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空の青さが、やけにムカツク

『揺れるココロ、と高鳴るドウキ』__完全自作の小説・詩・散文サイト。携帯からもどうぞ。
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 風が鳴いていた、木枯らし。
 気温の谷間、冷えた夜。
 ベランダに光る網、蜘蛛の糸。
 長い脚に弄ばれる、もう一つの命。
 糸に巻かれる屈辱と恐怖、そして絶望。
 そうして、諦観。
 否、否否否。

 節足動物に、感情があるのだろうか。
 本能以外に、自我や意識が存するのか。
 人とは違った、基幹意識を持つものなのか。
 帰納でも演繹でもない思考法、それは何処。
 飛躍も推測でも憶測でもない、手法。
 アトランダムなプログラムとも、異なる方式であるのは確か。
 何らかの作為に依らずして、生存本能の確立は成し得ない。

 自己保存と繁殖能力への渇望は、遺伝因子が命じている。
 人と遺伝の違い、それがすべてか。
 人と他の哺乳類の差とは、何ぞや。

 遺伝子の違い、配列コードの組み違え。
 いわゆる動物、畜生獣に時間の概念は無いと言う。
 時の流れを把握出来るのは、人だけなのか。
 しかし人にもよって、遺伝子の違いは有る。
 多少の誤差だが、看過は出来ぬ。
 盲目の者に色を伝えるは難しく、無痛無汗症患者に痛みを教えることも出来ぬ。
 一般人は、共感覚を得られるだろうか。
 なればそれは、個人単位の問題。
 曰く、クオリア。
 つまりは、人と人とは別の世界に住んでいる。
 それを擦り合わせるのが、社会の規範常識モラル。

 外れた者は、別の掟に縛られる。
 厄介者は、知識と知恵。
 故に人は、死ぬまで戦争を捨てられぬ。
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 一人で居れば裏切られない。憎まれない。期待もされない。期待しない。見下されない。皮肉も言われない。生活を乱されない。邪魔されない。時間を拘束されない。好きにできる。自立できる。自由である。

 けれど独りで居ると、

  

 公園で出会った君は、ぼくにガムをくれたね。
 不思議色の丸いガムは、とても甘くて視えない味がした。
 本当に目が見えなくなった。
 暗闇の中、君と二人。
 なぜだか君の姿だけが、はっきり見えたんだ。
 どうしてだろう。
 まるで二人だけの世界みたいだった。
 何の音も聞こえなくなった、その空間で、ぼくと君の心臓の鼓動だけが耳に伝わる。いや、頭に響く。テレパシーみたいに。
 でも君は何も言わない。
 ぼくも何も言わなかった。
 なのに、ぼくたちの心は通じ合っていたね。
 鼓動しか聞こえないのに、どうしてだろう。
 鼓動しか聞こえていなかったからなのだろうか。
 君の好意と悪意が胸に刺さった。
 たぶん、君も同じだったんじゃないのかな。
 君とぼくとの鼓動はリズムを作って、それがそのままガムを噛むリズムになった。
 視えない味が、だんだんと無くなるにつれて、世界は明るさを取り戻し、君の姿は薄れていった。
 ねえ、君はどこの誰だったんだい。
 もう一度現れて、あの世界に連れて行ってくれないか。
 無明の世界で、君と二人。
 あの公園に行けば、あた会えるのかな。
 けれど、あの公園はどこだったのだろう。
 白昼夢? 偽りの記憶? 君はどこ?
 ねえ、もう一度だけ会ってくれないか。そしてまた、あのガムを━━
  

 心を開くのが怖いから、深く深く潜るんだ。
 ぼくが殺されないように、心を深く埋めるんだ。
 でも、いつからだろう?
 重い重いシールドは、軽い風では破れなくて、渦巻く嵐ですら傷付かない。
 色濃く森深く、水圧強い深海に包まれて、自分で自分が見えなくなった。
 ぼくは自分を解れない。
 ぼくの楯は堅すぎる。
 永遠にとけられないパズル、通路の壁さえ見えない迷宮、雲の中に隠れたお城。
 オフのスイッチが見付からない。
 誰かバリアを壊してくれないか。
 遮るぼくの手を振り切って。
 誰か、ぼくの心を見付けてくれないか。
 誰か壊して。
 ぼくはそれを妨げるけれど。
 刃を突き立て、切り刻んで、破り、割り、粉砕して、業火で滅してくれないか。
 ぼくは堅固に護るから。
 ぼくは必死に防ぐから。

 半端な気持ちで近寄らないでくれ。
 ぼくの守りは完璧だ。
 策も練らず、迂濶に来れば君の命も危機に陥る。
  

 泣きたい感情に溺れていたい。
 それが自分を哀れむためのものでも。
 心を空にして、すべて忘れて激情の波に呑まれたい。

 けれど泪は流れない。
 感情にブレーキが、かかってるから。

 厄介な無意識。
 面倒なプライド。
 つまらない自意識。

 誰も見ていないのに。
 一人で居ても泪を流せない。
 泪が滲んで、いつもそこまで。

 邪魔する理性は誰の味方?
 正直すぎる心情は誰の敵?
 狭間で迷わす不安定は誰からの差し金?

 迷いこそが正直な心なのか。
 悩みこそが乗り越えるべき壁なのか。

 いつか雪解けは来るのだろうか。

 周回的に襲い来るうつの波のせいなのか。

 自然を受け入れ、適当な流れに身を任せていれば楽なのだろう。

 でもね、それが出来たら苦労しない。
 それが出来ない病気なんだ。

 慣れるしかない。
 慣れるしかない。

 時間をかけて、時には後退する目にあったとしても。

 ゆっくり、ゆっくり、自分を赦せ。
  

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