トミーとリーとジョーンズの三人は、孤児院の中でも指折りの暴れん坊三人組だ。
彼らの行く先では常にトラブルが巻き起こる。
三人のリーダーは、リー。状況判断に優れ、持ち前のすばやさと機転は残りの二人を牽引する。
ジョーンズは一見すると優等生のようで、悪さなどとは無関係に見えるが、それこそが彼のカムフラージュなのだ。彼の頭脳はイタズラを考えるために神様が与えたとしか思えないほど刺激的で、型破りだ。
そしてトミー。彼は食いしん坊の太っちょで、いつもお菓子を手にしている。チョコレートバーが大好きで、お尻のポケットには、いつでも溶けかけたチョコバーが入っていると噂されている。他の二人の足を引っぱるのが彼の役目といえるかもしれない。ジョーンズの言った手順を間違え、リーの判断と別な行動をし、あげくに大人に捕まると二人の名を白状してしまう。
三人が並んで怒られるのも、一種、見慣れた光景だ。
だからといって、二人がトミーを避けることも無い。
少年時代の友情とは利害関係を無視して形造られることがある。意外と複雑な関係性といえるかもしれない。
所で、三人が名前を呼ばれるのは冒頭の順番。つまりはトミー、リー、ジョーンズの順に呼ばれることがほとんどだ。
リーダーであるリーが最初に呼ばれないのは、いつも決まってトミーの後ろ姿が見つかる率が高いせい。捕まるのはいつもトミーが一番初めだから――というのは表向きで、本当はハリウッドスターにちなんだものと言った方が正確だろう。
もちろん、彼らもその呼ばれ方を気に入っているし、三人の好きな映画はメン・イン・ブラックだ。
そんな三人が秘密基地で会議をしていると、黒いスーツを着た一人の紳士が現れた。
「M・I・Bだ!」三人は一斉に声をあげた。
「HAHAHA」紳士は白い歯を見せて笑った。「おじさんはそんなに格好いい者じゃないよ」
「どこから入ってきたの」リーが尋ねる。
「そんなことはどうでもいいじゃないか」まるでワイリーコヨーテのように日焼けをした褐色の肌。「君たちをパーティーに招待しようと思ってね」
「パーティーってなんの?」食いついたのはトミーだ。「食べ物は出るの?」
「ちょっと変わったパーティーでね。ハンバーガーの試食会も兼ねてるんだ」
「なんでぼくたちに――」
「ハンバーガー!」ジョーンズの疑問の言葉を、トミーの絶叫がかき消した。「ぼくハンバーガー大好きだよ!チョコレートバーの次くらいに」
「それは良かった!」紳士は両腕を広げる。
「ハンバーガーを大好きな少年たちに会えて、私はとても幸運だよ。いろんな意見が聞きたいな」
「行こう!リー」トミーが呼び掛ける。
「オレはピクルスが苦手なもんでね」リーは紳士を胡散臭そうな目で見ている。
「オールオーケーさ」紳士は親指を立て、キラリと白い歯を見せた。「もちろんピクルス抜きだってあるからね」
「リー」ジョーンズはリーの服を引っぱる。「どう考えてもおかしいよ」
「分かってる。だけどアイツを見ろよ」リーはトミーを指差した。「完全に舞上がっちまってる。トミーは肉汁溢れるパテを想像しただけであの始末だ。どうにか止めないと」
「そうだね」
ジョーンズが頷くと紳士は言った。
「少年達、相談はまとまったかい?こっちの君は行く気満々だね!君たちはどうだい?」
「基地の場所までバレちまってる。話を合わせて、後で逃げるぞ」リーはジョーンズに囁き、次に男に向かって返事をする。「オーケー、分かったよ。とりあえずどこへ行けばいいんだ?」
「そうかい!良かったよ! ベリーラッキーハッピーデイだね! すぐそこに車を待たせてあるんだ、さあ行こう、すぐ行こう。レッツゴーだよ、ゴーゴーゴー」
用意の周到さに緊張する二人を知ってか知らずか、トミーは「ヒァウィゴー」などと叫んで外へ出た。
車には運転手がエンジンを吹かして待っていた。
紳士は三人の少年を後部座席へ座らせると、自らは助手席に座る。
運転手がなにやら操作をすると、前席と後部席の間にガラスの仕切りが現れた。
リーは即座にドアを開けようとするが、ドアはロックされている。
続いてガスの噴出音がしたのと同時に、三人は気を失った。
気が付くと、トミーはベルトで椅子に固定されていた。
リーとジョーンズの姿は見えない。
両手は自由なのだが、ベルトの継ぎ目が見当たらない。どんな構造をしているのだろう。
