世界は輪郭を失って、マーブル模様に混じっている。
私の視点を中心に、時にはいくつかの渦を造って。
ベッド脇のまどから見える街角は、段段と空の青さに侵食されていく。
空が大きすぎるせいだろう。
田舎のサナトリウムは退屈すぎる。
雲の白が青に混じり、太陽は歪んで原型を留めていない。
眩しくて、眼が傷んだ。
寝転がる。
天井のパネル模様が、すぐさま混じりだす。
クリームに輪郭の黒が撹拌されていく。
剥き出しの蛍光灯はぐにゃりと曲がり、S字になってU字になって、丸になる。青白い光の輪は天使の輪、エンジェルハイロウにも見える。けれどそれも一瞬のことだ。すぐに球体状に変化して、木星の斑点のようにぐずぐず溶ける。
端に見えるカーテンも、破れるというより、フィルムが炎に焼かれるようにして穴がぽつりぽつりと開いていく。
頭の中がぐるぐる回って気持ちが悪くなってきた。
こっそり入手した幻覚剤。
これを止めるためにサナトリウムへ入ったというのに、このザマだ。止められない。
久し振りに薬を喰ったせいか、今の私には、この景色が不快でしかない。
目をつむる。
しかし目蓋を透過した光のせいで、私の視界は安らげない。黒ずんだ赤い血液が網膜に映る。
手を眼窩に押し付ける。
目蓋の裏には白っぽいノイズが走り、次いで緑の光が浮かんでくる。
手に力が入りすぎたのだろう。
もちろん白いノイズも緑の色も、目蓋の裏で渦巻き始め、赤黒い血の色を背景にして、そこここマーブル模様が乱立していく。
私に安息は訪れないのか。
少なくとも、幻覚剤が切れるまで。
自業自得。
分かっていても、手が伸びる。私はいずれ、また薬を求めてしまうのだろうか。
背筋に脂汗が滲む。
怖くなった。
初めは遊びだったのに。
いつからこれ程にまで深入りしてしまったのだろう。
いつでも止められる、そう思っていた。
自分は依存性になどならない、その自信があった。
けれど結果的にそうした慢心が、甘えと心の隙を作ったのだろう。
ああ、このマーブル世界から抜け出すためには、眠るが自殺するしかない。
しかしこの施設には自傷の恐れがある物は没収されることになっている。
私は、惰眠に逃げようとした。
だが、このような状態で眠れるわけがない。
幻覚剤のせいで交感神経も苛立っている。
眠ることを諦め、私は再び窓外に視線を向ける。
雲は、いつの間にか消えていた。
太陽も傾き、その位置はサナトリウムの裏側へと回っている。
知らぬ間に寝ていたのだろうか。冷めた昼食がベッドサイドに置いてある。
嫌、違う。薬の作用で時間の感覚を狂わされていたのだろう。
体の動きも鈍い。
思考に残る、この気怠さも鬱陶しい。
青い空が私の目を射抜く。
夕方までには、まだ時間がある。
私は空を見続けている。
青さだけを目に刻む。
青一色。
そのはずなのに、青の濃度は空の高さによって微妙に違う。
私の視線は混乱したままだ。
サイケデリック・ブルー。
この世界に溺れていたい。
その青さに甘えていたい。
刹那、そう思う。
けれどそれは同時に苦痛を伴う物だ。
甘えと苦しみと迷いの下で、私は一体どこへ行こうとしているのだろう。
誰か、教えてくれ。
お願いだ。
誰でも良いから、私をここから救ってくれ。
私の視点を中心に、時にはいくつかの渦を造って。
ベッド脇のまどから見える街角は、段段と空の青さに侵食されていく。
空が大きすぎるせいだろう。
田舎のサナトリウムは退屈すぎる。
雲の白が青に混じり、太陽は歪んで原型を留めていない。
眩しくて、眼が傷んだ。
寝転がる。
天井のパネル模様が、すぐさま混じりだす。
クリームに輪郭の黒が撹拌されていく。
剥き出しの蛍光灯はぐにゃりと曲がり、S字になってU字になって、丸になる。青白い光の輪は天使の輪、エンジェルハイロウにも見える。けれどそれも一瞬のことだ。すぐに球体状に変化して、木星の斑点のようにぐずぐず溶ける。
端に見えるカーテンも、破れるというより、フィルムが炎に焼かれるようにして穴がぽつりぽつりと開いていく。
頭の中がぐるぐる回って気持ちが悪くなってきた。
こっそり入手した幻覚剤。
これを止めるためにサナトリウムへ入ったというのに、このザマだ。止められない。
久し振りに薬を喰ったせいか、今の私には、この景色が不快でしかない。
目をつむる。
しかし目蓋を透過した光のせいで、私の視界は安らげない。黒ずんだ赤い血液が網膜に映る。
手を眼窩に押し付ける。
目蓋の裏には白っぽいノイズが走り、次いで緑の光が浮かんでくる。
手に力が入りすぎたのだろう。
もちろん白いノイズも緑の色も、目蓋の裏で渦巻き始め、赤黒い血の色を背景にして、そこここマーブル模様が乱立していく。
私に安息は訪れないのか。
少なくとも、幻覚剤が切れるまで。
自業自得。
分かっていても、手が伸びる。私はいずれ、また薬を求めてしまうのだろうか。
背筋に脂汗が滲む。
怖くなった。
初めは遊びだったのに。
いつからこれ程にまで深入りしてしまったのだろう。
いつでも止められる、そう思っていた。
自分は依存性になどならない、その自信があった。
けれど結果的にそうした慢心が、甘えと心の隙を作ったのだろう。
ああ、このマーブル世界から抜け出すためには、眠るが自殺するしかない。
しかしこの施設には自傷の恐れがある物は没収されることになっている。
私は、惰眠に逃げようとした。
だが、このような状態で眠れるわけがない。
幻覚剤のせいで交感神経も苛立っている。
眠ることを諦め、私は再び窓外に視線を向ける。
雲は、いつの間にか消えていた。
太陽も傾き、その位置はサナトリウムの裏側へと回っている。
知らぬ間に寝ていたのだろうか。冷めた昼食がベッドサイドに置いてある。
嫌、違う。薬の作用で時間の感覚を狂わされていたのだろう。
体の動きも鈍い。
思考に残る、この気怠さも鬱陶しい。
青い空が私の目を射抜く。
夕方までには、まだ時間がある。
私は空を見続けている。
青さだけを目に刻む。
青一色。
そのはずなのに、青の濃度は空の高さによって微妙に違う。
私の視線は混乱したままだ。
サイケデリック・ブルー。
この世界に溺れていたい。
その青さに甘えていたい。
刹那、そう思う。
けれどそれは同時に苦痛を伴う物だ。
甘えと苦しみと迷いの下で、私は一体どこへ行こうとしているのだろう。
誰か、教えてくれ。
お願いだ。
誰でも良いから、私をここから救ってくれ。
PR