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空の青さが、やけにムカツク

『揺れるココロ、と高鳴るドウキ』__完全自作の小説・詩・散文サイト。携帯からもどうぞ。
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家畜の群れの中に野生の生き物たちも加わって、会議を開いております。
議題に上がっているのは神様からのお知らせでありました。
そのお知らせとは、来年元日に催す宴についてのものであります。辿り着いたものから順に、十二番目の者にまでお神酒を振るまいになり、かつ、何がしかの栄誉を賜ることができるというものでありました。
動物たちは異言語ながら、どういうわけか意思の疎通が取れております。
ボデーアックション等の言葉ではないツールを用いてのコミュニケッションを執る故でありましょうか。
南米のスカンク等という生物はおならを持って自らの憤怒を伝えるという妙な感情表現方法をするそうであります由、音以外によるツールがありましてもなんら不可思議に思われることもないかと存じます。
さてはて、動物たちがそのように面妖なる思考伝達方法を有していると致しましても、私達人間が理解するには難のあるため、不肖私が言語化、翻訳したいと思います。
まず、牛がこう申しております。
「オレ、足遅いから早めに出発しようと思う」
それを聞いた気の良さそうな土竜が土から頭を出し牛を眺めます。
「そんなことみんなの前で言っちゃいけないよ。そういうことは頭の中に留めておくべきさ」
「だけどオレ、一人じゃ寂しいから、誰か一緒に行ってくれるヤツがいるか聞きたくて」
牛の言葉に反応し、頭を働かせる小動物が一匹。
ねずみ色をしたねずみであります。
ねずみは牛の耳に近付くと何やらコショコショと話を持ち掛けておるようです。
虎や狼といった強者等は、自分の前を行く奴は全員食ってやるとか息巻いておりますが、上位の獣である龍や麒麟に「それは御法度」と注意を受けてしまいました。
百獣の王の姿は見えませんが、これ以上の栄誉なんていらないという王者の余裕でもあるのでしょうか。
全体として獣達を見てみると、大物で名の知れたような動物は威風堂々と、貫禄と言いましょうか、それほど焦りもない様子。
小物達は必死でもあるのでしょうが、半ば諦めムードが漂っておりますようです。
一番切羽詰って真剣なのが、知名度も印象も中途半端な羊やカモシカ、タコ、イカ、アカミミガメといった連中でして…おやおや、それに輪をかけて熱心な連中がいるようです。
この連中は悪名の高く、この栄誉で持って汚名返上、名誉挽回と息巻く蛇、ハイエナ、キツネ、ブラックバスにブルーギルといった動物達でした。
まあ、そういったわけでライオンを除く、想像、現実の境界線を越え――おっとっと、失礼。昔はきちんと龍も麒麟も白沢も存在していたのでございます。ちょっと口が滑りましたがご容赦して下さいませ。
まあ兎に角、そこに人間とライオン以外のありとあらゆる動物が集まって――おやおやおや、これはおかしい。ちょっと待ってくださいよ――
――ここにも居ない――あそこにも居ない――
――どうやら、ライオンに加えて猫も居ない様子でございます。
ライオンと猫…共通点は猫科というところでしょうか、それにしたって虎や豹、チーターといった同じ猫科の動物は群れに混じているわけで。はてさて、これは一体どうしたことでございましょうか。
おっと、猫の不在に気付いた一群がいるようです。
犬やアリクイ、スズメにカマイタチという妙ちくりんな組み合わせ。
その一群が会議の輪から離れます。
犬の嗅覚に頼って猫の居場所を探す様子。スズメは空から探しております。
程なく猫が見つかりまして、犬、アリクイ、スズメにカマイタチは猫に話し掛けました。
「猫さんや」
犬の呼び掛けに猫は振り向きます。
「おやおや、犬さんどうしたんだい。珍しい連中を引き連れているじゃないか」
「何を呑気なことを言っているのさ」そう言ったのはスズメです。「いつもあたしを睨んでいるすばしこい目を持つアンタらしくもない」
「何のことだね」
「何を素っとぼけてるんだい、さては皆目興味のない振りをして、いの一番に神様の酒宴に駆けつける気なんだろうよ」
「ああ、神様の呼び出しのことかい。生憎とオイラにゃ興味の無い話でね。それよりスズメっ子よ、アンタにゃとことん嫌われたもんさね」
「あたり前だよぅ。アタシの仲間がアンタに何羽やられたことか――」
「スズメさんや」アリクイが口を挟みました。「この集まりにはそういう話は無しっていう決め事があった筈だよ」
「分かったよぅ」スズメはそれきり黙ってしまいました。
「しかし猫さんや、本当に興味が無いのかね?」カマイタチが抜け目なく尋ねます。「本当に?」
「何だい、面倒臭いやね。興味は無いよ」
「ライオンのタテガミに誓って?」
「ああ、誓うよ。ライオンのタテガミに誓う。オイラは神様の宴なんぞに興味は無いね」
カマイタチは縦長の猫の瞳を覗き込みます。
「どうやら本気のようだ」カマイタチは皆に向かって言いました。
「しかし何だってそこまでやる気がないのかね?」アリクイは不思議がって、気持ちを口に出しました。
「その日にゃ人間の婆さまの所に泊まる予定なんだよ」猫は事もなげに言いました。
「婆さまの家に何があるっていうんだい」異口同音、皆が猫に聞きました。
「いんにゃ。何もないでよ。ただ泊まりに行くだけだ。アンタらも暇なら一緒に泊まらんかね?」
皆が呆気にとられているうちに、猫はヒタヒタと歩き去ってしまいました。
会議の輪に戻りながら、皆は猫についての感想を口にします。
「まったく猫は相変わらずの自分勝手だよ」スズメに続いてアリクイが「勝手気儘だね」さらにカマイタチが引き継いで言います。「まぁこれで競争相手が減るってもんさ」
そんな中、犬だけがこう言いました。
「勝手というより、猫は頑固者なのさ。神様の宴よりも自分の都合を優先させるんだからね」

