私には、すべてを決め付けてしまうというクセがある。
たとえばこのカフェの窓際に座っている男女。男の方は二十代前半の青年で派手なスーツに染めた髪。きっとホストだ。女の方は三十代前半のように見えるが、実は男よりも年下で未成年かもしれない。自然な若者言葉を使っているから、そのことが窺える。無理に男に合わせている感もないし、ホストに見下されている様子でもあるからだ。
ホストが、いわゆる『オラオラ系』であるという可能性も皆無ではないが、女の仕草には明らかな子供っぽさがあるのだ。
きっと女はホストに貢ぎ、金銭に急し、自らを風俗街へと落としたために苦労をし、年よりも老けて見えるのだろう。
服装も男の方が女よりも値の張るブランド物を着ているし、女の嬉しそうな表情に対して、男の顔には時折、心底からどうでもいいような面倒臭いといった地の部分が見え隠れしている。
ゆえに、私の頭の中では二人の関係は次のような物だと決め付けられている。
最近実入りの乏しい女が、月間売り上げトップを狙っているやり手ホストからの催促を受けている所。しかも女は店の外で会うことに浮かれ、世間話を始めている。ホストは店に来てくれたら話を聞くからと切り上げたいのだが、今は大事な決算前の時期なので、無下にもできず苛立ち始めている所。
ホストのやり口にも問題がありそうだと私は思い始めた。
さっさと切り上げて次の客を捕まえた方が良いのではないかと。
だが待てよ。この手の、つまりホストにとって面倒な相手にずるずると時間をかけるということは、もしかしたらこのホスト、トップに絡むのが初めてで必死になっている。要するに新人の部類に入っているのではないだろうか。
一流のホストならば、面倒でも客に対してそれを気取られないようにするテクニックがある。顧客に数があるからの余裕。やんわり切り上げる駆け引きなど。
女がホストに惚れているせいか、彼女は彼の機嫌を気にしてはいる。が、私の決め付けフィルターを通して見ると、それも彼の売り上げに貢献しているという慢心と驕りのゆえ、強引に彼を引き留めているようにも見える。
男がコーヒーカップをスプーンでガチャガチャし始めた。きっと心の中では『お前、早くその話をやめろよ。良く回る口だ、歯並びが悪い。最近お前が客取れねーのって、そのせいじゃねーの? でも矯正中の女なんて余計に客受けしねーわな。まぁ、後々のことを考えると歯並び治した方が良いんだろうが、この女もそろそろダメが来そうだな。どうせ使い捨ての女だ、もうちょっと回収したら手を切るか』と思っているに違いない。
女がウェイトレスにコーヒーのお代わりを頼む。
女はウェイトレスに対し、心の中で思っているのだろう。『どう? 私の彼、素敵でしょ。アンタなんかには一生できないイケメンよ』
そしてウェイトレスは「かしこまりました」と無表情を装いつつも『この女、騙されて可哀想』という同情と共に、自分なら騙されないという自信から、女としての勝利を胸に抱いているのだ。
この間、ホストは女に対して『この女、まだ粘るのかよ』と思い、ウェイトレスには『次はこの娘を落とそうかな』と画策しているに違いないのだ。
観察と決め付けをしている間に、別居中の妻が時間に遅れてやって来た。
妻は客の少ないことを気にしてか、小さな声で話を始める。
「別に気にすんなよ」私は言った。「誰も俺たちの話になんて興味ないって」
「またそんなことを言って」妻は私を睨む。「すぐに決め付ける。確かに私たちの離婚話なんて他人にはどうでもいいかもしれないけれど、誰が見ているか分からないじゃない。そんな気持ちも分からないなんて、本当にあなたは想像力の無い人ね」
━━そう。私にはすべてを決め付けてしまうクセがある。
そのせいで、他人からはいつも「想像力の無い短絡的に物事を決め付ける奴」と言われている。
他の可能性を排除して、一方的に決め付けるということは、やはり想像力という物が私に欠如しているせいなのだろう。
残念なことだ。
私が想像力を養って、夢を見るような男だったら離婚することも無かっただろう。
おっと、早速決め付けてしまった。想像してみよう。
もし、私が想像力豊かで夢見がちな男だったなら━━妻と付き合うことも無かったかな。
