「あ」犬のタローは言った。「あ、あ、あ、耳に虫が入った。うるさいうるさい」
タローはしきりに耳をいじっている。
しかし前足はピンと立った耳を寝かせるだけ。犬の足では耳の穴の虫を取り出せるはずもなかった。
「あっ。もう。じれったいなぁ」タローは次第にイライラしてくる。「誰でもいいから取ってもらわないと」
そこに運よく、知り合いの三毛猫がやって来た。
猫は歩みを止め、ニヤニヤと面白そうにタローのしぐさを見つめている。
タローはやがて三毛猫に気付き、声をかける。
「おお、ミケさんじゃないか。ボーっと見てないで手伝ってくれよ」
「手伝うって、何を手伝うんだい?」ミケはチョコンと座り顔を洗う。「顔の洗い方だったらこうすればいいだけだよ。しかし珍しいね。犬が顔を洗うなんて。明日は月でも降ってくるのかねぇ」
「何を呑気なことを言っているんだい。今はそんな冗談を聞いてる場合じゃないんだよ」
切羽詰ったタローの言い草に、ミケは興味を掻きたてられる。
「タローさん、一体全体どうしたって言うんだい?」
「耳に虫が入っちまって」タローは耳をヒクヒクさせながら言った。「うるさくてたまらんのだよ。ミケさんお願いだ、耳の中の虫を取っ払ってくれないかね」
「何だい、そんなことかい」ミケは一気に興味を失ったようだった。「全くタローさんときた日にゃいつもその調子だから、こっちのほうが参っちまうよ。食べ物見りゃすぐにヨダレを垂らすし、人間が来ればすぐに尻尾を振る。何だろね、即物的って言うのかねぇ。その単純さは確かに愛らしいところもあるよ。けれどもいつまでもその調子じゃ――」
「止めとくれ止めとくれ。自分の単純さは自分が一番良く知っている。そんな説教を聞くために声をかけたんじゃないんだ。ミケさんや、早くこの虫を取っておくれよ」
「分かったよ。仕方がないねぇ」
ミケは調子良く話していた所に水を差された腹いせのためか、気怠そうに、しかし優雅に尻尾を立てて近寄ってくる。
「どれどれ、ちょいと失礼するよ」
タローの頭に前足を乗せ、耳の中を覗き込む。
「ありゃあ、これはデッカイ蝿だねぇ。こんなのがあたしの耳に入ったら気絶しっちまうよぅ」
「だから言ったじゃねぇか」タローは苦言を呈す。
しかしミケはいたってマイペースだ。
「蝿も出たがってるみたいだねぇ。ぶぶぶ、ぶぶぶともがいているよ。しかしあんたの耳毛が絡まって出られない様子さね」
「止しとくれ止しとくれ。そんな観察をしてもらうためにお前さんに声をかけたわけじゃないんだよ」
「分かっているよ。うるさいねぇ」
しかしミケの瞳は爛々と光っている。
「分かっているなら早いところ取っておくれ」
タローは耳を動かしたいのを我慢しながら言う。前足でタッスタッスと地面を踏みつけた。
ゴクリと唾を飲む音。
「ミケさんや?」タローは少し不安になる。
「ミケさん、どうしたのかね?」
ミケは返事をせず、ニュウッと爪を伸ばす。
「おいおいミケさん、何か言っとくれ。不安になるじゃあないか」気を紛らわそうと、タローは努めてオドケてみる。
「心配することはないよ」
ようやく返ってきたミケの言葉。
だがどこか上気したように熱っぽい。
タローは嫌な予感がした。
「ニャ!ニャニャアニャア!」
タローの嫌な予感は的中したようだ。
猫の本能。ミケはそこが耳の中なのを忘れて、もがく蝿に踊りかかった。
バリバリと引っ掻かれるタローの耳。
「キャンキャイン」
「痛い!痛いよミケさん!」
「うるさいニャー!黙れニャ!フギャーフニャー!」
タローの悲鳴も、蝿にじゃれつくことに夢中なミケには届かない。
「ギャインギャイン!非道いよミケさん――」
ズタボロになった血塗れの耳を被うようにタローは逃げる。
いつまでも追い続けるミケ。
――こうして、犬と猫の仲が悪くなったとかならなかったとか。
タローはしきりに耳をいじっている。
しかし前足はピンと立った耳を寝かせるだけ。犬の足では耳の穴の虫を取り出せるはずもなかった。