日は過ぎ去って正月になります。正月とは言っても旧暦のものでして、実際今の元日とは違うわけですが――細かいことはさて置きまして。
神様の宴に辿り着いた順番は、皆様御存知の通り子丑寅卯辰巳馬未申鳥戌亥といった面々であり、栄誉というのが、干支に選されるということだったわけでございます。
そして問題の猫はというと――
戸を叩き、声を掛けます。
「ちょいとごめんよ。開けとくれ」
勿論、中の婆さまにはニャーとしか聞こえません。聞こえませんが、ああ猫が来たなと戸を開ける。
夜遅く、寝床には布団が敷かれております。婆さまは先程まで横になっていたために、布団は温まっておりまして、猫は一目散に温まった布団に駆け寄り、丸まります。
「お前は寒がりだねぇ」婆さまも布団の中に入ります。「こんな婆さまの所に来るなんて、お前も暇なもんだよ」
神様の宴のことなど知らない婆さまは言います。が、猫は何も言わずに大人しくしております。
「爺さまが死んでから、毎日来てくれてありがとうよ」婆さまは猫の体をそっと撫でます。「お前のおかげで少しは寂しさも薄まるよ」
「しみったれた話はすんなぃ」猫の言葉は婆さまの耳にはニャアとしか聞こえません。「毎日おまんまもらって、そのついでに寝床まで借りてるだけだよ」
言葉は伝わらないとは言え、猫の照れ隠しはニュアンスとして婆さまに伝わったようでございます。
「そうかい。そうかい」
顎を撫でられ猫はゴロゴロと喉を鳴らしました。

婆さまも眠り、神様の取り決めによって干支の順番が決まった頃、布団の中で丸まったまま、猫はポツリと言いました。
「こうして法は整い、時は過ぎていくんだなぁ」
そんな哲学的な言葉も、部屋の中にはただニャアとしか響きませんでしたとさ。
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無題
ニャア。
器が広すぎてないも同然なくらい!
素敵でした。
NONAME 2007 / 11 / 13 ( Tue ) 01 : 03 : 23 編集
Re:無題
ありがとうございます。
猫好きとしては、これくらい孤高な感じでいて欲しかったのです。
【 2007 / 11 / 13 11 : 56 】
ほほう。そうきましたか。
なんだか猫が
(゚∀゚)イイ!奴
になってて、
『あー、こういうのもいーなー』
って思いましたよ。
(^-^)

その後のおばあさんも気になるんですがねw
774っていう。 2007 / 11 / 13 ( Tue ) 06 : 44 : 04 編集
Re:ほほう。そうきましたか。
楽しんで頂けたようで良かったです。
猫さんには『むかしばなし』で悪役を演じてもらったので、今回はイイ役にしときましたw
【 2007 / 11 / 13 11 : 56 】
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