「ドラゴンは古くから宝を守る地の霊として崇められていた。
この種の伝説は、主に西洋での話が多い。
時にドラゴンは悪者扱いをされるが、それは勇者が宝物と対峙した場面において、勇者を正当化させるために貶められている事が多々ある。
いわばそれは、戦士を勇者へと格上げさせるためのイニシエーションとして捉えられるべきものである。
本邦にも、スサノオとヤマタノオロチ伝説があるため、これと対比出来るかもしれない。
だが、日本の竜とは、その姿形から、うねる川の象徴として水神に奉られるケースの方が多い。そして竜は大陸から流入され竹取物語の中でも五つの宝の内の一つとしても拡がり、混在が始まってしまう。
大陸、つまり古代の中国大陸の、ある種族の神話中に、ショクインという最高神と見られる資質を有した竜の姿をした存在が、山海図絵にも記載されている」
ノート型PCを前にして、ユウジは困った顔をする。
ディスプレイに書き込んだ文章は、神話学で提出するなめの論文なのだが、思うように捗っていないのだ。
それは西洋から日本、さらに中国大陸にまで範囲が広がっていることからも見受けられる。
まとめられないのだ。
本来、彼は『西洋においてのドラゴン観の変遷』という主旨の論文を書くはずだったのだが、対比のために日本を挙げたせいで脱線が始まってしまった。
彼は内省する。
古くからの西洋とは、十世紀から十三世紀の頃だ。主にゲルマン、ヴァイキング、ノルウェー系統のエッダやサーガの時代。つまり北欧神話を軸としている。
対比するには━━南欧?
南ヨーロッパ。
しかしこの時代は全ヨーロッパが動乱の時期だったのだ。先に上げたヴァイキング同様、東西に分裂したローマ帝国はオスマン帝国の進出によって弱体化し、疲弊していた。
待てよ。
ローマ帝国が分裂していたにしろ、存続していたと言うことは、国教はキリスト教か?
キリスト教でのドラゴンは━━悪。蛇とサタンと同一視されていなかったか。
キリスト教は土地神を悪視、吸収して広がった面もある。その意味では仏教と似ているが、仏教が相手にしたのはヒンドゥー教だったのに対して多岐に渡る。
ギリシア、ローマ神話、その元になったアヴェスタ、バビロニア神話、そしてエジプト神話。
━━アヴェスタ、つまりゾロアスター教はペルシアで生まれたためにヒンドゥー教ともつながっているが、それは別のルートだったかな。
うーむ。
と、ユウジは考える。
そっち方面に行くと、もうほとんど分からない。けれど今までに上げた神話の中では、ドラゴンって邪龍としての見方が多い気がする。
じゃあ同じなのか?
やっぱり西洋と東洋の対比の方が良いのかなぁ。
でもなぁ、そもそも竜とドラゴンのイメージ、っていうか形態からして違うし。
東洋の竜は蛇系統、西洋のドラゴンは恐竜やトカゲみたいな爬虫類。
ああもう、どうしよう。
もう一回、初めっから見直すしかないかぁ? 別のテーマにする?