手の届く範囲にはハンバーガーが山盛りになっていて、正面にはテレビモニターが一台あった。画面は四分割されていて、そのうちの三つにトミーとリーとジョーンズの当惑した顔が映されている。
残りの一つには、あの紳士。
「何だこれは!」
リーの怒鳴り声が聞こえてきた。
どうやら音声はつながっているようだ。
「リー、ジョーンズ」トミーは泣いた。「ごめんよう、ぼくのせいでこんなになって」
「トミーのせいじゃないよ」冷静さを失うまいとしながらも、ジョーンズの顔は引きつっている。「初めから勝負は着いていたんだ。多分、アイツが基地に来るずっと前からね」
「クールだねえ、ジョーンズ君。その通りさ」紳士は変わらぬ笑顔を顔に張り付かせている。
「君達が孤児院に来たときから運命は決まってたのさ」
「どういうことだ!」リーが喚く。
「いいだろう。答えてあげるよ。君達の居た孤児院は、我々組織の出先機関でね。君たちの様などうしようもない子供をモルモットに、優秀な子供を組織の一員にしているのさ。もちろん私もあの孤児院の出身者だ」
「モルモット……」ジョーンズが蒼褪める。
「それで、何が起きるの?」トミーが言った。「ぼくたちをどうするつもり?」
「知ってるかい?」紳士はもったいぶる。「毒性の弱い細菌でも、宇宙、つまり無重力下によって毒性が強まるという事実がNASAによって公表されている。我々組織はそこに注目した。地上では無害な細菌を食べさせ、宇宙に上げることによって凶暴化した細菌による宇宙テロが実行できるのではないか、とね。君たちには、その被験体になってもらう」
「い、嫌だよ!」トミーは涙ながらに訴えた。
「もう遅いんだよ」紳士がなにやら操作をすると、トミーの足にちくりと刺激が走った。「空腹感をもたらす薬品を注射した。トミー君はどこまで耐えられるかな?」
薬が回ってきたのか、紳士の言った通り、トミーは腹ペコになる。そして目の前にはハンバーガー。しかしこれには細菌が混じっているはずなのだ。
「フフ、ハハハハハ」ジョーンズの笑いが響いた。「そんな実験、できるわけがない。どうやって無重力の影響を確かめるのさ」
「君たちの部屋には特殊な仕掛けが施されていてね。こちら側からの操作で簡単に無重力になるんだよ」
ジョーンズの余裕は一蹴された。
「食べるなトミー」リーの声だ。「食べなければ良いだけの話なんだ」
「しかし何日保つかな」紳士は冷笑する。「私たちにはたっぷり時間がある。何日でも待つつもりだよ。君達がハンバーガーを食べるまでね。いくらなんでも飢え死にしたくはないだろう」
「あああああ」トミーは恐怖に絶叫した。
その時だった。
銃声が轟き、紳士の姿がモニターから消えた。
変わりに映ったのは、車を運転していた男。彼の手には発砲したばかりの拳銃。
「いつまでも、お前の言いなりになって堪るかよ」運転手は言った。「この計画だって、元々は俺の発案したものなんだ。いつまでも手柄を横取りされ続けてられるか」
もう一度、銃を撃ち、紳士の断末魔が聞こえた。
「やった!これでぼくたち助かったんだね!」安心したトミーは空腹に耐え切れずハンバーガーをほおばる。
無重力でないなら無害のはずだ。
トミーは油断しきっていた。
「いいや、助からないね」運転手がなにやら操作をする。「この世界は下克上。手柄は全部、俺のものだ」
トミーの部屋のハンバーガーがフワリと動き、無重力になる。
数分後、リーとジョーンズは体中の穴から血を流して絶命しているトミーの姿を、モニター越しに見つめていた。
恐怖に怯え、空腹感に耐えながら。
「さて、君たちはいつまで我慢できるかな」
運転手はそう言うと、ニヤリと笑った。
彼らの行く先では常にトラブルが巻き起こる。
三人のリーダーは、リー。状況判断に優れ、持ち前のすばやさと機転は残りの二人を牽引する。
ジョーンズは一見すると優等生のようで、悪さなどとは無関係に見えるが、それこそが彼のカムフラージュなのだ。彼の頭脳はイタズラを考えるために神様が与えたとしか思えないほど刺激的で、型破りだ。
そしてトミー。彼は食いしん坊の太っちょで、いつもお菓子を手にしている。チョコレートバーが大好きで、お尻のポケットには、いつでも溶けかけたチョコバーが入っていると噂されている。他の二人の足を引っぱるのが彼の役目といえるかもしれない。ジョーンズの言った手順を間違え、リーの判断と別な行動をし、あげくに大人に捕まると二人の名を白状してしまう。
