まったくこの世には馬鹿が蔓延しているものだと鉄也は思う。
学校内での乱射事件が起こるたびに、毎回毎回。
けれども彼の沸点は人とは違い、事件が起きたことに対する怒りではなく、犠牲になった対象、つまりは犯人の狙いや動機に対してである。
学校内で乱射事件を起こす理由は一体何だろうかと考えてみる。
若者の可能性への嫉妬?いや。犯人も大抵は若者だ。ならば落ちこぼれがエリートに対する劣等感でもあろうか?けれども鉄也には注目を浴びたいがための単なる恣意行動に思えてならない。
それはテロのような信条もない、ただ迷惑な子供の我がままによる目立ちたいがための無意味な行動にすぎない。
改めて彼は思う。
まったく、同世代として恥ずかしい。本当に――本当にこの世は馬鹿で溢れている。
――自分だったら、もっと有用なところで乱射事件を起こすのに。
……いや、起こしてみようか。
世の中に手本を示すのだ。
狙うは老人施設。
殺害の後に自害などしない。できる限りの施設を破壊し、老人を殺害し、福祉構成の支出を抑える。これこそ次世代に対する恩恵を与える崇高な目的のためになされる対策であり、現実問題においての命の優先順位、老害の排除、エセボランティアの壊滅などなど、社会に発するメッセージを内包する。
こんなに重要かつ攻めるに容易な対象などないだろう。
彼の思いは半ばドストエフスキー著『罪と罰』に描かれる主人公ラスコーリニコフの思想とも一致するものであるのだが、それを読んでいないために、彼にはラスコーリニコフと自分の思考を比較することも検討することも類似性に悩むこともしなかった。
彼はただ、自分の考えこそが正しいものなのだという信念の元に行動を移してみようと思っている。
自宅から程よい距離にあり、捜査線上に自分の浮かばなそうな場所の老人ホームをインターネットにて検索する。
いくつかの候補先が見つかり、鉄也は移動料金のなるべく安く済みそうなところに対象を絞り込む。
武器はどうしようか。
モデルガンやエアーガンを購入し、インターネットで改造する術を調べてみることにしてみようかと思い、鉄也はアングラサイトを調べまくる。
なるべく足がつかないように。
なるべく速やかに。
モデルガン、エアーガン、改造部品や工具をバラバラに注文手配し、手に入れる。
――そして武器は完成した。
続くは下見だ。
鉄也は人気の多い日曜日に、面会者と混じって老人施設に入り、警備や監視カメラの配置を調べる。介護社員の会話や言動などから類推し、決行時間は深夜、それも火曜日が望ましいのではないかと考えた。
武器の扱いを練習するために、サバイバルゲームのサークルに入り、銃の基本的な扱い方や照準の狙い方を学んだ。
――そして、いざ決行の火曜日深夜。
鉄也は数々の貧弱なセキュリティを突破し、施設内の廊下に立っている。
トイレの窓から侵入したのだ。
侵入方法はクライムサスペンスの小説や映画による情報が功を奏した。
中腰に威力アップした銃を構える。
足音を偲ばせ廊下を進む。
と、左奥のドアが無防備に開く。
中から一人の老人。トイレに行こうとでもして部屋を出てきたのだろうか。
しかしそれが運の尽きだったな。
記念すべき第一の犠牲者――に、その老人はなるはずだった。
しかし……老人は鉄也に気づくと素頓狂な声を上げた。
「鉄也君、鉄也徹君じゃあないかね?」
何故自分の名前をこの老人が知っているのか、鉄也は狼狽える。
「私だよ、中学の時の担任だった花山だ」
「――花山先生!」
鉄也は思わず萎縮する。
十年前には厳しかった恩師がこんな所に、しかも好々爺然としてそこに立っている。
鉄也はギャップと驚きに固まってしまったのだった。
「君は成績優秀だったなあ、鉄也君。私の教員生活において唯一IQ200を越える天才だった」
花山は遠い目をしてそう言った。
しかし鉄也は実際の所、目立つことのない生徒だった。IQ200なんてあるはずもない。
良く見ると、花山の瞳は胡乱で焦点が定まっていない。
