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空の青さが、やけにムカツク

『揺れるココロ、と高鳴るドウキ』__完全自作の小説・詩・散文サイト。携帯からもどうぞ。
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 殴られた衝撃で、アキラの眼球が飛び出した。そのまま彼はビールケースに顔面を強打し、立ち上がった時には、かろうじて視神経の束のみで目玉は体の一部であった。
 けれどそれも一瞬のこと。混乱したアキラは自分の状況を把握できないまま、のたくったので、振り回された眼球は路地裏のコンクリートにぶつかり、結果的に水晶体から体液が漏れ、レンズ体が歪み、視覚という重要な機能を壊滅的なまでに損なった。
 田舎町のキングであったアキラ、突然の裏切り、部下による警察との汚職や敵対チームとの癒着。
 すべてが明らかになった時には、もうすべてが遅かった。
 痛み、右目の損失、部下の裏切り、談合による計画的排除、様々なパニックがアキラを襲う。
 しかし混乱は役にたたない。むしろ行動を制限し活動域を萎縮させる。
 保身のために路上で丸まるアキラ。
 けれど攻撃は容赦なく、鉄板入りの安全靴が脇腹に食い込む。吐き出される空気。呼気を求めて喘いだ頭をスパイクで踏みつかれる。鈍い音がして、鼻軟骨が折れたのが分かった。鼻血が地面に広がる。ようやくつながっていた視神経もここにきて断裂し、眼球が転がった。
 アキラの眼球を誰かが笑いながら摘み、落とし、タバコの火を消す日常的な軽いしぐさで、それを踏み潰した。
 アキラのバラけていた思考回路が、屈辱にまみれた暴力的復讐に収斂される。
 彼は怒力に任せて立ち上がり、睥睨した。
 片目を失い、眼窩からは涙と血に混じった粘性のある体液がこぼれ、潰れた鼻からほとばしる血液も尋常ではない。
 暴行を加えていた者達も、アキラの気迫に圧倒され、一歩二歩と後ずさる。
 アキラはボクシング型のファイトスタイルをとる。しかし片目を失い、距離感が掴めない。が、それでも彼には意地があった。一矢を報いて、前のめりに散ろうとする、敗者に許されたただ一つのプライドというものが。
 息を整え、軽いステップ。バランス感覚を少しでも取り戻し、関節や筋肉等の肉体的ダメージを確認する。
 アキラは不敵な笑みを浮かべた。胸中にこだまする言葉はひとつ「もう駄目だ」それでも笑っている自分。決して楽観視しているどころか、最悪のシナリオが頭を巡るのに、この感情はなんだろう。
 逃げなかった自分、最後の自己満足? いや、そんなちっぽけな所すら通り抜けた、清々しい何かだった。
 数時間、いや、数十後に彼の命は終わるだろう。事実、そうなった。翌日の新聞では数々の事件に埋もれた中の、小さな記事として、数行で扱われた。
 アキラが感じたのは、クソッたれた人生からの脱却を予見したゆえの恍惚感かもしれない。それまでの奔放な生き方への肯定、決して後悔などしないという意志の現れかもしれない。
 いつだって強者は弱者になりえり、弱者も強者になりうる可能性を含んでいる。
 でも、真の強者はいつだって孤独だ。アキラは部下達の裏切りにより、本当の彼らと触れ合えた気がしたのかもしれない。
 いや、アキラ自身にも分からなかったのだ、すべては蛇足だろう。 最後に、アキラが笑った。それだけが救いであり、真実なのであった。
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【ある新聞記事】
 ——さん(14歳)が、××区にて殺害された。犯人は直ぐさま逮捕。動機は「むしゃくしゃしてやった、相手が誰だろうと関係ないと思った」と供述している。

【あるテレビニュースショー】
 リポーター「——さんは、この壁に背を向け、素手で犯人に抵抗したのです。持っていた携帯電話で警察に連絡をしたのですが、しかし無情にも犯人はその携帯電話を取り上げ、彼女を刺殺しました」
 メインキャスター「まったく、これからという未成年に対し、こういった犯罪が後を絶えませんねぇ。しかも自分勝手で短絡的な動機という、これでは被害者も浮かばれません」
 コメンテーター「まったくです。同様の事件というは今までも多く、亡くなった家族の心情には計り知れないものがあるでしょう」

