお構い無しだ。
怖い。
とても怖い。
事故でも起こしたらどうしよう。
怪我をするだろうな。
痛いだろうな。
死んじゃうかも知れないな。
ああイヤだ。
そういえば、この道にはパトカーが潜んでいるとう噂だ。なのに、こんな時に限って、どうして居ないのだろう。
━━パトカーか。
もし見つかったら、どちらの罪が重いのだろう。速度超過の俺だろうか。いやいやいや、危険運転規制法に照せば後ろの車の方が悪いに決まってる。
パトカーが張ってないならいっそ……携帯から通報してやろうかとも思う。
しかし運転中の携帯電話は使用禁止のはず。
想像してみる。
俺「あの、今、危険な道路で煽り運転されて困っているんですけれど」
警官「はいもしもし。貴方は今、後続の車からある種の妨害を受けているんですな」
俺「そうなんです。もうどうしたら良いのか分からなくて」
警官「今はどんな状況なんですか」
俺「ですから車に━━」
警官「いやいや、そうではなくて、どこの道を走っているのかとかいう情報が聞きたいんですわ。こちらとしましてはね」
俺「あ、この道、あれです━━おっとカーブが━━」
警官「あれ、あんたもしかして電話しながら運転してる? そりゃ良くないなぁ」
なんて事になったりはしないだろうか。
しかし今は緊急事態である。命がかかっている。いや、確かに携帯を使用しての事故は確かにあるのだが……しかし!今は一刻を争う事態である。
俺は意を決して携帯電話を掴み、バックミラーを一瞥する。
「あっ」思わず叫んだ。
いつの間にやら車は消えていた。
ゆるゆると速度を落として停車する。
木立の向こうに走る車のライトが見え隠れしていた。
なぁんだ、あんな所に脇道があったのか。
安心した俺は一息吐くと、車を発車させた。
カーブの多い道が終わり、緊張と恐怖心から解放された俺は、気分良く車を走らせる。
ここからは一本道。道幅も広く爽快。気持ちが大きくなる。
うん。
いつも通りの俺だ。俺に戻った
安心したのも束の間、遠くで赤い光が点滅する。
制服を着た男が警棒を持って誘導する。
「駄目だよ、いくらカーブから解放されたからって、そんなにスピード出しちゃあね」
言うまでもなく、男は交通課の警官だった。
「いや、これには理由がありまして」
「皆そう言うの。まったく参っちゃうね。でも規則は規則、ちゃんと守らないと。法定速度よりも30キロオーバーだよ」
「あの」俺は悔しさを隠せず愚痴をこぼす。「いつものカーブで張ってなかったんですか」
「ああ、それね」警官は素知らぬ顔して書類を取り出した。「さすがにあそこはバレてるからね、気の緩んだこっち側で張る事にしたんだよ。お巡りさんだって考えてるんだからね」
肝心な時に頼りにならない。俺は口の中が乾いていた。まるで砂を口いっぱいに頬張っているような気分の中に陥った。
つまり俺という人物はお調子者で、そのくせ大したことの出来ない男である。
いざという時には何も出来ないのだ。心が萎縮してしまう。
そんな俺は今、途方もない恐ろしさに駆られている。
俺はカーブの多く狭い道を走っているのだが、真後ろの車が煽り運転をしているのだ。
まるでトムソンガゼルを襲うトラかライオンみたいに。
困った事に、相手は短距離を走る野獣ではなく、車体に派手な塗装を施して意気がっている追跡者であるという事だった。
時速は60キロを維持している。車間距離は数十センチ。俺はこの速度のままカーブを曲がり、そのたびに冷や汗が流れる思いがする。しかし相手はお構い無しだ。
怖い。
とても怖い。
事故でも起こしたらどうしよう。
怪我をするだろうな。
痛いだろうな。
死んじゃうかも知れないな。
ああイヤだ。
そういえば、この道にはパトカーが潜んでいるとう噂だ。なのに、こんな時に限って、どうして居ないのだろう。
━━パトカーか。
もし見つかったら、どちらの罪が重いのだろう。速度超過の俺だろうか。いやいやいや、危険運転規制法に照せば後ろの車の方が悪いに決まってる。
パトカーが張ってないならいっそ……携帯から通報してやろうかとも思う。
しかし運転中の携帯電話は使用禁止のはず。
想像してみる。
俺「あの、今、危険な道路で煽り運転されて困っているんですけれど」
警官「はいもしもし。貴方は今、後続の車からある種の妨害を受けているんですな」
俺「そうなんです。もうどうしたら良いのか分からなくて」
警官「今はどんな状況なんですか」
俺「ですから車に━━」
警官「いやいや、そうではなくて、どこの道を走っているのかとかいう情報が聞きたいんですわ。こちらとしましてはね」
俺「あ、この道、あれです━━おっとカーブが━━」
警官「あれ、あんたもしかして電話しながら運転してる? そりゃ良くないなぁ」
なんて事になったりはしないだろうか。
しかし今は緊急事態である。命がかかっている。いや、確かに携帯を使用しての事故は確かにあるのだが……しかし!今は一刻を争う事態である。
俺は意を決して携帯電話を掴み、バックミラーを一瞥する。
「あっ」思わず叫んだ。
いつの間にやら車は消えていた。
ゆるゆると速度を落として停車する。
木立の向こうに走る車のライトが見え隠れしていた。
なぁんだ、あんな所に脇道があったのか。
安心した俺は一息吐くと、車を発車させた。
カーブの多い道が終わり、緊張と恐怖心から解放された俺は、気分良く車を走らせる。
ここからは一本道。道幅も広く爽快。気持ちが大きくなる。
うん。
いつも通りの俺だ。俺に戻った
安心したのも束の間、遠くで赤い光が点滅する。
制服を着た男が警棒を持って誘導する。
「駄目だよ、いくらカーブから解放されたからって、そんなにスピード出しちゃあね」
言うまでもなく、男は交通課の警官だった。
「いや、これには理由がありまして」
「皆そう言うの。まったく参っちゃうね。でも規則は規則、ちゃんと守らないと。法定速度よりも30キロオーバーだよ」
「あの」俺は悔しさを隠せず愚痴をこぼす。「いつものカーブで張ってなかったんですか」
「ああ、それね」警官は素知らぬ顔して書類を取り出した。「さすがにあそこはバレてるからね、気の緩んだこっち側で張る事にしたんだよ。お巡りさんだって考えてるんだからね」
肝心な時に頼りにならない。俺は口の中が乾いていた。まるで砂を口いっぱいに頬張っているような気分の中に陥った。
PR
この記事にコメントする
Re:無題
やったー!
「交通ルールは守ろうね」とか「警察って肝心な時に云々」とかは全然考えなくて、映画「激突」をパロディ化してみたのです。
どうやら上手く出来たみたいで嬉しいです(^_^)v
「交通ルールは守ろうね」とか「警察って肝心な時に云々」とかは全然考えなくて、映画「激突」をパロディ化してみたのです。
どうやら上手く出来たみたいで嬉しいです(^_^)v