さてはボケたかと思い、鉄也は銃を構え直して平常心を保とうとする。
しかし花山は無警戒に近寄り、鉄也の銃をしげしげと観察する。
「これは良い銃だねぇ」花山はむんずと銃身を掴んだ。「私は若い頃ガンマニヤだったのだよ」
即座に銃を撃てば良かったのだが、鉄也にもまだ人としての良心が残っていたものと見える。彼は躊躇し、そうしているうちに花山に銃を奪われてしまった。
花山は興味深そうに銃をいじり回し、銃口を鉄也に向ける。
「ばーん」
口で言いながら花山は引き金を引いた。
軽い発射音とともに飛び出した弾丸は鉄也の皮膚を抉り、頭蓋骨を砕いた。
「うは」花山は感嘆の声を上げる。「いい反動だ」
花山は皮肉にも第一の犠牲者となってしまった鉄也の体から武器類をすべて強奪し、嬉声を上げる、
「うはははははは」
かくして老人の、老人による、老人に対する未曾有の惨劇が起こったのだった。
学校内での乱射事件が起こるたびに、毎回毎回。
けれども彼の沸点は人とは違い、事件が起きたことに対する怒りではなく、犠牲になった対象、つまりは犯人の狙いや動機に対してである。
学校内で乱射事件を起こす理由は一体何だろうかと考えてみる。
若者の可能性への嫉妬?いや。犯人も大抵は若者だ。ならば落ちこぼれがエリートに対する劣等感でもあろうか?けれども鉄也には注目を浴びたいがための単なる恣意行動に思えてならない。
それはテロのような信条もない、ただ迷惑な子供の我がままによる目立ちたいがための無意味な行動にすぎない。
改めて彼は思う。
まったく、同世代として恥ずかしい。本当に――本当にこの世は馬鹿で溢れている。
――自分だったら、もっと有用なところで乱射事件を起こすのに。
……いや、起こしてみようか。
世の中に手本を示すのだ。
狙うは老人施設。
殺害の後に自害などしない。できる限りの施設を破壊し、老人を殺害し、福祉構成の支出を抑える。これこそ次世代に対する恩恵を与える崇高な目的のためになされる対策であり、現実問題においての命の優先順位、老害の排除、エセボランティアの壊滅などなど、社会に発するメッセージを内包する。
こんなに重要かつ攻めるに容易な対象などないだろう。
彼の思いは半ばドストエフスキー著『罪と罰』に描かれる主人公ラスコーリニコフの思想とも一致するものであるのだが、それを読んでいないために、彼にはラスコーリニコフと自分の思考を比較することも検討することも類似性に悩むこともしなかった。
彼はただ、自分の考えこそが正しいものなのだという信念の元に行動を移してみようと思っている。
自宅から程よい距離にあり、捜査線上に自分の浮かばなそうな場所の老人ホームをインターネットにて検索する。
いくつかの候補先が見つかり、鉄也は移動料金のなるべく安く済みそうなところに対象を絞り込む。
武器はどうしようか。
モデルガンやエアーガンを購入し、インターネットで改造する術を調べてみることにしてみようかと思い、鉄也はアングラサイトを調べまくる。
なるべく足がつかないように。
なるべく速やかに。
モデルガン、エアーガン、改造部品や工具をバラバラに注文手配し、手に入れる。
――そして武器は完成した。
続くは下見だ。
鉄也は人気の多い日曜日に、面会者と混じって老人施設に入り、警備や監視カメラの配置を調べる。介護社員の会話や言動などから類推し、決行時間は深夜、それも火曜日が望ましいのではないかと考えた。
武器の扱いを練習するために、サバイバルゲームのサークルに入り、銃の基本的な扱い方や照準の狙い方を学んだ。
――そして、いざ決行の火曜日深夜。
鉄也は数々の貧弱なセキュリティを突破し、施設内の廊下に立っている。
トイレの窓から侵入したのだ。
侵入方法はクライムサスペンスの小説や映画による情報が功を奏した。
中腰に威力アップした銃を構える。
足音を偲ばせ廊下を進む。
と、左奥のドアが無防備に開く。
中から一人の老人。トイレに行こうとでもして部屋を出てきたのだろうか。
しかしそれが運の尽きだったな。
