[聞く](音読 774さん)
私の場合、なぜか良い予感はことこごとく外れてしまうのです。
代わりにみなさんご想像の通り、悪い予感は的中率百パーセントでございまして。
何とも困ったことでございますよ。
例えば車を運転している時、信号が黄色に変わり、ブレーキが間に合いそうにない。ここは強引にアクセルを踏んでしまおうと思い、多少危険ではありますがスピードを上げたのです。あら、何か嫌な予感。そう思った時でした。脇道からパトカーがサイレンを鳴らして登場致します。スピーカーは私に警告を発し、路肩へ停めると信号無視のキップを切られましたよ。
しかしまあ、この件につきましては私にも問題があり、仕方の無い部分があります。ですけれどもね、その後です。
パトカーが去って、反則金に心痛めていた時のことです。
車に戻り、エンジンをかけたとたんに来ましたよ。
あ、嫌な予感。
ブレーキを踏むべきでした。
いくらなんでも二回連続でトラブルなど無いだろうと、楽観していたのがいけませんでした。その種の予感は外れるのです。言わば法則の二乗。気が付くべきでした。
車のタイヤがバースト致しまして、ブロック塀に激突。むちうち症になりましたよ。ハンドルに胸を打ちつけ、肋骨も折れました。はい。
自力で救急車を呼んだのは覚えています。
大体の番地といいますか、交差点の名前を告げ、そこで意識を失いました。
病院での生活も不運の連続でしたよ。
ええ。
担当のナースさんが、いわゆるドジッ娘でしてね。
点滴の針は射ち間違える、胸の上に物を落とす、食事の時間を忘れられて空腹になる。そんな女性だったんですよ。
でもね、私は結構幸せでした。そんなドジッ娘でも。
いえ、自分に嘘は吐きますまい。
ええ。好きでした。彼女のことが。
恋をしてしまったんです。
ドジッ娘?
むしろ萌え。
彼女の足音が聞こえるたびに、私の心臓は高鳴り、恋の予感にめらめらと――そうなのです。そのようなプラスの予感は外れるのです。
分かっていました。
ですから私は遠くから彼女を見ているだけでいい。
彼女の笑顔を見られるだけでいい。
そう思っていました。
でもね、ある時、ふと思ったんですよ。
あのナース、上の名前は違っても、下の名前はどこかで聞いたと。
いいや、どこにでもあるようなありふれた名前だし、まさかそんなと。
でもね、嫌な予感は、やっぱり当たるんです。
やっぱりそうでした。
彼女は私の後輩であり、片思いの末に告白をして断られたマネージャーだったのです。苗字が違うのは結婚していたためでした。
さらに言うなら、彼女のドジッ娘ぶりは本当のドジではなく、私を嫌うゆえの仕打ちだったのです。
ええ。
私は泣きましたよ。
独り、屋上に上がって、泣きました。
誰かに聞かれたら嫌だなあと思っていたので、きっと誰かに聞かれていたことでしょう。
もちろん、その誰かとは彼女のことなんですが。ですが、きっとそうなっているはずです。彼女に聞かれて――おお恥ずかしい。
でもね、いいんです。
もういいんです。
どうでもいいんです。
本当にいいんです。
どうなったって構いやしないんです。
すべてをね、もう諦めてしまったんです。
心の中が空っぽになってしまいましたよ。
泣いたせいでしょうかねぇ。
あ~あと溜息を吐いてぼんやりと地面を見ていました。
クルクルとね、土埃が渦を巻いていましたよ。
もしや竜巻なんて起こったりして。そう考えた私が馬鹿でした。渦巻きは本当に竜巻になってしまったんです。私が予感してしまったせいです。
竜巻は、どうせこちらへ向かってくるんだろうなと予感しました。
はい、的中です。
私の体は、空気洗濯機でもみくちゃにされた服のポケットから出てきたゴミクズのようにクルクルと舞い上がり、落ちて行きます。
ああ――私はこれで死ぬんだな。
そう予感しましたよ。
死んですべてが終わるんです。
彼女とも会わず、仕事の嫌らしい苦しみから抜け出せ、なあんだ、そんなに悪くはないじゃないか。死んでもいいや。そう思ったんです。
でもね、良い予感は必ず外れるんです。私の場合。
だから私はまだ死ねず、こうして生きているんですよ。
全身打撲で入院期間が増えましてね。担当は彼女のまま変わらず。仕事である盗撮の罪の意識に苛まれながらもね。
うひひ。
私の場合、なぜか良い予感はことこごとく外れてしまうのです。
代わりにみなさんご想像の通り、悪い予感は的中率百パーセントでございまして。
