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空の青さが、やけにムカツク

『揺れるココロ、と高鳴るドウキ』__完全自作の小説・詩・散文サイト。携帯からもどうぞ。
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「ムカツクぜ」ベロベロに酔っ払ったショウはもつれた舌で怒鳴る。「クソッタレ! 工場長め!」
「仕方がねーよ、ショウ」オレの正面で半分眠りかけているのはカイだ。「仕方ねぇ」
「お前は」ショウはカイの肩に腕を回す。「あの場に居なかったから、そう言えるんだよ」
「そうかもしれねぇ」
「正直なヤツだな、お前はよ」
 ショウはカイの頬にキスをした。
 吐き気がする。
 唾を吐き、立ち上がろうとする。
 しかしショウが俺の腕を掴んだ。
「ドコ行くんだよ」
 濁った瞳。網の目のように血走る目。
「ドコだってイイだろうが」
 オレはショウの手を振り払おうとする。が、ヤツはなかなか放さない。
 タチが悪い。
 ショウの胸に蹴りを入れると、ヤツはバランスを崩してカイを道連れに転がった。
 人気のない公園を突っ切り、俺はその場を離れる。
「クソヤロウ!」背後でショウが叫ぶ。「今度会ったらブットバシてやる!」
 無意味なエネルギーの放出だ。どうせヤツは明日になったら忘れてる。
 何かが壊れているんだ。きっと。だから無駄なエネルギーを消費させている。
 やりきれない夜。
 道路には昼間に降った雪が、泥にまみれて残っている。
 排ガスとタイヤの汚れの混じった水の結晶。
 人の溜息まで混じっているような気がした。
 溶けかけてミゾレ状になっている雪を、思い切り踏みつける。
 弾け飛ぶ不純物。何かの臓物みたいに見えるゲル状のそれは放物線を描いて落下する。
 シャリッシャリッとした感触を味わいながら、無機質な街灯の下を歩いていく。
 凍えるツマ先。
 靴の中に水が入ってきやがった。
 頭はまだ酔っているのに、体が急速に冷えていく。
 忌々しい! 近くのコンビニへ向かい、入って行く。
「いらっしゃいませ」
 奥から出てきた寝ボケ顔の店員を無視して、酒のあるコーナーへ向かう。
 ウィスキーを手に取り、レジに向かう途中で腹が減っていることに気付き、チキンサンドに手を伸ばす。
 金を払う。
 レジ袋に包まれた商品を受け取り、扉に手を掛ける。
 もう少し、この中で温まる必要がある気がしてきた。
 雑誌のラックに足を運び、適当な週刊誌をつまむとぺらぺらめくる。
 文字が頭の中で揺れている。その震える動悸は、やがてダンスするみたいにぐるぐる回り始める。
 言葉の意味なんて、もう分からない。文字という記号がただ踊っているだけ。
 意味をなくした記号なんてゲロ程の価値もない。それなのに、どうして俺をこんなにも苦しめるのか。オレにはそれが理解できなかった。
 ぐるぐるゆらゆら震えて踊る。
 死んだ記号のクセしやがって。
 いや、死んだ記号だからこそ、ゾンビみたいに動いているのか?
 鼻の奥に腐臭を感じる。
 気分が悪くなって、雑誌を放り投げる。
 コンビニを出て、新鮮な空気を吸おう。
 扉に向かって走りかける。
 影。
「ソレ、出して」店員だ。
「アァ?」気分が悪いんだ、今度来た時に相手をしてやるから、今は外に出させてくれ。
「酔ってるからって万引きは良くないよ。早くポケットから手を出して」
 おいおいふざけるな。おれは何も取っちゃいないぜ。頼むから外の空気を吸わせてくれよ。
「さぁ、早く」店員は俺の肩に手を置いた。「それとも奥の事務所に行こうか?」
 店員の腐りかけた脂っこい臭いが鼻をついた。
 オレは口元を押さえたが間に合わなかった。
 ゲロが飛び出て散らばる。口の中から、指の間から、オレの服へと、店員のユニフォームへと。
「キッタネーな」
 店員の言葉が、オレをブチ切れさせた。
「テメーのせいっだらーがぁっ!!」
 店員を殴る。
 ボコボコにだ。
 それからもう一度、店員の顔に向けてゲロを吐くと、気分が少し落ち着いた。
 コンビニを出て、ようやく新鮮な空気にありつけた。
 ゲロに汚れたレジ袋からウィスキーの瓶を取り出すと、蓋に撒きつけてあるプラスティックを剥がし、キャップを開けた。
 ひとくち飲んで、歩き出す。
 雪の上を歩きながら、チキンサンドを食べ始める。
 結局、オレには行き場がないんだ。
 足は自然と公園へ、ショウとカイの元へと進んでいる。
 公園に戻ると、カイは寝ている。ツマ先で突いた。
「凍死するぞ」
「大丈夫だよ」ショウが言った。「俺が家まで運んでく」
「ホラ」ウィスキーを手渡す。
 ショウは本当に良いやつだ。
「サンキュ」ショウはラッパ飲みをする。
 どこかでパトカーのサイレン。
「何かあったのかな」ショウが言う。
「知らねーよ。どこかの酔っ払いが凍死してんじゃねーの」オレは答える。
 だけど、何を血迷ったのか、数分後には警官達が俺の手に手錠を掛けていた。
 ヤツらは言う。
「コンビニ強盗め」
「ッレは何もしてねーよ!」
「黙ってろ、酔っ払い」叫ぶオレを警官の一人が殴りつける。「このクズが」
「やめてくれ」オレは酒臭い息をぶちまける。「酔ってんだ、また吐いっちまうだろうが!」
 いや、吐いても良いか。どうでも良い。これはアルコールのせいだろうか。最低だ。違う、最低なのはオレなんだろうな。ならばこの狂った世界はオレ自身。だったらラヴ。この世界とオレ自身のために。
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