 数日後。

【あるテレビニュースショー】
 リポーター「——さんが、今の医療界では治らない病にかかっていた事が分かりました。しかも彼女の余命は半年、病と戦い、これを受け入れ、静かな生活を送ろうとした矢先の事件だったのです」
 メインキャスター「それひどいですねぇ」
 リポーター「そうなんです。死と向き合い、それを克服し、これから生への決意を固めたという時に、彼女は不幸にも事件に遭遇してしまったのです」
 コメンテーター「あらぁそうなの、お可愛そうにねぇ。私にも同じ年頃の娘が居るから、残されたご両親のお気持ちが分かりますわぁ」
 リポーター「そうなんです。せっかく死を乗り越え、家族皆さんで協力していた矢先の事ですからね」

 数週間後

【あるテレビニュースショー】
 リポーター「——さんが亡くなった事件を風化させないためにも、この悲劇を映画化しようという動きがありまして——」

【ある雑誌の記事】
 ——さん(14歳)が亡くなった事件について、映画制作会社と被害者家族との確執が露わになった。
 家族としては、今後、今までについての苦悩を忘れたいという意見が上がったのだ。
 それに対し、映画制作会社の意見は真っ向から対立している様子である。

 一年後。

【ある雑誌の記事】
 約一年前、——さん(当時14歳)が凶器に倒れた事件が、この度、映画化される事に決まった。
 映画制作会社からの熱心な態度が遺族の心を促したのだろう。キャスティングとしては、今、若手ナンバーワンとの呼び声の高い新人女優の——

 一年と数ヶ月後

【あるテレビニュースショー】
 リポーター「まずは映画公開記念、おめでとうございます。この度の役にあたって苦労された部分はありましたか?」
 主演女優「そうですね、やっぱり病気を克服する場面が難しかったですね。自分だったらどうするかなとか、どういう気分だったのかなとかですとか。それと一番大変だったのが最期の場面ですね、どんな気持ちで亡くなったのかなって。それが一番大変でした」

 その後、彼女の関連本が出版され、家族の手記も制作された。
 しかし、印税やら映画化にあたっての金銭トラブルやらが遺族と出版社、映画配給会社の間で表面化し、裁判沙汰になるまでに発展。
 その後も話題として、何度もマスコミを賑やかしたという。
  

 辛いの?
 ううん、悲しいの。

 寒いの?
 ううん、寂しいの。

 痛いの?
 ううん、触れてほしいの。

 まぶしいの?
 ううん、泣きたいの。

 流されるままで良いの?
 ううん、転がり墜ちたいの。

 どうして否定ばかりするの?
 ううん、君の言う事も本当なの。

 さっきまでの答えは嘘だったの?
 ううん、全部が本当なの。

 分からない。あなたは結局、何がしたいの?
 ううん、本当は、君が一番分かっているはずじゃないの。

 ━━死にたいの?
 ううん……生きているのは確かに怖いけれど━━死ぬのは……死ぬのは、もっと怖い気がするの。


 あなたは、私と暮らしたくないと思っているの!
 だから、迷っているの。

 あなたは、どうして私と別れたいなんて言うの!
 だから、君を不幸にしているのじゃないかと思っているからなの。

 あなたはどうして、そう考えてしまうの!
 だから、僕には生活力が無くて、君に苦労をかけてしまうだけ、そう考えたからなの。

 あなたのおかげで、私は頑張れていたの!
 だから、僕は君の荷物として、疲れたの。

 あなたは荷物なんかじゃないの!
 だから、荷物でないとしても、その位置に疲れたと言いたいの。

 あなたをペット扱いしているとでも言うの!
 だから、言い方なんて関係なく、このままでは、君と僕が腐って行くような気がするの。

 ━━あなたが……私には、あなたが居ないと駄目になるの!
 だから……君は僕と居ると━━駄目になる気がするの。


 なら、私の事が嫌いになったの?
 いや、君の事が大切だから、こうしないといけない気がしたの。

 なら、あなたに依存しているとか、言うつもりなの?
 いや、難しい事は分からないけれど、君の負担になりたくないの。

 なら、あなたは私の負担じゃない。そう言っても、それでもあなたは別れるつもりなの?
 いや、別れるというよりも、このままでは、僕達はどこにも行けない気がするの。

 なら、どこに行くつもりなの?
 いや、それは、まるで分からないの。

 なら、今すぐでなくても良いんじゃないの?
 いや、僕は少しでも早い方が良いと思うの。

 なら、あなたが出て行った後、私はどうしたら良いの?
 いや、君は君のままで良いと思うけれど、それまでには、時間がかかるかもしれないね。だから、ゆっくりでも良いと思うの。

 なら、あなたはどこまでも私が独りで生きていけると思っているの?
 いや、またどこかで会えるかもしれないし、他の素敵な人が現れるかもしれないって思ってるの。

 なら、あなたは本気で、私がパートナーでなくても良いって思っているの?
 いや、僕のパートナーは君だけだと思う。これからも君以上の人とは出会えないと思うし、出会うつもりもね、本当はないの。

 ━━なら……私が生きてく意味がなくなるのと一緒じゃない━━私には、もう何もないの?
 いや、君は強い。僕なんかよりも。だから、君にはもっと先の道へと進んでほしいかったのに、ウッ、なに、包丁、ゲホッ、どうして、どうして……止めろ、君までどうして死のうとする、心中なんかしようとするの?
  