何とも困ったことでございますよ。
例えば車を運転している時、信号が黄色に変わり、ブレーキが間に合いそうにない。ここは強引にアクセルを踏んでしまおうと思い、多少危険ではありますがスピードを上げたのです。あら、何か嫌な予感。そう思った時でした。脇道からパトカーがサイレンを鳴らして登場致します。スピーカーは私に警告を発し、路肩へ停めると信号無視のキップを切られましたよ。
しかしまあ、この件につきましては私にも問題があり、仕方の無い部分があります。ですけれどもね、その後です。
パトカーが去って、反則金に心痛めていた時のことです。
車に戻り、エンジンをかけたとたんに来ましたよ。
あ、嫌な予感。
ブレーキを踏むべきでした。
いくらなんでも二回連続でトラブルなど無いだろうと、楽観していたのがいけませんでした。その種の予感は外れるのです。言わば法則の二乗。気が付くべきでした。
車のタイヤがバースト致しまして、ブロック塀に激突。むちうち症になりましたよ。ハンドルに胸を打ちつけ、肋骨も折れました。はい。
自力で救急車を呼んだのは覚えています。
大体の番地といいますか、交差点の名前を告げ、そこで意識を失いました。
病院での生活も不運の連続でしたよ。
ええ。
担当のナースさんが、いわゆるドジッ娘でしてね。
点滴の針は射ち間違える、胸の上に物を落とす、食事の時間を忘れられて空腹になる。そんな女性だったんですよ。
でもね、私は結構幸せでした。そんなドジッ娘でも。
いえ、自分に嘘は吐きますまい。
ええ。好きでした。彼女のことが。
恋をしてしまったんです。
ドジッ娘?
むしろ萌え。
彼女の足音が聞こえるたびに、私の心臓は高鳴り、恋の予感にめらめらと――そうなのです。そのようなプラスの予感は外れるのです。
分かっていました。
ですから私は遠くから彼女を見ているだけでいい。
彼女の笑顔を見られるだけでいい。
そう思っていました。
でもね、ある時、ふと思ったんですよ。
あのナース、上の名前は違っても、下の名前はどこかで聞いたと。
いいや、どこにでもあるようなありふれた名前だし、まさかそんなと。
でもね、嫌な予感は、やっぱり当たるんです。
やっぱりそうでした。
彼女は私の後輩であり、片思いの末に告白をして断られたマネージャーだったのです。苗字が違うのは結婚していたためでした。
さらに言うなら、彼女のドジッ娘ぶりは本当のドジではなく、私を嫌うゆえの仕打ちだったのです。
ええ。
私は泣きましたよ。
独り、屋上に上がって、泣きました。
誰かに聞かれたら嫌だなあと思っていたので、きっと誰かに聞かれていたことでしょう。
もちろん、その誰かとは彼女のことなんですが。ですが、きっとそうなっているはずです。彼女に聞かれて――おお恥ずかしい。
でもね、いいんです。
もういいんです。
どうでもいいんです。
本当にいいんです。
どうなったって構いやしないんです。
すべてをね、もう諦めてしまったんです。
心の中が空っぽになってしまいましたよ。
泣いたせいでしょうかねぇ。
あ~あと溜息を吐いてぼんやりと地面を見ていました。
クルクルとね、土埃が渦を巻いていましたよ。
もしや竜巻なんて起こったりして。そう考えた私が馬鹿でした。渦巻きは本当に竜巻になってしまったんです。私が予感してしまったせいです。
竜巻は、どうせこちらへ向かってくるんだろうなと予感しました。
はい、的中です。
私の体は、空気洗濯機でもみくちゃにされた服のポケットから出てきたゴミクズのようにクルクルと舞い上がり、落ちて行きます。
ああ――私はこれで死ぬんだな。
そう予感しましたよ。
死んですべてが終わるんです。
彼女とも会わず、仕事の嫌らしい苦しみから抜け出せ、なあんだ、そんなに悪くはないじゃないか。死んでもいいや。そう思ったんです。
でもね、良い予感は必ず外れるんです。私の場合。
だから私はまだ死ねず、こうして生きているんですよ。
全身打撲で入院期間が増えましてね。担当は彼女のまま変わらず。仕事である盗撮の罪の意識に苛まれながらもね。
うひひ。
PR
この記事にコメントする
Re:微妙に
>後味の悪さが残りますね。
次回もそんな感じですw
次回もそんな感じですw
Re:おぉ…
>嫌な予感は連続して当たってしまうものですよねw
ありますよね、まさにオカルトです。
ありますよね、まさにオカルトです。