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空の青さが、やけにムカツク

『揺れるココロ、と高鳴るドウキ』__完全自作の小説・詩・散文サイト。携帯からもどうぞ。
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その1

近頃の親子関係っていうのは、一体どうなっちまってるんでしょうね。あたしは独身の身ですから、ほとんど他人事みたいに気楽に話せるんですけれどもね。まあ、なんて言うんでしょうかな、まず第一に親の躾ってのがなってない。先日もね、電車でエライ目に遭っちまったんですよ。幼稚園児くらいの子供でしたかね、靴を履いたままでシートに上がり、窓の外を眺めてる。隣には母親も居るんですよ。しかし叱らない。携帯電話なんかいじってる。子供が子供なら親も親っていう言葉がありますけど、あれは本当だね、親からしてマナーがなってない。あたしが溜息吐いてますとね、母親がジロリとこちらを向いて一言。「何見てんだよ」思わずあたしもね、「あなた電車の中で携帯電話へ電源つけたままじゃマナー違反ですよ」って言っちまった。そしたらその人、目を釣り上げてこうですよ。「ジロジロ見るのもマナー違反じゃないのか」って。ああいう人たちはどうしてこうも屁理屈こねるのが上手いんでしょうかねぇ。しかしあたしだって噺家の端くれ、口で負けたとあっちゃあお師匠様に顔向けできません。「あなた、子供にもマナー違反をさせているじゃあありませんか。土足でシートの上に立ってるのを叱ろうともしない。あなたはマナーを二つも違反しています。それに対してあたしは一つ。あなたの方が分が悪い」けれども相手もなかなかの遣り手でして、こう返されてしまいましたよ。「人の子育てに横から口を出すのもマナー違反でしょ。私は放任主義で育てているのよ」って。なんだかもう相手にするのも面倒になってしまいましてね、「もういいです」って言って車輌を移りましたよ。しかし放任主義って、言葉の意味を履き違えるのも甚だしい。世の中、何か間違ってるなんて良識派振るつもりもないんですがね、けれども見ていて恥ずかしくなっちゃうんですよ。やめてくれませんかね、放任主義って言葉の使い方。

その2
まあねぇ、四十過ぎの独身男にそんなこと言われる筋合いはないなんて言われたら、その通り。返す言葉もありませんけれどもね。ええ。まあ子育てっていうか、家庭を持つこと事態があたしにとっては夢のまた夢ですよ。見合いも何べんも断られてる。噺家の嫁なんかになったら高座で悪口を言われるのがオチだ、ってな具合でしょうかね。ですから、家庭を維持する難しさっていうのは分かりませんが、人を育て、他人と生活をする。想像するだけでも大変双です。苛々するのも分かりますよ。でもねぇ、だからって弱い子供に当たるのは良くないです。ええ。本当に良くないですよ。ですけれど、最近、そういう事件報道が多いでございましょ、中には死亡事件にまで発展することがある。何も殴るのがいけないってわけじゃあない。理由なく殴るっていうのがいけない。それこそ暴力ですからね。でも最近じゃあ、その反対もあるそうで。ネグレクトって言うんだそうですよ。なーんにもしないの。もうとにかくね、子供の面倒を見ない。育児放棄ってやつですよ。子供が構ってもらいたい時に構ってもらえない、愛情が必要なときに愛情をもらえない。これはね、悲劇ですよ。本当に。でもね、こういうことは表面に出なかっただけで昔からあるっていうんだから驚きですよ。虐待されていた子供が成長して、子供ができると虐待してしまうらしいんです。負の連鎖ってやつですよねぇ、本当に。「自分は両親みたいにならない、なりたくない」そう思うそうですが、子供との接し方が分からないそうなんですね。自分が愛されていなかったから愛する方法が分からないってことらしいんです。子供は親の背中を見て育つっていうのは本当のことかもしれません。でもね、どういうわけか自分の場合には当たらない。親父は会社の役員でしたが、あたしはまだまだ前座上がりの二つ目ですからね。どうしてこうもうまくいかないものなんでしょう。人生っていうのは難しいですね。