「あっ。もう。じれったいなぁ」タローは次第にイライラしてくる。「誰でもいいから取ってもらわないと」
そこに運よく、知り合いの三毛猫がやって来た。
猫は歩みを止め、ニヤニヤと面白そうにタローのしぐさを見つめている。
タローはやがて三毛猫に気付き、声をかける。
「おお、ミケさんじゃないか。ボーっと見てないで手伝ってくれよ」
「手伝うって、何を手伝うんだい?」ミケはチョコンと座り顔を洗う。「顔の洗い方だったらこうすればいいだけだよ。しかし珍しいね。犬が顔を洗うなんて。明日は月でも降ってくるのかねぇ」
「何を呑気なことを言っているんだい。今はそんな冗談を聞いてる場合じゃないんだよ」
切羽詰ったタローの言い草に、ミケは興味を掻きたてられる。
「タローさん、一体全体どうしたって言うんだい?」
「耳に虫が入っちまって」タローは耳をヒクヒクさせながら言った。「うるさくてたまらんのだよ。ミケさんお願いだ、耳の中の虫を取っ払ってくれないかね」
「何だい、そんなことかい」ミケは一気に興味を失ったようだった。「全くタローさんときた日にゃいつもその調子だから、こっちのほうが参っちまうよ。食べ物見りゃすぐにヨダレを垂らすし、人間が来ればすぐに尻尾を振る。何だろね、即物的って言うのかねぇ。その単純さは確かに愛らしいところもあるよ。けれどもいつまでもその調子じゃ――」
「止めとくれ止めとくれ。自分の単純さは自分が一番良く知っている。そんな説教を聞くために声をかけたんじゃないんだ。ミケさんや、早くこの虫を取っておくれよ」
「分かったよ。仕方がないねぇ」
ミケは調子良く話していた所に水を差された腹いせのためか、気怠そうに、しかし優雅に尻尾を立てて近寄ってくる。
「どれどれ、ちょいと失礼するよ」
タローの頭に前足を乗せ、耳の中を覗き込む。
「ありゃあ、これはデッカイ蝿だねぇ。こんなのがあたしの耳に入ったら気絶しっちまうよぅ」
「だから言ったじゃねぇか」タローは苦言を呈す。
しかしミケはいたってマイペースだ。
「蝿も出たがってるみたいだねぇ。ぶぶぶ、ぶぶぶともがいているよ。しかしあんたの耳毛が絡まって出られない様子さね」
「止しとくれ止しとくれ。そんな観察をしてもらうためにお前さんに声をかけたわけじゃないんだよ」
「分かっているよ。うるさいねぇ」
しかしミケの瞳は爛々と光っている。
「分かっているなら早いところ取っておくれ」
タローは耳を動かしたいのを我慢しながら言う。前足でタッスタッスと地面を踏みつけた。
ゴクリと唾を飲む音。
「ミケさんや?」タローは少し不安になる。
「ミケさん、どうしたのかね?」
ミケは返事をせず、ニュウッと爪を伸ばす。
「おいおいミケさん、何か言っとくれ。不安になるじゃあないか」気を紛らわそうと、タローは努めてオドケてみる。
「心配することはないよ」
ようやく返ってきたミケの言葉。
だがどこか上気したように熱っぽい。
タローは嫌な予感がした。
「ニャ!ニャニャアニャア!」
タローの嫌な予感は的中したようだ。
猫の本能。ミケはそこが耳の中なのを忘れて、もがく蝿に踊りかかった。
バリバリと引っ掻かれるタローの耳。
「キャンキャイン」
「痛い!痛いよミケさん!」
「うるさいニャー!黙れニャ!フギャーフニャー!」
タローの悲鳴も、蝿にじゃれつくことに夢中なミケには届かない。
「ギャインギャイン!非道いよミケさん――」
ズタボロになった血塗れの耳を被うようにタローは逃げる。
いつまでも追い続けるミケ。
――こうして、犬と猫の仲が悪くなったとかならなかったとか。
PR
この記事にコメントする
Re:無題
ほんわかした話のつもりだったんですけどね(^_^;)
Re:これを読んだら
次作のヒント、ありがとうございますよ。
自分なりにアレンジして…全然違う話になりそうですがw
自分なりにアレンジして…全然違う話になりそうですがw