「脳波を抽出イメージ化する事には成功したが」ラボの中で博士が言う。「余り無作為過ぎるのが問題だ」
「そうですね」頭にバンドを巻いた助手が答える。「被験体になって実感として感じたんですが、自分の言いたい事や考えてもみない事がモニタやスピーカから流れてくるのには混乱してしまいました」
「うむ。やはり意識のみを取り出し、無意識のノイズをフィルタにかける必要があるな」
助手が頭のバンドを外す。
バンドの額に当たる部分の内側には、人間の脳波を受信する精巧な電子回路が組み込まれいるのだ。
数ヵ月後、彼等の研究は徐々に進み、意識のみを取り出す事に成功した。
「ようやく出来ましたね」バンドを外しながら助手は言った。
「いいや、まだだ」博士は首を振る。「無意識を除去する事は出来たが、まだまだノイズが多すぎる。私達の目的は、言葉よりも、もっと直接的に他者とコンタクト出来るツールを造り出す事にあるのだ。『意識のだだ漏れ』では余計な混乱を招く元となる。『他者へ伝えたい意識だけを伝達する装置』でないと駄目なのだ」
「確かにそうですね。相手への悪感情を曝してしまっては、この装置で人間関係が悪化し、争いの元凶になってしまいます」
「うむ」博士は助手の言葉に頷く。「そういう事だ。より技術を研磨しなければならない」
そして数年が経過した。
「邪魔な意識を排除する事が、こんなに難しいとは思いませんでした」
「それくらいは想定済みだよ」博士は助手に顔を向けた。「君もまだまだ青いな」
しかし疲労の残る二人の顔には充実した笑みが表れていた。
なぜなら彼等はその難題を、つい先程の実験によって克服した事を確認出来たからだ。
「次はこの装置間同士での送受信法を確立するという障壁をクリアするだけですね」
「いや」博士は笑みを崩さない。「送受信に問題は無い。最近開発された『反物質粒子』によって対応する事が出来る。応用すれば、任意の他者数人との同時交信も可能だ」
「えっ! 反物質の存在が認められたんですか」
ふふふと笑いながら博士は満足そうに言う。
「研究に打ち込む姿勢は立派だが、視野狭窄に陥ってはいけないぞ。他の分野へ視線を向ける事も必要だ」
さらに数年後。
二人の開発した「マインド・スキャン」は、会社での企画会議等で活躍していた。
送信者の言わんとしている事がダイレクトに伝わり、会議は効率的に、より円滑な物へと進化した為だ。
それは世界的な大企業から私公立の小中学校での教員会議にまで広く用いられている。
それから数年後。
遠隔機能や、有機LEディスプレィゴーグルと連動したナビゲーションシステムの構築、マインド・スキャンゲーム等の出現と、大量生産化の為のコスト削減による値下げの状況下で、マインド・スキャンは個人レベルでの需要が高まった。
破竹の勢いは留まる事を知らず、携帯電話やパソコンをも駆逐していった。
その数十年後。
人間は不必要となった「言葉」という相互間コミュニケーションツールを失った。
他者にイメージや感情、想いを伝える完璧なマインド・スキャンの前で、不完全な「言葉」が淘汰されるのも仕方の無い事と思われた。
そのまた数年十後。
世界は文字を喪失し、紙は姿を消しインターネットは閉ざされた深い眠りに就き、殺那的な物となった。
その後、数百年。
疑似テレパスと化した人類は、次第に没落していった。
一部の少数民族を置き去りにしたまま。
そして地球は、万単位で太陽を周期した。
残されていた少数の人類は、再び文明を築き始めた。
人々は石器を捨て鉄を取り戻し、幾多の地域的な戦闘を各地で繰り返した。
結果、村から国へと成長する。
だが地域的な戦闘は国家間の争いへと姿を変え、やがて世界的な規模の戦争を引き起こし、核を生み出した。
世界は傷付き、平和を求めた。
各地での紛争は引き続き行われているが、国同士の連盟が発足し、表面的な平和を手に入れる事には成功した。
彼等の物好きな一部の連中は言う。
「超古代文明では、人間は言葉を使わずに意志の疎通の出来た、テレパス能力があったのではないか」と。
「そうですね」頭にバンドを巻いた助手が答える。「被験体になって実感として感じたんですが、自分の言いたい事や考えてもみない事がモニタやスピーカから流れてくるのには混乱してしまいました」