でもドラゴンに関する資料しか集めてなかったし、今から別テーマを探す時間もないし━━
気がつくと、ユウジは二時間以上も悩んでいた。
建設的な考えは思い浮かばなかった。
いつしか妥協点を見つける事へと腐心している。だが彼はその事にすら気づかない。
最近、徹夜が続いているせいかもしれなかった。
彼の携帯電話が振動し、ランプを光らせ着信を告げる。
ユウジは条件反射的に電話に出た。
相手は彼の友人。
「えっ、合コン?」ユウジは言う。「一人ドタキャンしたのか、分かった行く行く」
いつもの理由で、連日の徹夜が今夜も始まりそうだ。
彼はモニターの論文を削除すると、集めていたドラゴンに関する資料を換骨奪胎してテキトーに仕上げる。
着ていく服を慎重に選んで、いそいそと夜の街へと身を投じた。
この種の伝説は、主に西洋での話が多い。
時にドラゴンは悪者扱いをされるが、それは勇者が宝物と対峙した場面において、勇者を正当化させるために貶められている事が多々ある。
いわばそれは、戦士を勇者へと格上げさせるためのイニシエーションとして捉えられるべきものである。
本邦にも、スサノオとヤマタノオロチ伝説があるため、これと対比出来るかもしれない。
だが、日本の竜とは、その姿形から、うねる川の象徴として水神に奉られるケースの方が多い。そして竜は大陸から流入され竹取物語の中でも五つの宝の内の一つとしても拡がり、混在が始まってしまう。
大陸、つまり古代の中国大陸の、ある種族の神話中に、ショクインという最高神と見られる資質を有した竜の姿をした存在が、山海図絵にも記載されている」
ノート型PCを前にして、ユウジは困った顔をする。
ディスプレイに書き込んだ文章は、神話学で提出するなめの論文なのだが、思うように捗っていないのだ。
それは西洋から日本、さらに中国大陸にまで範囲が広がっていることからも見受けられる。
まとめられないのだ。
本来、彼は『西洋においてのドラゴン観の変遷』という主旨の論文を書くはずだったのだが、対比のために日本を挙げたせいで脱線が始まってしまった。
彼は内省する。
古くからの西洋とは、十世紀から十三世紀の頃だ。主にゲルマン、ヴァイキング、ノルウェー系統のエッダやサーガの時代。つまり北欧神話を軸としている。
対比するには━━南欧?
南ヨーロッパ。
しかしこの時代は全ヨーロッパが動乱の時期だったのだ。先に上げたヴァイキング同様、東西に分裂したローマ帝国はオスマン帝国の進出によって弱体化し、疲弊していた。
待てよ。
ローマ帝国が分裂していたにしろ、存続していたと言うことは、国教はキリスト教か?
キリスト教でのドラゴンは━━悪。蛇とサタンと同一視されていなかったか。
キリスト教は土地神を悪視、吸収して広がった面もある。その意味では仏教と似ているが、仏教が相手にしたのはヒンドゥー教だったのに対して多岐に渡る。
ギリシア、ローマ神話、その元になったアヴェスタ、バビロニア神話、そしてエジプト神話。
━━アヴェスタ、つまりゾロアスター教はペルシアで生まれたためにヒンドゥー教ともつながっているが、それは別のルートだったかな。
うーむ。
と、ユウジは考える。
そっち方面に行くと、もうほとんど分からない。けれど今までに上げた神話の中では、ドラゴンって邪龍としての見方が多い気がする。
じゃあ同じなのか?
やっぱり西洋と東洋の対比の方が良いのかなぁ。
でもなぁ、そもそも竜とドラゴンのイメージ、っていうか形態からして違うし。
東洋の竜は蛇系統、西洋のドラゴンは恐竜やトカゲみたいな爬虫類。
ああもう、どうしよう。
もう一回、初めっから見直すしかないかぁ? 別のテーマにする?
でもドラゴンに関する資料しか集めてなかったし、今から別テーマを探す時間もないし━━
気がつくと、ユウジは二時間以上も悩んでいた。
建設的な考えは思い浮かばなかった。
いつしか妥協点を見つける事へと腐心している。だが彼はその事にすら気づかない。
最近、徹夜が続いているせいかもしれなかった。
彼の携帯電話が振動し、ランプを光らせ着信を告げる。
ユウジは条件反射的に電話に出た。
相手は彼の友人。
「えっ、合コン?」ユウジは言う。「一人ドタキャンしたのか、分かった行く行く」
いつもの理由で、連日の徹夜が今夜も始まりそうだ。
彼はモニターの論文を削除すると、集めていたドラゴンに関する資料を換骨奪胎してテキトーに仕上げる。
着ていく服を慎重に選んで、いそいそと夜の街へと身を投じた。
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