記念すべき第一の犠牲者――に、その老人はなるはずだった。
しかし……老人は鉄也に気づくと素頓狂な声を上げた。
「鉄也君、鉄也徹君じゃあないかね?」
何故自分の名前をこの老人が知っているのか、鉄也は狼狽える。
「私だよ、中学の時の担任だった花山だ」
「――花山先生!」
鉄也は思わず萎縮する。
十年前には厳しかった恩師がこんな所に、しかも好々爺然としてそこに立っている。
鉄也はギャップと驚きに固まってしまったのだった。
「君は成績優秀だったなあ、鉄也君。私の教員生活において唯一IQ200を越える天才だった」
花山は遠い目をしてそう言った。
しかし鉄也は実際の所、目立つことのない生徒だった。IQ200なんてあるはずもない。
良く見ると、花山の瞳は胡乱で焦点が定まっていない。
さてはボケたかと思い、鉄也は銃を構え直して平常心を保とうとする。
しかし花山は無警戒に近寄り、鉄也の銃をしげしげと観察する。
「これは良い銃だねぇ」花山はむんずと銃身を掴んだ。「私は若い頃ガンマニヤだったのだよ」
即座に銃を撃てば良かったのだが、鉄也にもまだ人としての良心が残っていたものと見える。彼は躊躇し、そうしているうちに花山に銃を奪われてしまった。
花山は興味深そうに銃をいじり回し、銃口を鉄也に向ける。
「ばーん」
口で言いながら花山は引き金を引いた。
軽い発射音とともに飛び出した弾丸は鉄也の皮膚を抉り、頭蓋骨を砕いた。
「うは」花山は感嘆の声を上げる。「いい反動だ」
花山は皮肉にも第一の犠牲者となってしまった鉄也の体から武器類をすべて強奪し、嬉声を上げる、
「うはははははは」
かくして老人の、老人による、老人に対する未曾有の惨劇が起こったのだった。
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Re:無題
ありがとうございますよ。
大好きなグロ描写を控えた甲斐がありました。
大好きなグロ描写を控えた甲斐がありました。
なる
こんばんは。
ラストに騙された…。
毎回、楽しく読ませて頂いています。
私は昔、若者による事件などはよくプロファイリングしていましたが、その心境がわからなくもない程度まででしたね。
それで出した結果が、違うものは勇気だけでした。
まぁ、憶病者だから今こうしていられるのでしょうがね。
ラストに騙された…。
毎回、楽しく読ませて頂いています。
私は昔、若者による事件などはよくプロファイリングしていましたが、その心境がわからなくもない程度まででしたね。
それで出した結果が、違うものは勇気だけでした。
まぁ、憶病者だから今こうしていられるのでしょうがね。
Re:なる
この話を書いた後に銀座での通り魔事件が起きたため、掲載をずらしてみました。
嫌なタイミングでした。
嫌なタイミングでした。
うーむ。
感慨深い作品で、作品には全く比はないのに、アクセスがうまくできない事が辛かったw
まず、トップに入れないw
なんとかアクセスしたら、詩に入れないw
コメントからなんとかアクセスして、こんどはコメント欄に入れないw
ようやく連打の末、アクセスして、今に至りますw
呪いか?!
Σ(゚_゚;)
まず、トップに入れないw
なんとかアクセスしたら、詩に入れないw
コメントからなんとかアクセスして、こんどはコメント欄に入れないw
ようやく連打の末、アクセスして、今に至りますw
呪いか?!
Σ(゚_゚;)
Re:うーむ。
今は大丈夫なんでしょうか?
面倒おかけしてすみません。続いているようならば運営にメールしてみます。
それから、管理人の友人が仕事で忙しいため、コメントに気付けなかったとのこと。返信が遅れまして申し訳ありません。
重ねてお詫び致しますm(_ _)m
面倒おかけしてすみません。続いているようならば運営にメールしてみます。
それから、管理人の友人が仕事で忙しいため、コメントに気付けなかったとのこと。返信が遅れまして申し訳ありません。
重ねてお詫び致しますm(_ _)m