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空の青さが、やけにムカツク

『揺れるココロ、と高鳴るドウキ』__完全自作の小説・詩・散文サイト。携帯からもどうぞ。
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人は、運命を変えることができるのだろうか。
浩二は運命の別れ目に立たされていた。
一人の女性と自分の人生。
どちらを選ぶのか。
――どちらも手に入れたい。
彼を貪欲とみなすことは簡単だろう。しかし未来の拓けつつある今、その一言で彼を断定するのは酷というものかもしれない。
浩二はF-1のテストドライバーとして選ばれたのだ。
この成績次第では、彼のF-1への昇格が決まり、長年の夢が叶う。
その夢が叶ったら――広美という彼女にプロポーズをするつもりでもある。
人生におけるクライマックスの一つ、今、浩二には大事な時であり、最大のチャンスの時なのだ。
広美は彼のレーサーという職業ゆえに、絶えず不安の中にいる。
いつ、大事故を起こし、大怪我、さらには最悪の事態となるか分からない。
その不安が二人の愛の絆を深めているという皮肉な側面もあるだろう。
浩二の危険な香りに惹かれている自分を広美は自覚している。
不安と安定、広美はその狭間で悩みながらも、彼の不安定をこそ求めている自分を否定しきれない。
だが、浩二の安全を願う気持ちに嘘偽りはなかった。本心からレースの無事を思っている。
――アンビバレンツ。
相反する願いと想い。
人は誰しもそうしたものを持っている。
そして悩み、決断することに人生の美しさもまた、あるのだろう。
でも、その間で苦悩する時、人は人知を超えた何かに思いを託し依存してしまうものだ。
誰にだって思い当たることはあるだろう。
広美は不安を払拭したくなる時に、ある占い師に頼ってしまうことがある。
あまり有名ではない占い師ではあるが、その的中率は高く、知る人ぞ知る占い師であった。
事実、広美はこの占い師に今まで何度も相談し、従い、その結果が外れたことは一度もない。
浩二と二人で占ってもらったこともある。
その時に言われたことは今でも忘れたことはない。
二人は出会うべくして出会い、運命の名の下に結ばれる、まさに最高の相性であるということであった。
――まさに運命の二人。
その結果に二人は当然満足し、浩二もその占い師のことを認めるようになった。
この占い師は都合の良いことを言うだけではなく、厳しい言葉も言うこともあり、それがさらに信頼を得ることに拍車をかけている。
浩二のテストドライバーが決まった時、広美は当然のようにその占い師を訪ねた。
――が、その結果は芳しいものではなかったのだ。
占い師の言によると、今回の話はパスし、三年後までガマンをするべきだと言う。
広美には納得のいく結果ではなかったので食い下がった。
なぜ今では駄目なのか、どうして三年後まで待たねばならないのか。
占い師はいつになく歯切れが悪かった。
不信感を抱いた広美は、占い師をなじる言葉を吐いた。
その末に、占い師は重い口を開く。
そして広美は――打ちひしがれた。
今回のテストドライバーの話を受ければ、浩二は酷い大事故を起こしてしまうという。それは命を失うほど重大な事故で、どんなことをしてでも止めるべきという内容だったからだ。
もちろん、この話を蹴ってしまってはデメリットも大きい。
次のチャンスまで三年の時間が開いてしまうのはそのせいでもある。
広美は、この結果を浩二に言うべきか否か悩んだ。
希望を前にした彼に話すべき内容ではないだろう。しかし命に関わるとなれば話は別――だが、浩二が聞く耳を持つかどうか。
広美は、しかしこの話を浩二に告げることにした。
彼の危険な香りが好きとはいえ、本当に大事故が起こってしまっては二度と会えないかもしれないのだ。
この話をすることで彼に嫌われるかもしれない。けれど永遠に失うことはしたくない。
二人には運命で結ばれた絆があるのだから。
決断の下、広美は浩二に占いの結果を伝えた。
浩二は占い師の言葉を鼻で笑った。
いくら認めているとはいえ、占いなどは結局、当たるも八卦当たらぬも八卦と言うではないかと。
広美は食い下がるが、浩二は頑として聞かない。
広美にはまだ言っていないが、浩二としてはプロポーズもかかっていることなのだ、簡単に折れることなどできるはずもない。
その日は喧嘩別れになってしまった。
テストドライブまでまだ日はある。
広美はじっくりと彼を説得しようと思い、日を空けることにした。
浩二はテストドライブが終わってからのことを思い、サプライズイベントの用意を始めた。
互いに連絡を取りつつも、二人は会って話をすることができない日々が続く。
広美が業を煮やして浩二の元に赴いた時、サプライズイベントとしてのプロポーズを耳にしてしまった。
広美は嬉しさの中で舞い上がり、希望的観測に逃げてしまう。
――そう。占いは所詮占い。すべてが現実になるわけではない。事実、あの占い師にしたって外れたことがないわけでもないだろう。今回がまさに外れの時。
広美は浩二に会わず、何も知らないふりをして帰った。
テストドライブ当日――
準備万端で浩二は体調も良かった。
いいタイムが出そうだ。
浩二には、その確信があった。
一週目はエンジンの暖まり具合や路面のコンディションやウィングの角度と計器のチェック等々といった確認作業をしながら軽く流していく。
シミュレート通り、エンジンの心地よい唸り、路面に張り付くタイヤから伝わるサスペンションの振動、軽快なシフトチェンジに滑らかなハンドル捌き。
ラストコーナを曲がり、ストレートに入って最高速までスピードを上げる。
二週目、本番、タイムアタック。
ブレーキ、シフトダウン、理想的なライン取りで最初のコーナーを曲がる。アクセル、シフトアップ、すぐにシフトダウン、エンジンブレーキ、S字コーナーを直進するように走る。アクセル、シフトアップ、スピードを上げて次のコーナーへ。
遠くから広美が見守っている。
アウトインアウト、コーナーを遣り過す。アクセル、シフトアップ、リアが滑る。修正、少しのタイムロス。しかしまだ許容範囲内。ヘアピンカーブに入るためのラインを取る。外側から徐々にスピードを落とし、シフトダウン、ブレーキ、急ハンドル、内側を突いて流れるように外へ膨らむのはセオリー通り。アウトからアクセルを踏み、流れるテールを力技で制御する。体制を立て直すことに成功し、さらにアクセル、シフトアップ、最後のゆるくて長いカーブ。シフトダウン、エンジンブレーキ、遠心力を味方につける。ハンドルの角度は固定したままでアクセル。コーナーを抜け、ストレート、アクセルベタ踏みでシフトアップ、最高速度で二週目を終え、ガッツポーズ。
手応えはあった。
今までのベストタイムかもしれない。
浩二は再びハンドルを握り、ブレーキを踏む。
しかしスピードは落ちない。
トラブル、ピットへ向けて異常の報告。耳元で聞こえるクルー達の慌てた声、声。
シフトダウン、エンジンブレーキを効かせようとするがギアに故障発生、通信、クルーの声、ハンドルを握る手は恐怖で固まり動けない。そして浩二は――風になった。