「うむ。やはり意識のみを取り出し、無意識のノイズをフィルタにかける必要があるな」
助手が頭のバンドを外す。
バンドの額に当たる部分の内側には、人間の脳波を受信する精巧な電子回路が組み込まれいるのだ。
数ヵ月後、彼等の研究は徐々に進み、意識のみを取り出す事に成功した。
「ようやく出来ましたね」バンドを外しながら助手は言った。
「いいや、まだだ」博士は首を振る。「無意識を除去する事は出来たが、まだまだノイズが多すぎる。私達の目的は、言葉よりも、もっと直接的に他者とコンタクト出来るツールを造り出す事にあるのだ。『意識のだだ漏れ』では余計な混乱を招く元となる。『他者へ伝えたい意識だけを伝達する装置』でないと駄目なのだ」
「確かにそうですね。相手への悪感情を曝してしまっては、この装置で人間関係が悪化し、争いの元凶になってしまいます」
「うむ」博士は助手の言葉に頷く。「そういう事だ。より技術を研磨しなければならない」
そして数年が経過した。
「邪魔な意識を排除する事が、こんなに難しいとは思いませんでした」
「それくらいは想定済みだよ」博士は助手に顔を向けた。「君もまだまだ青いな」
しかし疲労の残る二人の顔には充実した笑みが表れていた。
なぜなら彼等はその難題を、つい先程の実験によって克服した事を確認出来たからだ。
「次はこの装置間同士での送受信法を確立するという障壁をクリアするだけですね」
「いや」博士は笑みを崩さない。「送受信に問題は無い。最近開発された『反物質粒子』によって対応する事が出来る。応用すれば、任意の他者数人との同時交信も可能だ」
「えっ! 反物質の存在が認められたんですか」
ふふふと笑いながら博士は満足そうに言う。
「研究に打ち込む姿勢は立派だが、視野狭窄に陥ってはいけないぞ。他の分野へ視線を向ける事も必要だ」
さらに数年後。
二人の開発した「マインド・スキャン」は、会社での企画会議等で活躍していた。
送信者の言わんとしている事がダイレクトに伝わり、会議は効率的に、より円滑な物へと進化した為だ。
それは世界的な大企業から私公立の小中学校での教員会議にまで広く用いられている。
それから数年後。
遠隔機能や、有機LEディスプレィゴーグルと連動したナビゲーションシステムの構築、マインド・スキャンゲーム等の出現と、大量生産化の為のコスト削減による値下げの状況下で、マインド・スキャンは個人レベルでの需要が高まった。
破竹の勢いは留まる事を知らず、携帯電話やパソコンをも駆逐していった。
その数十年後。
人間は不必要となった「言葉」という相互間コミュニケーションツールを失った。
他者にイメージや感情、想いを伝える完璧なマインド・スキャンの前で、不完全な「言葉」が淘汰されるのも仕方の無い事と思われた。
そのまた数年十後。
世界は文字を喪失し、紙は姿を消しインターネットは閉ざされた深い眠りに就き、殺那的な物となった。
その後、数百年。
疑似テレパスと化した人類は、次第に没落していった。
一部の少数民族を置き去りにしたまま。
そして地球は、万単位で太陽を周期した。
残されていた少数の人類は、再び文明を築き始めた。
人々は石器を捨て鉄を取り戻し、幾多の地域的な戦闘を各地で繰り返した。
結果、村から国へと成長する。
だが地域的な戦闘は国家間の争いへと姿を変え、やがて世界的な規模の戦争を引き起こし、核を生み出した。
世界は傷付き、平和を求めた。
各地での紛争は引き続き行われているが、国同士の連盟が発足し、表面的な平和を手に入れる事には成功した。
彼等の物好きな一部の連中は言う。
「超古代文明では、人間は言葉を使わずに意志の疎通の出来た、テレパス能力があったのではないか」と。
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Re:これは
>人の一生を人類に置き換えるとわかりやすいですね。
そういう視点もありますね。
緩やかな没落は、どこか甘く退廃的な感じがします。
そういう視点もありますね。
緩やかな没落は、どこか甘く退廃的な感じがします。