たとえばこのカフェの窓際に座っている男女。男の方は二十代前半の青年で派手なスーツに染めた髪。きっとホストだ。女の方は三十代前半のように見えるが、実は男よりも年下で未成年かもしれない。自然な若者言葉を使っているから、そのことが窺える。無理に男に合わせている感もないし、ホストに見下されている様子でもあるからだ。
ホストが、いわゆる『オラオラ系』であるという可能性も皆無ではないが、女の仕草には明らかな子供っぽさがあるのだ。
きっと女はホストに貢ぎ、金銭に急し、自らを風俗街へと落としたために苦労をし、年よりも老けて見えるのだろう。
服装も男の方が女よりも値の張るブランド物を着ているし、女の嬉しそうな表情に対して、男の顔には時折、心底からどうでもいいような面倒臭いといった地の部分が見え隠れしている。
ゆえに、私の頭の中では二人の関係は次のような物だと決め付けられている。
最近実入りの乏しい女が、月間売り上げトップを狙っているやり手ホストからの催促を受けている所。しかも女は店の外で会うことに浮かれ、世間話を始めている。ホストは店に来てくれたら話を聞くからと切り上げたいのだが、今は大事な決算前の時期なので、無下にもできず苛立ち始めている所。
ホストのやり口にも問題がありそうだと私は思い始めた。
さっさと切り上げて次の客を捕まえた方が良いのではないかと。
だが待てよ。この手の、つまりホストにとって面倒な相手にずるずると時間をかけるということは、もしかしたらこのホスト、トップに絡むのが初めてで必死になっている。要するに新人の部類に入っているのではないだろうか。
一流のホストならば、面倒でも客に対してそれを気取られないようにするテクニックがある。顧客に数があるからの余裕。やんわり切り上げる駆け引きなど。
女がホストに惚れているせいか、彼女は彼の機嫌を気にしてはいる。が、私の決め付けフィルターを通して見ると、それも彼の売り上げに貢献しているという慢心と驕りのゆえ、強引に彼を引き留めているようにも見える。
男がコーヒーカップをスプーンでガチャガチャし始めた。きっと心の中では『お前、早くその話をやめろよ。良く回る口だ、歯並びが悪い。最近お前が客取れねーのって、そのせいじゃねーの? でも矯正中の女なんて余計に客受けしねーわな。まぁ、後々のことを考えると歯並び治した方が良いんだろうが、この女もそろそろダメが来そうだな。どうせ使い捨ての女だ、もうちょっと回収したら手を切るか』と思っているに違いない。
女がウェイトレスにコーヒーのお代わりを頼む。
女はウェイトレスに対し、心の中で思っているのだろう。『どう? 私の彼、素敵でしょ。アンタなんかには一生できないイケメンよ』
そしてウェイトレスは「かしこまりました」と無表情を装いつつも『この女、騙されて可哀想』という同情と共に、自分なら騙されないという自信から、女としての勝利を胸に抱いているのだ。
この間、ホストは女に対して『この女、まだ粘るのかよ』と思い、ウェイトレスには『次はこの娘を落とそうかな』と画策しているに違いないのだ。
観察と決め付けをしている間に、別居中の妻が時間に遅れてやって来た。
妻は客の少ないことを気にしてか、小さな声で話を始める。
「別に気にすんなよ」私は言った。「誰も俺たちの話になんて興味ないって」
「またそんなことを言って」妻は私を睨む。「すぐに決め付ける。確かに私たちの離婚話なんて他人にはどうでもいいかもしれないけれど、誰が見ているか分からないじゃない。そんな気持ちも分からないなんて、本当にあなたは想像力の無い人ね」
━━そう。私にはすべてを決め付けてしまうクセがある。
そのせいで、他人からはいつも「想像力の無い短絡的に物事を決め付ける奴」と言われている。
他の可能性を排除して、一方的に決め付けるということは、やはり想像力という物が私に欠如しているせいなのだろう。
残念なことだ。
私が想像力を養って、夢を見るような男だったら離婚することも無かっただろう。
おっと、早速決め付けてしまった。想像してみよう。
もし、私が想像力豊かで夢見がちな男だったなら━━妻と付き合うことも無かったかな。
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Re:無題
ありがとうございます。
オチに少しひねりが必要だったかもと思ったり思わなかったりしています。
オチに少しひねりが必要だったかもと思ったり思わなかったりしています。