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空の青さが、やけにムカツク

『揺れるココロ、と高鳴るドウキ』__完全自作の小説・詩・散文サイト。携帯からもどうぞ。
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 Come on now
 Mr.RON RON RON
 Come on now

 Hurry up
 Dance Dance Dance
 Come on now

 Mr.RON
 Hurry Hurry Hurry
 Come on now

 Hurry up
 Mr. Mr. Mr.RON RON RON
 Come on now

 Mr.RON
 Come on Come on Come on Come on now
 Go to THE HELL
PR
  

 わたくしの乗つた汽車からは、酷く臭い、しかし懐かしいやうな空気が漂つておりました。
 けれども不可思議な事に、わたくしはそれ程気にする事も無く、壁と平行に設置された席の一つに座つたのです。
 汽車の扉が締まり、蒸気を上げて、鉄の乗り物は走り出しました。
 すると、わたくしの首筋ゑ、ぽたりと生暖かゐ雫が落ちて来たのです。
 上を見ました所、網棚に、布にくるまつた荷が置ゐてあつたのです。
 わたくしは興味に駆られました。
 はしなくも座席に立ち、ツマ先を立てて網棚を覗きました。
 横長に大きな物が、幾つかの層をなして置ゐてあります。
 一番上の物は他の半分の長さであり、わたくしは布に包まれた物を見やうと手を伸ばしたのです。
 ぐしょりと、脂のような液体に、布は濡れおりました。
 けれども気にする事も無く、わたくしは布を━━
 ━━中には、どこかで見たやうな気のする少女の屍体が、くるまれておりました。ましろな肌には弾力も無く、つつけば皮膚が破けてしまゐそうです。彼女はキチンと居ずまい正しく花柄の着物を着て、まるでお人形さんのやうでした。けれど、ぬめぬめとした感じがして、やはり本当の人形とはあからさまに違つたのです。
 少女の屍体の下には何があるのだらう。
 わたくしの興味心は歯止めが効かなくなつてしまつてゐたのです。
 そうして下の布を捲つてみると━━中身はみんな同じだつたのです。
 同じ顔をした少女が同じ花柄の着物を着て、布に包まれ、縦に二人、並んで居たのでした。
 奇妙な光景でありました。
 更にその下に、また同じく二ッつ、同じ少女が同じ花柄の和服を着て死んでおりました。違つたのは腐敗の度合いが少し進んでゐる所だけでした。
 屍体の数は、全部で五つであつたわけなのです。
 そして布は腐つた体液に塗れ、その雫がわたくしの首筋に落ちて来たとゐう事なのでせう。
 けれども、どうしてわたくしは、この少女達を見知つたやうに思われるのでせうか。しかしその答えは、すぐに分かりました。
 硝子に映つたわたくしの顔が、彼女達の顔とそつくり同じだつたからです。勿論、わたくしの着てゐる和服の柄まで。
 わたくしの頭に、一つの断片的な記憶がよぎりました。それはどこかの研究所らしき所で、透明に透けたわたくしの体に生理食塩水が注がれる所だつたのでござゐます。
 一時の映像として思い出されました記憶によつて、わたくしは何をするべきなのかを察知致しました。
 わたくしは苦心して網棚に乗り、一人の少女の足元で、二人のわたくしの屍体の上で横になり、布にくるまりました。
 わたくし達は、きつと、失敗作だつたのでせう。
 わたくしは目をつむりました
 後はただ、汽車の走る中で、体が腐れて行くのを待つだけなのでござゐます。
  

 ボーン ボーン ボーン ボーン
 古時計の音が聞こえな気がして、私は目を覚ました。

「お母様、お母様お母様、おかあさ、まー!! お母様お母様お母様、私を、私を、私を、許してー!! 親不孝の私を、私を許して下さいまし。お母様お母様お母様」
 隣の部屋から声が聞こえる。
 こちらの壁を叩きながら誰かの声が聞こえてくる。
 私には記憶が無いため、この病院に入院しているということは知らされている。だから、隣の声が誰のものなのかは分からない。隣の女の子は本当に私の子供なのだろうか。
 それ以前に私に子供が居るのかどうかさえ記憶が失われているから。
 廊下から足音が聞こえ、私の部屋のドアが開いた。
 主治医が新聞紙を抱え、立っている。
「こんにちは━━さん。今日はあなたに関する新聞記事を持って来ました。少しでも思い出せるきっかけになってくれるかもしれませんので」
 主治医は私にその束を渡す。彼の眼鏡の奥の瞳に怪しい光が宿った気がした。

 以下、新聞紙の見出しと内容。

【無理心中か!? 娘の運転する車が海に突っ込む】
 ×月×日未明、━━さん母子の車が海に転落する事故が起きた。調べによると、車を運転していたのは娘の━━さん(21)である。目撃者急によると、海へ向かってスピードを上げたという。

【原因は精神錯乱か】
 ━━海に車こと転落した母子が、二人暮らしであることが分かった。さらに娘さんには精神疾病があることも判明。症状は比較的に軽いものだという。統合失調症であり、突然の被害妄想に襲われたのではないかと思われる。社会復帰を目指して車の運転を練習していた最中の悲劇であった。

