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空の青さが、やけにムカツク

『揺れるココロ、と高鳴るドウキ』__完全自作の小説・詩・散文サイト。携帯からもどうぞ。
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ピンポーン
誰かが来たようだ。ぼくはカギを外し、ドアを開ける。
しかし、そこには誰もいない。
おかしいな。ぼくは首を傾げた。
にゃー
ドアのスキ間から入ってきた黒猫が、ぼくの足に巻きついてきた。
「?どうした?お前」
ぼくは、猫が嫌いではない。
「あたしぁ、使い魔でさぁ」
黒猫がしゃべった。
「え?…あ、あの、使い魔って…え?」
ぼくを無視して、黒猫が言う。
「ご主人様から、ここへ来るよう命令されたんでさぁ」
「め、命令って、ぼくを殺すのか」
黒猫はぼくを一瞥すると、息をついた。
「そんな滅相もないこと、しやぁしませんよ。あたしにできるいたずらなんて、病気にさせるか無気力にさせるとか、そんなモンですよ。まぁ、あたしがこちらへ出向いたのは、そんな理由でもございやせんがね」
「じゃ、じゃあなんだっていうんだ?」
すると黒猫は、うんざりしたように首を振った。
「そんなに恐がらないで下さいよ。あたしぁいたずらをしに来たんじゃない。お手伝いに来たんでさぁ」
「手伝い?何でまた…」
「それは、あたしにもよく分かりませんがね。まあ、そんなことはどうでもいいんですよ。使い魔なんてものは、命令されたらそれをすればいいだけなんですからね。おっと、申し遅れました。あたしの名前はニスロクと申します。一番得意なのは料理なんですが、命令されれば何でもやりまさぁ」

こうして、黒猫、いや、使い魔ニスロクは、ぼくの部屋に居付いてしまった。
確かに、ニスロクは料理が上手かった。イモリとかカエルとか、そんなものを使いはしないかと心配していたが、そんなことはなかった。普通の料理、いや、普通以上の料理を作ってくれた。それも低予算の食材で。
ニスロクにかかると、ナットウですら、上等な宝石に変わってしまうようだった。彼はその他、与えられた仕事はなんでもこなした。スピーディーに、そして正確に。
ぼくの性分として、彼の力を悪い方に使うことはできなかった。ぼくが彼女に振られた時も、彼の力を使って彼女の心を引き戻す・・・なんてことはしなかった。
そのかわり、ニスロクはその力を使ってぼくを励ましてくれたのだ。

半年もすると、ぼくの心にある不安が生まれた。
優秀な秘書のようなニスロクは、ぼくの表情やしぐさから、そのことに気づいたようだった。
ニスロクは、ぼくの目をジッと見詰める。
ぼくはいつものように、黒猫の姿の内に大きな存在を感じる。
その存在があまりにも黒く、深い闇であるために、ぼくはいつものように眩暈を感じる。
「なにか、不安でも?」
ぼくは薄笑いを浮かべ、照れながら話しだす。
「いや、君にはいつも見破られてしまうな。実は、君がいつの日にかぼくの前から消えてしまうんじゃないか?なんて思ってしまってね。使い魔とかなんとかそういうことじゃなく、友人として。君が居なくなってしまったらぼくはひどく悲しむだろう。そう考えると、その日が来ることがとても恐く感じてしまうんだ。」
どうしてニスロクの前では、何もかも打ち明けることができるのだろう?
まるで昔から大の親友のように。
ニスロクの瞳が潤んだ。
「ありがとうございやす。これも使い魔冥利に尽きるってモンでさぁ。なーに、心配なさるこたぁねぇ。今のあたしのご主人様はあなたでございまさぁね。あなたの元にあたしをよこした前のご主人様も、あなたがこの世にいる限りおつかいしろと、あたしにそうおっしゃりましたんで」
「じゃあ、前のご主人という人の所へ戻る、なんてことは…」
「ございやせん」
ぼくはニスロクを抱きかかえた。ひどく甘ったるい、ニスロクの匂いがした。
彼がぼくの前から消える心配がなくなった以上、ぼくには何の心配も不安もなくなった。
ぼくには、使い魔がついているのだ。
ぼくらは主従の関係というよりも友人として、より強いキズナを深めた。

・・・そしてぼくはニスロクに頼りきりになった。ぼくは一人では何もできなく、何もしたくなくなった。
ぼくはただ命令をするだけ、ニスロクは一人で全てをこなす。なんたって、あいつは使い魔なのだ。
・・・そう、確かにあいつは悪魔だ。
あいつをよこしたのが誰にせよ、そいつの思い通りになってしまったのだろう。
ぼくはあいつに頼りきり。自堕落な人間になってしまった。もう一人では、テレビのスイッチを押すのも面倒くさい。
まったく、大した使い魔だ。
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泣き声が聞こえてきた。
ぼくは歩みを止め、辺りを見回す。
そのものすごい泣き声。近くの空き地から聞えてくる様だった。
気になったぼくは、泣き声の方へと歩きだした。
空き地に着く。
その真ん中で、中年の男が泣いていた。
地面にしゃがみこみ、丸くなって号泣している。
彼に近付き、ぼくは声を掛けた。
それでも彼は泣き止まず、ぼくを無視して泣き続けた。
やれやれとため息をつく。
男を観察してみると、顔がアザだらけなのに気が付いた。どうやら誰かにさんざん殴られた後らしい。
ぼくは何度も、男に向かって声を掛けた。
なのに彼は泣き続ける。
まったく、いい年をした大の大人が、こんなトコで何泣いてんだか。
見ているうちに、ぼくにムラムラとした気持ちがわき起った。
『こんなダメな人間、こうなってもしかたがないのだ。ホントにウジウジしてて、何もできなくて…ぼくもコイツを殴ってやろうか』
ぼくはその男の胸ぐらを掴むと、ムリヤリ立たせて、横っツラを張り倒した。
「ヒィィ」男が悲鳴をあげる。「ヒイィィィー」
この男に、ふさわしい、ひどく悲しそうなミジメな悲鳴。
まるで豚の悲鳴だ。
それはぼくの嗜虐心を大きく煽る。
襟を掴み、ぼくは何度も殴りつけた。
男の口から血が流れ、鼻血も出て、それでもぼくは殴り続けた。
どんなに殴っても、男は気を失わない。
根を上げたのはぼくの方だった。
殴り疲れて、襟を放す。
男は地面に倒れこむ。
「ヒック、ヒック、ウェ~」
男は、今までよりも大きな声を張り上げて泣き出した。
ぼくはその声に満足すると、空き地を後にした。
すっきりした気持ちで帰途につく。
泣きじゃくる、誰かを置いて。
  

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