広美は涙を流している。
浩二の遺影を前にして。
運命の人を失ってしまった彼女のこれからはどうなってしまうのだろうか。
運命に抗い切れなかった男、運命に翻弄された女。
運命には時に別れ道があり、人には運命を変える力があるという。
しかしそれが最悪の方向に変わり、変えてしまった場合、残された一人の女に、立ち向かう術はあるのだろうか。

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こーじー.・゚・(ノДT)・゚・.
すごく読みやすく、走行中の描写がステキ。
ちょっと気になったのは、
『不安と安定、広美はその狭間で悩みながらも、彼の不安定をこそ求めている自分を否定しきれない。』
ってとこの『不安定をこそ』が、『不安定こそを』じゃないかなぁ?ってとこかな。
そのままでいいようならごめんなさい(^-^;
774っていう。 2008 / 02 / 17 ( Sun ) 07 : 18 : 25 編集
Re:こーじー.・゚・(ノДT)・゚・.
走行以外の描写が粗筋っぽくはなってませんでしたかね?
ちょっと枚数の関係上そうせざるを得なかったのですが、ちょっと不安が残っているものでして(^_^;)

『不安定こそを求めている自分を否定しきれない』だと『を』が近くて重なってしまう気がしたのです。
しかし読み返してみると『不安定をこそ求めている自分を否定しきれない』では、ちょっとくどすぎるかもしれませんね。
『不安定こそを求めている自分を、否定しきれない』の方がいいのかなぁ。
このご指摘は勉強になりました。ありがとうございますm(_ _)m
【 2008 / 02 / 19 23 : 12 】
まさに
こんにちは。

この話を読んで、少し解決の糸口がつかめそうです。

ありがとうございます。
たったかた~ 2008 / 02 / 17 ( Sun ) 09 : 28 : 27 編集
Re:まさに
お役に立てたなら、何よりです。
負担が軽くなるといいですね

【 2008 / 02 / 19 23 : 13 】
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