【事故の母子、意識を回復】
 以前に何度か取り上げた、海へ転落した母子の意識が回復した模様。なお、母親の意識は、はっきりしているものの、記憶が喪失されていることが分かった。娘の記憶はしっかりしているが、精神が不安定になっているという。母子の精神安定のために、二人の病室は別にされているとのこと。

 私は記事を読んでも、他人事としか思えなかった。
 私がこの事故に巻き込まれたということなのだろうか?
 ……信じられない。

【新聞に混じったメモ用紙】
 ♪スカラカチャカポコチャカポコチャカポコ
 ♪私は本当の私で無い あなたが本当の私だから だけれどあなたも偽者で 私が本当の私であるはず
 ♪スカラカチャカポコチャカポコチャカポコ
 ♪スカラカチャカポコチャカポコチャカポコ

 直後、私は頭痛に苛まれた。
 隣の部屋から声が聞こえる。
「お母様お母様お母様お母様、どうか、どうか親不孝の私を、私を許してー!!」

 主治医の女医が笑っている━━?
 邪悪な感情。
 この女は……夫を……奪っ……

 ボーン ボーン ボーン ボーン
 古時計の音が聞こえたような気がして、私の意識は、まどろみ始めた━━
  

 ニーコちゃんは可愛いメスの白猫だ。
 二年ほど前にユウ君(勇輝、当時小学二年生。この時、将来の夢はお医者さん。しかしなぜか高校時代に弁護士になろうと決意。一流大学にて法律を学ぶも、途中で子供時代の夢を思い出し、医学部へ転向する。そして産婦人科医となり、自ら妻の出産時にて二人の子供((共に女児))を取り上げる事となる。後、長女は勇輝のもう一つの夢であった弁護士の資格を取得し、法律家への道へと進む。次女は父の後を継ぐため医大へ通うが、そこで出逢った男子学生と学生結婚。勇輝は怒り、一時絶縁状態になるも、二人が真面目に医師免許を取り、次女は産婦人科、夫は小児科の医師として成長するにつれ、両者の関係は軟化。結果的には次女を後継として迎え入れる事となる。なお、この時に長女が双方の間を取り持ったのではないかと近隣住民にはもっぱらの噂)に拾われたのだ。
 その時にニーコちゃんが「ニーニー」と鳴いていたので、ユウ君はニーコちゃんと名付けたのだ。
 初め、ママ(ひろ子。専業主婦。夫、達也との出会いは十年前。子供は勇輝一人。後の子と孫との関係に気を揉むが、無事に和解した事に安堵する。その時の猫の数は三匹)は反対したのだが、パパ(達也。私立中学教諭。性格は至って温厚。同僚、学生共に信任は厚い。彼の勤める私立中学校は一クラス二教諭制度であり、この時期の彼は主担任。数年後に学年主任となる。後、教頭、校長へと出世し、定年退職。子と孫との問題には楽観視しており、趣味のゲートボールに興じていた。結果から言って、彼の楽観的視点は正しかったのだが、自ら積極的に動かなかった事に対し、妻から小言を言われる)が「情操教育にもなるし、良いのではないか」との意見によって、ニーコちゃんはユウ君の家で飼われる事に決まったのだ。
 ニーコちゃんは朝、家族と一緒にカリカリした朝食を食べる。それからユウ君が学校へ行くまで、猫じゃらしで遊んでもらう。
 ユウ君が学校へ行ってしまうとママは忙しく家の中でパタパタ動き回るので、ニーコちゃんは家の玄関前に出て、日だまりに箱座りをして目を閉じる。
 しばらくすると近所の飼い猫、アメリカンショートヘアのショコラさん(茶と黒の縞模様、十歳、メス)が遊びに誘って来てくれる。
 そして二匹で散歩をするのだ。草の匂いをかいだり蜻蛉を追いかけたりしながら。
 ルートは決まっていて、ニーコちゃんは、いつもショコラさんの後ろについていく。なぜだかショコラさんさらは、覚えていないはずの、お母さんの匂いが感じられるからかもしれない。だからニーコちゃんはショコラさんと散歩できるだけで楽しくなるのだ。
 お昼近くになると、二匹は古いアパートへと向かう。
 そこには猫好きのお爺さん(春夫、元左官職人。昔は腕が良く、仕事も入ってきたが遊び好きでギャンブルに金を使い過ぎ、その金使いの荒らさから妻に愛想を尽かれて三十年前に離別。今は独身で年金暮らし。少ない収入のために賭け事は控えている。今の友達は、もっぱら安い酒と一夜干しのスルメイカ)が住んでいて、猫まんまを御馳走してくれるのだ。それに猫の扱いも上手い。耳の後ろや尻尾の付け根辺りを掻いてくれたりして、ニーコちゃんとショコラさんは喉を鳴らす。
 お爺さんはショコラさんを「茶の助」ニーコちゃんを「白の介」と呼んでいる。けれど二匹には名前なんてどうでも良いのだ。
 喉を鳴らして、ショコラさんと土の上でゴロゴロ転がって、お爺さんがニコニコしてくれれば、それだけでニーコちゃんは嬉しくなる。
 そのうちにショコラさんは眠くなってきたのか、玄関前に置いてある白い発泡スチロールの箱に入る。するとお爺さんは「ゆっくりしてお行き」と言って部屋に引っ込む。
 ニーコちゃんは自分も眠くなってきたのに気付くと、ショコラさんの上に重なって丸くなり、仲良く二匹で昼寝をする。
 夕方くらいになると、二匹は自然に目を覚まし、それぞれ勝手に家へ帰る。
 家ではユウ君が学校から戻っていて、ニーコちゃんはユウ君の膝に乗ると丸くなる。そして撫でてもらっているうちにウトウトし始めるのだ。
 でも晩御飯のためにすぐ起こされる。
 晩御飯は夜と違って、缶から出された魚味の柔らかい物を食べるのだ。カリカリしなくて少しつまらないけれど、味はこちらの方が好きなのだ。
 食後にユウ君と遊びたいのだけれど、いつも「宿題の邪魔しないで」と怒られる。仕方がないので、転がってきた消しゴムで遊ぼうとすると、その事でまた怒られる。
 そこでニーコちゃんは、テレビを見ているママの膝の上に乗る。
 時間が経つと、ユウ君は部屋から出て、お風呂に入る。
 ニーコちゃんは耳をピクピクさせて、ユウ君がお風呂から上がるのを待つのだ。
 そしてユウ君がお風呂から出ると、後ろをついて行く。部屋に入り、ユウ君とニーコちゃんは一緒に布団へ潜る。
 ユウ君のベッドにはユウ君の匂いが染みついていて、その匂いに包まれているのが、ニーコちゃんには一番安心できる時なのだ。
 きっと、初めてユウ君の腕に包まれた時と同じ感じがするからだろう。
 ニーコちゃんは体が大きくなって、今ではユウ君の腕から、はみ出てしまう。
 だから、あの頃の感じが味わえる、ユウ君のベッドが好きなのだろう。
 寂しさから救ってくれた、温かさに包まれて眠るのだ。
  