三人が並んで怒られるのも、一種、見慣れた光景だ。
だからといって、二人がトミーを避けることも無い。
少年時代の友情とは利害関係を無視して形造られることがある。意外と複雑な関係性といえるかもしれない。
所で、三人が名前を呼ばれるのは冒頭の順番。つまりはトミー、リー、ジョーンズの順に呼ばれることがほとんどだ。
リーダーであるリーが最初に呼ばれないのは、いつも決まってトミーの後ろ姿が見つかる率が高いせい。捕まるのはいつもトミーが一番初めだから――というのは表向きで、本当はハリウッドスターにちなんだものと言った方が正確だろう。
もちろん、彼らもその呼ばれ方を気に入っているし、三人の好きな映画はメン・イン・ブラックだ。
そんな三人が秘密基地で会議をしていると、黒いスーツを着た一人の紳士が現れた。
「M・I・Bだ!」三人は一斉に声をあげた。
「HAHAHA」紳士は白い歯を見せて笑った。「おじさんはそんなに格好いい者じゃないよ」
「どこから入ってきたの」リーが尋ねる。
「そんなことはどうでもいいじゃないか」まるでワイリーコヨーテのように日焼けをした褐色の肌。「君たちをパーティーに招待しようと思ってね」
「パーティーってなんの?」食いついたのはトミーだ。「食べ物は出るの?」
「ちょっと変わったパーティーでね。ハンバーガーの試食会も兼ねてるんだ」
「なんでぼくたちに――」
「ハンバーガー!」ジョーンズの疑問の言葉を、トミーの絶叫がかき消した。「ぼくハンバーガー大好きだよ!チョコレートバーの次くらいに」
「それは良かった!」紳士は両腕を広げる。
「ハンバーガーを大好きな少年たちに会えて、私はとても幸運だよ。いろんな意見が聞きたいな」
「行こう!リー」トミーが呼び掛ける。
「オレはピクルスが苦手なもんでね」リーは紳士を胡散臭そうな目で見ている。
「オールオーケーさ」紳士は親指を立て、キラリと白い歯を見せた。「もちろんピクルス抜きだってあるからね」
「リー」ジョーンズはリーの服を引っぱる。「どう考えてもおかしいよ」
「分かってる。だけどアイツを見ろよ」リーはトミーを指差した。「完全に舞上がっちまってる。トミーは肉汁溢れるパテを想像しただけであの始末だ。どうにか止めないと」
「そうだね」
ジョーンズが頷くと紳士は言った。
「少年達、相談はまとまったかい?こっちの君は行く気満々だね!君たちはどうだい?」
「基地の場所までバレちまってる。話を合わせて、後で逃げるぞ」リーはジョーンズに囁き、次に男に向かって返事をする。「オーケー、分かったよ。とりあえずどこへ行けばいいんだ?」
「そうかい!良かったよ! ベリーラッキーハッピーデイだね! すぐそこに車を待たせてあるんだ、さあ行こう、すぐ行こう。レッツゴーだよ、ゴーゴーゴー」
用意の周到さに緊張する二人を知ってか知らずか、トミーは「ヒァウィゴー」などと叫んで外へ出た。
車には運転手がエンジンを吹かして待っていた。
紳士は三人の少年を後部座席へ座らせると、自らは助手席に座る。
運転手がなにやら操作をすると、前席と後部席の間にガラスの仕切りが現れた。
リーは即座にドアを開けようとするが、ドアはロックされている。
続いてガスの噴出音がしたのと同時に、三人は気を失った。
気が付くと、トミーはベルトで椅子に固定されていた。
リーとジョーンズの姿は見えない。
両手は自由なのだが、ベルトの継ぎ目が見当たらない。どんな構造をしているのだろう。
手の届く範囲にはハンバーガーが山盛りになっていて、正面にはテレビモニターが一台あった。画面は四分割されていて、そのうちの三つにトミーとリーとジョーンズの当惑した顔が映されている。
残りの一つには、あの紳士。
「何だこれは!」
リーの怒鳴り声が聞こえてきた。
どうやら音声はつながっているようだ。
「リー、ジョーンズ」トミーは泣いた。「ごめんよう、ぼくのせいでこんなになって」
「トミーのせいじゃないよ」冷静さを失うまいとしながらも、ジョーンズの顔は引きつっている。「初めから勝負は着いていたんだ。多分、アイツが基地に来るずっと前からね」
「クールだねえ、ジョーンズ君。その通りさ」紳士は変わらぬ笑顔を顔に張り付かせている。
「君達が孤児院に来たときから運命は決まってたのさ」
「どういうことだ!」リーが喚く。
