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空の青さが、やけにムカツク

『揺れるココロ、と高鳴るドウキ』__完全自作の小説・詩・散文サイト。携帯からもどうぞ。
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 加害者の一人として呪われた父親は、書斎で写真を見つめていた。
 中央には数年前の若い彼。両脇には二人の青年。そして最後にもう一人、世界を呪った末子である少年が彼の腕に抱かれていた。
 なぜ、こんな苦しみを味わわねばならいのだろう━━
 彼は熱砂の中で佇んでいるような感覚に包まれていた。
 写真の右、つまり彼の左側に立つ青年は、彼の長子である。二十代半ば、大手弁護士事務所に勤め、ようやく一人前になって頃だろうか。長男は手の掛からない、真面目で優秀な子であった。けれどその実直ぶりに、彼は弁護士としての駆け引きの脆さと人情に流されやすい押しの弱さが気になっていた。だから━━だからあえて、彼は自分の個人弁護士事務所に迎え入れず、自らの古巣へと長男を預けたのである。
 次に、三男を抱えた彼を挟んで立つ次男。当時、大学生だったこの息子は、講義をサポタージュして悪友連と夜な夜な街へ繰り出していた。良くこの時に写真を拒まなかったものだと不思議に思う。実際、この日の顔色は、前日の酒が抜け切れていないせいか良くはない。或いは、ただ悪ぶっていただけかもしれないけれど。反抗期は過ぎたものの、この頃でも次男は彼に反発していた。実直に過ぎる兄への反抗心もあったのかもしれない。しかし今ではこの子も弁護士資格を取り、彼の事務所で片腕として働いている。親に対する斜に構えたその姿勢が、彼にとっては危うくもあり、同時に過ちを修正する指摘者にもなっている。
 そして、二人の兄と十歳以上離れた三男。
 写真に見える三人目の息子は、まだ小学生の幼い顔をしている。
 歳経て出来た子は、やはり可愛いものであった。
 彼はこの三番目の子供を一番に愛し、結果、恨まれた。
 この写真の数年後、中学へと進学してから、息子は急変してしまったのだ。
 目を見ない。
 話さない。
 顔を見せない。
 いや、それより何より自室を出ない。
 完全なる引き籠り。すべてを内に秘めてしまった。
 理由も分からず困惑した彼は初め、妻を詰った。
 狼狽していた妻は泣き、嘆き、逆に彼を批難し、沈黙した。
 夫婦は何もしなかったわけではない。閉ざされたドアに向かって、時には叱咤し、激励をした。
 だが、何の効果も見られなかったのだ。
 二人は日日喧嘩し、和解し、泣き合った。
 答えの見えない問題は━━実は見せ掛けに過ぎなかった。
 彼は、とうに知っていたのである。
 その答えを。
 しかしそれから目を背け、否定していたのだった。
 ━━彼の息子、三男は、この世に生を受けたことを恨まんでいるのだということに。
 彼がその答えと対峙するのに、何年かかったことだろう。
 しかし彼は、ついに答えを受け入れ、途端に戦慄した。
 なぜならば、その答えは彼がドア越しに説得していた言葉━━「いくらでもやり直しはきく」「お前はまだ若い」「将来を悲観するな」「前向き生きろ」━━が、息子にとっては鋭利な刃物として突き刺さり、切り裂いていたことに気付いたからだ。
 必要なのは言葉ではなかった。
 論理でもなかった。
 彼の依るべき法でもなかった。
 拒絶されても息子をありのまま、そのままに受け入れるべきだったのだ。何度も何度も、救いの手を差し伸べ、帰るべき場所があることを主張するべきだったのだ。
 必要だったのは、見守るように息子を愛で包み込むことだけで良かった。
 けれど彼には、それが怖くて、何かをせずにはいられなくて、だから足掻いて息子を余計に傷付けた。
「考え方の問題」ではなく「気付き方の問題」であったのだ。双方共に━━
 けれどそのことに思い当たった夜、皮肉にも三男は自殺した。
 世界を呪って。
 家を呪って。
 自分自身を呪って。
 写真を置き、彼は涙する。
 息子を想って涙する。
 悩みに悩んだ息子のために。
 自分が加害者であることに気付かず、自らの世界と自身の家庭と自己へ対する破壊者であった、息子のために。
 呪われ恨まれ加害者としてしか見られていなかった彼は、被害者であるにも関わらず、息子のために泣いた。
 彼が、父親である故に。
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