 天使と悪魔は表裏一体の存在だ。
 その顕著な例が、死の天使、サマエル。
 サマエルは始め、病人を天に召すという重要な役割を持った天使であった。
 しかし死を司るという性質のため、いつしか立場は死へ誘う悪魔として堕とされる。
 そして、堕天使となり、死神の扱いを受けることとなった。
 まさしく、聖と邪は表裏一体である。このことに気づいた19世紀の巨人は、神の存在を疑問視し、結果、ツラトシュトラを媒介とし、力への意思を示した。
 だが、彼の指針は個による超人への憧憬であった。 そこに、彼の危うさを見受けることができる。
 畢竟、人間とは社会的生物なのである。
 彼の見落とした部分は、そこにある。
 人とは、人との間、関わりを持ってこその人間なのだ。
 個と個の思考、嗜好、志向とは、微妙に違い、その差によってバランスを保っている。
 互いに研磨し、止揚することによって、人間社会は進歩して行く。
 個と個のつながりが、超人対超人であることが望ましいのだが、自らを全肯定しながらも迷いの中に在る者である。
 したがって、超人とは超人たるがゆえに、己が主張と他者の主張とは僅かな誤謬によって反発することも、想像に難くない。
 それは当然、軋轢をもたらす。
 ならば、これから我々の進むべき道とは何なのか。
 そこに超人と対極にある、全否定をもってするのは安易かつ不適当で不誠実な対応であろう。

 ディスプレイを見て、笹木は溜め息を吐く。
 どうしたって、この後が続かないのだ。
 それも当然と言えよう。
 笹木は巨人の天才ではない。
 彼は、明日締め切りのレポートを書いている一学生にすぎないのだ。
 何杯目かのコーヒーを飲み、笹木はコメカミの強張りをほぐす。
 そしてふと、手を伸ばす。
 壁に掛けられたコルク製のパネル。
 ピンで止められた、いくつか写真。
 実家の猫、彼女の写真、友人の笑顔、ベースを弾く笹木、夜の中で彩られたモンサンミッシェル。
 一つ一つ、笹木は写真に触れる。
 指先で、撫でるように。
 指紋がつくのも構わず。
 手が、安らぎを感じる。
 手に、思い出が伝わる。
 手の、その指先から疲れが薄れ、暖かい優しさに包まれる。
 手を、手を伸ばし、触れただけなのに、笹木は静寂覆われ、一瞬の安らぎに心を奪われる。
 理屈じゃないんだ、笹木は思う。
 小さな集団であっても、無私、無欲、無償、利他、自己犠牲の精神すら、個々人の思いは擦れ違う。
 互いに思い合っていても、どれ程、皆の幸福を考えてした行動であっても。
 それによって、人は諍う。
 人間が、皆同じ考えを持つ方が異常なのだ。何かに突っ走る、集団心理と同様に。
 悲しいけれど、それが現実というものだ。
 人はどこまでも分かり合えない。だからこそ主張し、折り合いを付け、分かった気になって納得という妥協をする。
 しかし、それは馴れ合いだ、予定調和でしかない。
 不協和音を産み出さなければ、閉塞した現状を打破しえない。
 そして、新しい不協和音は、ここにある。
 笹木は手を握り締め、ディスプレイに視線を移す。
 現実と電脳世界。
 二つの世界は交錯し、しかし決して同一視してはならない。
 なぜなら、それは理屈と本能の世界であるからだ。
 今はまだ脆弱で確定定まらない、本能である電脳世界。
 本能が牙を剥き、理性を凌駕した時代。
 何が待ち受けるのか分からない。
 けれど、変革はもう訪れている。
  