「いいだろう。答えてあげるよ。君達の居た孤児院は、我々組織の出先機関でね。君たちの様などうしようもない子供をモルモットに、優秀な子供を組織の一員にしているのさ。もちろん私もあの孤児院の出身者だ」
「モルモット……」ジョーンズが蒼褪める。
「それで、何が起きるの?」トミーが言った。「ぼくたちをどうするつもり?」
「知ってるかい?」紳士はもったいぶる。「毒性の弱い細菌でも、宇宙、つまり無重力下によって毒性が強まるという事実がNASAによって公表されている。我々組織はそこに注目した。地上では無害な細菌を食べさせ、宇宙に上げることによって凶暴化した細菌による宇宙テロが実行できるのではないか、とね。君たちには、その被験体になってもらう」
「い、嫌だよ!」トミーは涙ながらに訴えた。
「もう遅いんだよ」紳士がなにやら操作をすると、トミーの足にちくりと刺激が走った。「空腹感をもたらす薬品を注射した。トミー君はどこまで耐えられるかな?」
薬が回ってきたのか、紳士の言った通り、トミーは腹ペコになる。そして目の前にはハンバーガー。しかしこれには細菌が混じっているはずなのだ。
「フフ、ハハハハハ」ジョーンズの笑いが響いた。「そんな実験、できるわけがない。どうやって無重力の影響を確かめるのさ」
「君たちの部屋には特殊な仕掛けが施されていてね。こちら側からの操作で簡単に無重力になるんだよ」
ジョーンズの余裕は一蹴された。
「食べるなトミー」リーの声だ。「食べなければ良いだけの話なんだ」
「しかし何日保つかな」紳士は冷笑する。「私たちにはたっぷり時間がある。何日でも待つつもりだよ。君達がハンバーガーを食べるまでね。いくらなんでも飢え死にしたくはないだろう」
「あああああ」トミーは恐怖に絶叫した。
その時だった。
銃声が轟き、紳士の姿がモニターから消えた。
変わりに映ったのは、車を運転していた男。彼の手には発砲したばかりの拳銃。
「いつまでも、お前の言いなりになって堪るかよ」運転手は言った。「この計画だって、元々は俺の発案したものなんだ。いつまでも手柄を横取りされ続けてられるか」
もう一度、銃を撃ち、紳士の断末魔が聞こえた。
「やった!これでぼくたち助かったんだね!」安心したトミーは空腹に耐え切れずハンバーガーをほおばる。
無重力でないなら無害のはずだ。
トミーは油断しきっていた。
「いいや、助からないね」運転手がなにやら操作をする。「この世界は下克上。手柄は全部、俺のものだ」
トミーの部屋のハンバーガーがフワリと動き、無重力になる。
数分後、リーとジョーンズは体中の穴から血を流して絶命しているトミーの姿を、モニター越しに見つめていた。
恐怖に怯え、空腹感に耐えながら。
「さて、君たちはいつまで我慢できるかな」
運転手はそう言うと、ニヤリと笑った。
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(((゚Д゚;)))うわぁぁぁぁぁ
どっちで死ぬのか選べと!
(((゚Д゚;)))ガクブル
本当に、こんな映画がありそうw
なんとかって言う短編映画のコンテストみたいなのがあったと思ったから、そーいうやつに出品してもおもしろそうw
(((゚Д゚;)))ガクブル
本当に、こんな映画がありそうw
なんとかって言う短編映画のコンテストみたいなのがあったと思ったから、そーいうやつに出品してもおもしろそうw
Re:(((゚Д゚;)))うわぁぁぁぁぁ
>Re:(((゜Д゜;)))うわぁぁぁぁぁ
アメリカンテイストな感じに挑戦してみましたよ。
短編映画っぽいのはそのせいかもしれませんね。スタンドバイミー的な配役を意識してみたのです。
アメリカンテイストな感じに挑戦してみましたよ。
短編映画っぽいのはそのせいかもしれませんね。スタンドバイミー的な配役を意識してみたのです。
続きは・・・?
はじめまして。最近、こちらのサイトを知り、楽しく読ませていただいてます。毎回、色々なストーリーですごく感心させられるのですが、今回のお話はこれでおしまいなのでしょうか… 続きがすごく気になります(>.<)y-~
Re:続きは・・・?
こちらこそよろしくなのですm(_ _)m
残された二人の行く末は、ご想像のままにお楽しみ下さいませ(^_^)
残された二人の行く末は、ご想像のままにお楽しみ下さいませ(^_^)