 ぼくはコンビニの店員。
 彼女は常連客。
 いつも同じアイスクリームを買いにくる。
 ぼくの、片想い。
 彼女に恋人が居るのか居ないのか、それすら分からない。
 唯一のやりとりは、レジの前。
 ぼくは顔を赤らめ、お釣りを出す手が震える。
 彼女の手を汚してはならない。
 指先が触れぬ様、さっと硬貨を渡す。
 付き合いたいけれど、それは出来ない。
 してはいけない気がする。
 いや、それは嘘だ。本当は付き合いたい。
 けれど、どうやって?
 告白、か。
 でも、失敗は許されない。
 彼女は二度と来なくなるだろう。
 いや、それ以前に、ぼくは恐い。
 告白をする勇気がない。
 それに、いきなりコンビニ店員から「好きです」なんて言われたって戸惑うだけだろう。
 ここは遠回りに何気ない顔をして、少しずつ親しくなって、と、思っても話題がない。
 何を話すべきなのか。
 左手にリングが無いことは確認してある。やはり恋人の有無を尋ねてからの方が賢明ではないだろうか。親しくなってから恋人との話を持ち出されたら、心の傷が深くなる。
 なら、どうやって尋ねる?
 彼女がぼくの好意を読み取って、話かけてくれたら良いのだけれど、世の中、そんなに甘く無いことは分かってる。
 だから連日連夜、ぼくは悩んでいる。
 来店した、彼女に見とれている時以外。
 ああ、彼女はどうしてこんなに、こんなにぼくの心を掴んで放さないのだろう。
 いや、それは嘘だ。ぼくの心が彼女を求め、執着しているだけなのだ。
 彼女の心を掴まえなければならないのはぼくの方で、その想いが募る程に反比例して心は萎縮し、話せなくなる。
 なぜなら、振られるのが恐いから。
 そして、ぼくは堂々巡りを繰り返す。
 ああ、頭がどうにかなりそうだ。
 いや、既におかしくなっているのかもしれない。
 恋をするとは、脳内物質の一種であるドーパミンが放出されている所の状況によってシナプス間に於けるニューロンの受容体に作用して多幸性を増す状態を差すことであって、これは酩酊作用と言っても良いものであり、この事例を今のぼくに当て嵌めるならば、ぼくは彼女に中毒症状を起こしているのであって、彼女すら居なければ、ぼくもこんなに悩まないで済むのではないだろうか。
 そう思うと、ぼくは彼女に支配されているとも言える。それが彼女の意思と無関係であり、ぼくからの一方的なものであったとしても。
 彼女の支配から逃れ、この悩みを一掃するためには、ぼくは殺さなければならないだろう。
 勿論、彼女のことを。
 いや、ちょっと待って。何かがおかしい。
 間違っている。
 けれどどこが間違っているのだろう。
 分からない。
 ぼくには、今のぼくには解らない。
 だけど確かなことはひとつだけ。
 想い焦がれる彼女に対し、ぼくは同じくらいの殺意を抱いている。
  

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