 冴えない青年が、海岸を散歩中、古めかしいランプを見つけた。
 半ば砂浜に埋もれていたそれを拾い、青年は砂を払った。
 するとランプから魔神が表れた。
「私はランプの精」魔神は言う。「あなたの願いを━━」
「ああ、良く物語に出てくる奴か」青年は無感動にランプの精の言葉を遮る「三つの願い事を叶えてくれるとかいう?」
「ほう、私を知っているとは話しが早い。しかし願い事には制限があって━━」
「知ってる知ってる」青年さまたも魔神の話しの腰を折る。「願い事を増やしてくれとかいうのがタブーなんだよね」
 魔神は頷き、しかし言った。
「説明を省略されるのはありがたいが、何だか遣りづらいな」
「ま、細かい事は気にすんなって」青年は相変わらずの無感情な口振りで言った。
「それはそうかも知れないが……まぁ良い。取り敢えず願い事があるのなら言え」
「うーん。そうだなぁ」青年は少し考え、言った。「俺、ロクな学歴もないし、最近、出合いもないからなぁ」
「では優秀な頭脳と美女を手に入れたいのだな」
「いやいや、ちょっと待って。それじゃあ、ありきたり過ぎてつまんない気がする」
「なるほど」魔神は言う。「お前は変わり者のようだからな、そうしたモノには興味が無いと言う事か」
「いや、興味が無いってワケじゃないけど……ね」
「ならば何を願う?」
「えーと、そうだな、過去に戻って人生をやり直したい。しかも今の記憶を保持したままで」
「ほう、それは確かに珍しい願い事だ。今の記憶を持ったまま、過去に戻りたいのだな?」
「うん。これが一つめの願い事なんだけど、大丈夫?」
「大丈夫だ。しかし問題は、そうすると残りの二つの願いはどうなるのだ?過去に戻ったら、私と会えなくなる可能性がある。その場合━━」
「じゃあさ、過去に戻った後、今日、この日にまた会うようにしてくれれば良いんじゃね?」
「それが二つめの願いか」
「そう」青年はあっさり言った。「三つめの願い事はその時にでもする、って事でどう?」
 魔神はしばし考え、それが願いならばそうしようと請け合った。
 そして青年は記憶を保持したまま、自分の過去に遡る。
 こうして、幼い体を持った青年が、幼稚園時代に現れた。
 青年、いや、子供に戻った彼は、運動神経はともかく、秀才として持て囃される事となる。
 さらには初恋の相手に子供染みたイタズラをせず、ストレートに自分の気持ちを伝え、優秀さもあって交際が始まった。
 しかも、思いがけないことに、この幼稚園児特有の頭脳、つまり柔軟性を持った脳が、勉強をするために役立った。
 要は残った記憶との相乗効果もあり、彼の才能はめきめきと頭角を表したのである。
 そうして、彼は問題なく進級をし、超一流の国立大学へと進学もし、周りには女の子が集まり、公私とも順風満帆な生活を送っていた。ように思われた。
 しかし━━
 二つめの願い事を叶える時が来た。
 魔神が青年の前に再び現れたのである。
「約束だ、やって来たぞ」魔神が言う。「三つめの願い事はなんだ?」
「あの、さ」青年は頭を掻きながら、気まずそうに言う。その口振りには、以前のようなぞんざいさがない。「言いにくいんだけど……」
「どうした」
「今、かなりの就職難でね、この国一番の大学に通っている俺でも、就職先が見つからない。成績が良い分、プレッシャーが酷くて、正直、今とっても悩んでる」
「では三つめの願いは安定した会社への就職と言うことで良いのかな?」
 青年は魔神の言葉に頭を振る。
「安定した会社に就職したって、先が見えてる。レールの上を走るなんて、考えただけでも億劫だよ。ああ、昔みたいにちゃらんぽらんな生活が懐かしい」
「では」魔神が口を挟む。「元の生活に戻そうか」
 青年は慌てて手を振った。
「やめてくれ、ただの愚痴だよ、愚痴。言ってみただけだ」
「ならば三つめの願い事はどうするのだ」
「起業したい」
「会社を始めるのか? こういった場合、だいたいの人間は働かなくても済むような金を要求するのが普通なのだがな」魔神は続ける。「なるほど、起業した会社が儲かるようにして欲しいという願いだな」
「それじゃつまらないだろうそれこそレールの上を走る代名詞みたいなもんだ」即座に青年は否定した。「こんな時代だからこそチャンスだと思うんだ。だけど起業するにあたっての妙案が浮かばない。そこで、アイデアが欲しいんだ」
「アイデアだけで良いのか?」
 魔神の言葉に青年が頷く。
「そこそこのアイデアで良いんだ。そのくらいのアイデアをもらったら、後は俺の実力で勝負してみたい」
 希望の光を宿した青年の目を見て、魔神はその変わり様の衝撃と共に、久し振りにまともな人間の姿を見た感動を味わった。
  

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