あきらめた男と女は車の中に座っている。
浮気がいつしか本気になり、不倫を元に離婚された二人には多額の慰謝料が残った。
おまけに二人は同じ会社であったので、離婚後には噂の的となり、仕事が手に付かず、そのままリストラの対象となってクビにされた。
浮気の頃、二人はスリルを求めていた。
ちょっとした罪悪感と秘密の共有、後腐れのない大人の関係。
本気になってしまったのは、女が妊娠したせいだった。同時に二人の関係はバレてしまった。
女夫婦はここ数年、セックスレスであったのだ。
彼女の夫は、当然子どもを父親を糾弾する。
一方の男夫婦には、過去に不妊治療を繰り返したが、一人の子どもを授かることができなかった。
子どもを熱望していた男の気持ちは次第に妻より女の方へ傾いた。
残酷な現実に、妻は自殺未遂を繰り返し、度重なる精神科と家庭裁判所とでの調停の結果、男にはそれ相応の慰謝料の請求が認められた。
女と元夫との仲が険悪化していたこともあって、二人の蓄えでは支払うことが不可能。おまけにクビになってしまっては、この先どうしたら良いのか分からない。
必死に仕事を探すが、企業側としては女性スキャンダルが元でクビになった男を採用するには慎重であった。
女も身重の体で働ける職場がなかなか見つからない。
いよいよ、二人はどうしようもなくなってしまった。
車の中で生活する毎日。
ロクな食事の摂れない女は痩せ衰え、男は不潔な生活のお陰で無精ヒゲが生えるに任せ、目は落ち窪み、瞳の奥には怪しい闇。
「もう、限界だな」
「そうね」男の言葉に女は同意する。
「この車のまま、海に飛び込んでも良い気がする」男は無感情なトーンで言った。
「うん」女は力なく同意するだけで精一杯といった様子。
「じゃあ、死ぬか」
男はカギを回し、セルのモーター音が車内に響く。しかしエンジンは動かない。
「クソッ」男は計器を見て怒りを爆発させた。
「燃料切れかよ、仕入れる金もありゃしねぇ」
「ふ、ふふふ」憔悴していた女が急に元気を取り戻した。「はははハハハ」いや、元気というより狂気と言ったほうが正確だろう。「一家心中も許されないのか。まだ籍にすら入ってないしね。もう無理なんだよ、あんたのせいだ、あんたのせいだ」運転席の男を叩く。
「あんたがあの時、あたしを口説いたから」
「やめろよ、やめろ、それを言ったらノコノコ着いてきたお前も同罪だろう」
「うるさいうるさいうるさい死ね氏ね死ね死んじまえ」
男は危機を感じてドアから転げ出た。女も続き、ひとつの塊のようになって互いに罵り合っている。
一悶着が終わった後で、男は気付く。
死を覚悟していたクセに危険を感じて車から転げ出るなんて最悪だと。
女は体調不良を訴え、涙を流しながら、えずいている。
女を見て、男は悟った。
二人の生活は、どうしたって上手く行かないだろう。と。
男は女を介抱するように見せかけ立たせると、彼女を海の中へ放り投げた。
えずいていた女はたちまち呼吸困難に陥り、沈んで行った。
男はドアの開いた状態のまま車を押し、スピードが付いたところで乗り込んだ。
車は海へダイブする。
死の間際、男は仮想とはいえ、家族と運命を共にできたことに、少しの幸福を感じていた。
浮気がいつしか本気になり、不倫を元に離婚された二人には多額の慰謝料が残った。
おまけに二人は同じ会社であったので、離婚後には噂の的となり、仕事が手に付かず、そのままリストラの対象となってクビにされた。
浮気の頃、二人はスリルを求めていた。
ちょっとした罪悪感と秘密の共有、後腐れのない大人の関係。
本気になってしまったのは、女が妊娠したせいだった。同時に二人の関係はバレてしまった。
女夫婦はここ数年、セックスレスであったのだ。
彼女の夫は、当然子どもを父親を糾弾する。
一方の男夫婦には、過去に不妊治療を繰り返したが、一人の子どもを授かることができなかった。
子どもを熱望していた男の気持ちは次第に妻より女の方へ傾いた。
残酷な現実に、妻は自殺未遂を繰り返し、度重なる精神科と家庭裁判所とでの調停の結果、男にはそれ相応の慰謝料の請求が認められた。
女と元夫との仲が険悪化していたこともあって、二人の蓄えでは支払うことが不可能。おまけにクビになってしまっては、この先どうしたら良いのか分からない。
必死に仕事を探すが、企業側としては女性スキャンダルが元でクビになった男を採用するには慎重であった。
女も身重の体で働ける職場がなかなか見つからない。
いよいよ、二人はどうしようもなくなってしまった。
車の中で生活する毎日。
ロクな食事の摂れない女は痩せ衰え、男は不潔な生活のお陰で無精ヒゲが生えるに任せ、目は落ち窪み、瞳の奥には怪しい闇。
「もう、限界だな」
「そうね」男の言葉に女は同意する。
「この車のまま、海に飛び込んでも良い気がする」男は無感情なトーンで言った。
「うん」女は力なく同意するだけで精一杯といった様子。
「じゃあ、死ぬか」
男はカギを回し、セルのモーター音が車内に響く。しかしエンジンは動かない。
「クソッ」男は計器を見て怒りを爆発させた。
「燃料切れかよ、仕入れる金もありゃしねぇ」
「ふ、ふふふ」憔悴していた女が急に元気を取り戻した。「はははハハハ」いや、元気というより狂気と言ったほうが正確だろう。「一家心中も許されないのか。まだ籍にすら入ってないしね。もう無理なんだよ、あんたのせいだ、あんたのせいだ」運転席の男を叩く。
「あんたがあの時、あたしを口説いたから」
「やめろよ、やめろ、それを言ったらノコノコ着いてきたお前も同罪だろう」
「うるさいうるさいうるさい死ね氏ね死ね死んじまえ」
男は危機を感じてドアから転げ出た。女も続き、ひとつの塊のようになって互いに罵り合っている。
一悶着が終わった後で、男は気付く。
死を覚悟していたクセに危険を感じて車から転げ出るなんて最悪だと。
女は体調不良を訴え、涙を流しながら、えずいている。
女を見て、男は悟った。
二人の生活は、どうしたって上手く行かないだろう。と。
男は女を介抱するように見せかけ立たせると、彼女を海の中へ放り投げた。
えずいていた女はたちまち呼吸困難に陥り、沈んで行った。
男はドアの開いた状態のまま車を押し、スピードが付いたところで乗り込んだ。
車は海へダイブする。
死の間際、男は仮想とはいえ、家族と運命を共にできたことに、少しの幸福を感じていた。
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Re:責任
死を選ぶ事は確実に自暴自棄の選択なワケです。
周囲を裏切ってまで手に入れる幸福に何の意味があるのでしょうか。
不貞の輩を嫌悪します。
本当は何か出来たハズなのに責任をも果たさず、逃げる事にすら疲れた人間。
甘えで心がドロドロに溶けている。
最後の幸福感は自己憐愍です。
周囲を裏切ってまで手に入れる幸福に何の意味があるのでしょうか。
不貞の輩を嫌悪します。
本当は何か出来たハズなのに責任をも果たさず、逃げる事にすら疲れた人間。
甘えで心がドロドロに溶けている。
最後の幸福感は自己憐愍です。