その3
少々前口上が長くなってしまいましたが、ここからが本題です。江戸とかそれ以前の昔の話なんですが、子供は人扱いされなかったそうなんですよね。と、いうか人間ではなかった。犬猫とかペット扱いだったそうですよ。法律というか因習みたいなものなんでしょうけれど、それには意味があるんです。昔は医療なんて発達していませんでしたからね、子供や赤ん坊は病にかかるとすぐ死んだ。どんどん死んだ。死んだらまた次を産めばいいか、なんて具合だったらしいんですよ。ですから生と死の間の、何か人とは別の神格扱いされる時も、逆にはあったらしいんです。片足をあの世、もう一本の足をこの世に突っ込んだ存在としてね。もちろん将軍様の子供とかお武家様の子供は別ですよ。お世継ぎですからね、大切にしなきゃならない。でね、ある村にわんぱくな男の子がいた。この子はイタズラが大好きで両親を困らせてばかり。しかし両親は咎めようとしないんですな。その村の住人全員が咎めない。この子だけ他の子供と扱いが違う。当然、子供増長するわけです。他の子供はいい気持ちがしない。そこである子供が親に尋ねる。「ねぇ父ちゃん、どうして捨三だけがあんなに特別扱いされるのさ」けれども親は決まり悪そうに口ごもる。実はですね、この捨三、もしも村に飢饉が訪れた時、人身御供にされる運命だったんですな。もちろん捨三自身にはそんなこと知らされていない。けどまあ、幸いにして捨三が大人になるまで飢饉は訪れなかった。大人になった捨三が結婚して、子供ができるまでそのことは秘されていたんですな。捨三は自分の運命を聞いた時にこう言ったそうです。「ざけるな、腫れものみたいに扱いやがって。こんな村が飢饉になった所で、オレはイケニエになんてならんーぞ、むしろ逆に、お前らを食ってでも生き延びてやらあ」そこに村長が言います。「安心しろ。もうその必要はなくなったのだから。お前の任は解かれ、その運命はお前の子に引き継がれる」そう言われて捨三は愕然とするわけです。なんてことだとショックを受けて気を落とす。つまりそういう家系だったんでしょうなぁ。残酷なことです。そこで彼はふと思い、村長に尋ねてみる。「じゃあオレの前任は――」「お前の父親だよ」村長の言葉を聴いて捨三は父親の元へ走り、訴える。「おっ父、おっ父ならオレの気持ちをわかっていたはずだ、どうしてあんな育て方をしたんだ、俺はずっと寂しかったんだぞ」すると父親は泣きながら謝る。「すまねえ、すまねえなぁ捨三。オレも同じようにして育てられたから、子供の育て方が分からなかったんだ」と。そこで捨三は心に誓うわけです。自分の子供には愛情をたっぷりと注いで育てようと。そしてもしも飢饉が来た時には、村を捨ててもいい。自分の子供だけは必死で守り通そうと。けれど――けれども子供ができて八年目、ついに飢饉が訪れてしまったのです。捨三は子供の佐吉を背負い、村を出ようとしますが村人も必死です。家を取り囲み、松明を手にして脅かします。「佐吉を神様に捧げねえなら、このまま家に火を放つぞ」何人かの村人の「死なばもろともじゃあ」という声と、「そうじゃそうじゃ」と賛同する声。みな飢饉という危機的状況に鬼気迫る迫力です。家には捨三と佐吉は元より、女房に佐吉の弟や妹たち。捨三の大事な大事な家族がいるのです。捨三は迷った。多いに迷った。その時に背中の佐吉が捨三に声をかけます。「おっ父、オラ死んでもいいぞ」外の声によって子供ながらも自分に何を求められているのか、佐吉は察したのでしょう。捨三は慌てます。「佐吉、何を言うか」「でもおっ父、オラが死なねば、みんな殺されてしまうんじゃろ。オラおっ父とおっ母が死ぬのは嫌じゃ。弟たちが死ぬのも嫌じゃ」「しかし佐吉、オレも佐吉が死ぬのは嫌なんだ」「でもおっ父――」「いいや駄目だ」「ならばおっ父、どうするだ」「うーむ」捨三悩みに悩み、こう言います。「ならば、みなで死のう」しかし佐吉は暴れて反対する。「いやじゃいやじゃ」佐吉と捨三をつなぐ縄をほどき、佐吉は叫びながら外へ出てしまいました。驚いた捨三も佐吉を追いかけ、外に出ます。佐吉は村人の腕に捕まりながらも家族を助けてくれるよう懇願しておりました。腕を引かれる佐吉を見て、捨三は叫びます。「佐吉、分かった。そこまで言うのなら――村の衆よ、お前たちに連れられていくのなら、オレがこの手で佐吉を神様の所へ届けたい」そして諸諸の儀式が執り行われ、捨三は佐吉を再び背負います。二人は姥捨て山の話のように、山の中へ登って行くわけですが、その道中、捨三は自分たちの生まれを呪い、佐吉に謝り続けていました。「すまねえな、本当にすまねえな佐吉よう」「いんやおっ父、そんなに謝んねえでくれ」「だけでもよう」「いんや。オラは幸せだっただ。おっ父とおっ母の子供に生まれて、本当に幸せだっただ」それでも捨三は謝ることをやめず、涙を流しながら山道を登り続けました。――子供の幸せとはいったいなんなんでしょうかねぇ。この世の中は難しいことばっかりでございます。
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タイトル無し
『口減らし』とも違う、『人柱』。
一部山陰ではよくある光景だったようですな。
今の世に無くてよかったと思ったものの、その時代には自分もそんな目に遭っていたかもしれないと思うと、
今感じているこの感情を、その時にも感じていたらいいなぁと思う。

でも、改行が少ないと読みにくいっすね
(^-^;

わがままですんません
(^-^;
774っていう。 2008 / 01 / 22 ( Tue ) 00 : 30 : 20 編集
Re:タイトル無し
>『人柱』

ああ、その言葉、すっかり忘れてました。
思い出してたら、もうちょっとスッキリ出来てたかもしれません。

>でも、改行が少ないと読みにくいっすね

小噺と掛けていたので、こんな形式にしてしまいました。ちょっぴりやり過ぎでしたかね(^_^;)
【 2008 / 01 / 22 23 : 10 】
ふむ
子供と別れて生活している現在、
身につまされる思いで読んでおりました。

その光景を俯瞰しているような気にさせられる。
親の愛情が手に取るように解る。
そんな気がします。
たったかた~ 2008 / 01 / 24 ( Thu ) 08 : 41 : 22 編集
Re:ふむ
子育ては本当に難しそう、だらしない自分に、子育てはできそうにありません。
想像するだけでも大変そうですからね。
お子様が健康な笑顔で、毎日を送っていますように(^人^)
【 2008 / 01 / 25 14 : 35 】
あの~
その2の4行目に口座ってなっているけど、
これは高座ですよね?
たったかた~ 2008 / 01 / 26 ( Sat ) 22 : 15 : 03 編集
Re:あの~
>その2の4行目に口座ってなっているけど、
>これは高座ですよね?

あ、確かに。ご指摘ありがとうございました。
【 2008 / 01 / 28 08 : 56 】
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