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空の青さが、やけにムカツク

『揺れるココロ、と高鳴るドウキ』__完全自作の小説・詩・散文サイト。携帯からもどうぞ。
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頭が壊れてフッ飛ンだ
夢と現実一緒になって 空気と混ざってドロンと消える
シャボンの泡より儚く薄く 君の命とおんなじ運命
電波の入らないテレビを見てる ちっとも楽しくなんてないのに
砂の嵐のその中に 砂のお城を作って遊ぶ
爪が割れて食い込んで クスクス笑って『おしまいよ』?
何だか意味が分からない? 君の目玉と一緒だね
どんなにそこで弾けてみても ぼくの頭に敵うまい
ぼくが作った赤い花 残らずキレイに食べてくれ
ぼくが少しも苦しまないように
――間違っても押し花にはしてくれるなよ!

霧の中の蜘蛛の糸 ぼくと同じでよく見えない
雨の音 時計の歯車 人の群れ
ぼくの頭は黒い箱 ドグラとマグラでエロとグロ
地球の果てまで飛んで行け 飛べ飛べ飛べ飛べ飛んで行け
飛べ飛べ飛べ飛べ飛んで行け
飛べ飛べ飛べ飛べ飛んで行け
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見つけることのできない人
見つけてもらうことのできない人

どちらが苦しい?
どちらが辛い?

焦り 慌てる 罪悪感
寂しさ アピール 孤独感

受信できない信号
受信されない信号

多数の中で 求めるものはひとつだけ
多数の中で 他に混ざって溶けていく

早く見つけなきゃ
早く見つかりたい

早く見つけて――
早く見つけて――
  

タエコは出勤すると予定表に目を通す。
「午前が三組の、午後が七組ね。全部三十分コースか。今日の売り上げは五万ね」ため息を吐く。「ちょっと少ないかもしれないけど、このくらいの数の方が楽だわね」
ブラインドを上げる。それから彼女は最初の客を招き入れるための用意にかかる。
事務所はマンションの一室で、彼女以外のスタッフはいない。
雑用を終えるとハーブティーを入れ、香を楽しむ。
インターホンが鳴り、本日初めの客がやって来た。
タエコは客を奥の部屋へ案内する。
その部屋はわざと薄暗くしており、殺風景だ。座り心地の良さそうな寝椅子と、肘掛け椅子。それからデスク。
客を寝椅子へ促し、彼女はデスクの前の肘掛け椅子に納まった。エアコンを操作し、オーディオのスイッチを入れる。ゆったりとした音楽が控えめな音量で流れてきた。
「今回はどんな相談内容でしょうか」ゆっくり静かにタエコは言った。
客の告白が始まった。
彼女の位置は客の後ろにあって、互いに顔を見合わせることが出来なくなっている。
タエコは客の言葉に「はい」とか「それは大変でしたね」等と適当な相槌を打っている。その実、顔が見えないのをいい事に、眠そうに目を擦りあくびをしている。
彼女がひたすら気にしているのは机上の時計。そろそろ三十分という所で彼女は言った。「でも、本当は自分どうするべきなのかは分かっているのでしょう。あなたはその通りに行動すればいいの。心配することはないわ」
「――そうですね。分かりました。」
客の顔は晴れ晴れとしている。
料金を受け取り、タエコは次の客が来るまでの間、ぼんやりと音楽を聴き続ける。

彼女は相談屋。他人の悩みを聞きアドヴァイスをする。それが仕事だ。
初めは一人一人、真面目に応対していたのだが、他者の告白は彼女の心に澱のように留まり、結果押し壊されてしまったのだ。
そしてその教訓から、タエコは今のような処世術を身に付けた。
大体、悩み事なんて半分が人間関係であり、もう半数は金銭に関するものでしかない。それぞれにいくつかのパターンがあるが、数をこなしているうちに対処法も自然にマスターしてしまっていた。
タエコにとって、人の悩みを聞くこの仕事はもはや流れ作業でしかない。
代わり映えのしない相談事を受けながら、彼女の午前中の仕事は終わった。
昼食を済まし午後の仕事。
「それはお気の毒に。でも、もう少しの我慢です。」
「大変だったでしょうね。もういいんですよ」
「もう大丈夫。気にすることはありませんよ」
「もう少しの辛抱です、頑張って」
「自分の気持ちに正直になってみてはいかが?」
「成るようになりますよ。後は行動次第です」
内容のない言葉の数々。
しかし相談者は背中を押してもらいたいだけなのだろう。占いと一緒だ。
最後に決断し、どうするかは本人次第。故にクレームが来たことなど皆無だ。
しかも大体は常連客で、深刻な悩みと言う程のことでもない。ほとんどがプチセレブのグチのようなものだった。だから多少話がズレても相手はそれほど気にしない。
「ボロい商売よね。占いみたいにややこしい勉強などもする必要ないし」妙子は一人ほくそ笑む。
今のところキャンセルも飛び入りの客も無い。後は最後の予約の一人を待つばかりだ。
夕食の献立を考えていると、その男は現れた。
名前をチェックし、部屋へ通す。
最近では珍しく、新規の客のようだった。
知人から噂でも聞いてきたのだろう。
しかし――男の顔を診た瞬間から、タエコはやる気を失っていた。
追い詰められたような眼付き。顔は能面のように表情を失い、青白い。
典型的なうつ病の症状だ。
適当に話を合わせてから、知り合いの精神科医でも紹介しよう。
タエコはそう思った。
男の声は小さく、まるで独り言を呟いているようだった。
言葉の合間合間に相槌を打ちつつ、タエコは夕食のことについて再考する。
揚げ物は最近続いていたからパス。魚を焼くのも面倒ね。だからといって肉を食べる気分でもないし、一体何を食べようかしら。
「分かりますよ、あなたの気持ちは」
カレーはお昼に食べたし、お惣菜でも買ってこようかしら。うーん、でも最近あそこのも食べ飽きた感があるのよね。あら、まだ十分しかたっていない。最後の客って他の人より時間の経つのが遅い気がするのよね。やっぱり早く帰りたいからかしら。
「それは難しいですね」
あ、久しぶりに麺類でも食べようかしら。うん、そうしましょう。それがいいわ。麺類麺類…何があったかしら。頂き物のうどんは先月食べ終わったのよね。おそばは何かのお返しにあげてしまったから、えーと。あら嫌だわ。インスタントラーメンしかないじゃない。美味しいけど、ちょっと味気ないわよね。だったら――
「別の見方もあるんじゃないかしら」
もういいわ。今日は外食にしましょう。そうね、あそこがいいわ。あのお店もずいぶん足を運んでいないことだし。ところであと何分くらいかしら。あら、いつの間に。
残り時間は三分にまで迫っていた。
そろそろ話を終わらせようと、タエコはわざとらしく咳払いをする。
「心に大きな傷をお持ちのようですけれども、すべては時間が解決してくれますよ」知人の精神科医の名刺を手に取る。「悠久なる時間の前に、人は無力です。流れに身を任せなさい。もし、どうしても気になるようでしたら――」
「本当は私の悩みなど聞いていなかったのでしょう」
「え――」不意の言葉に面喰う。
「あなたの遣り口はよく分かりましたよ。私の姉がこちらに相談に来たときもそうだったんですね。あなたにとっては人の悩みなど大した事ではないのでしょう、きっとみんな同じようなものだと思い、片付けているんだ。でもね、本人には深刻な悩みなんですよ。あなたは私の姉にこう言ったそうですね。答えはあなたの心の中にあると。それを聞いて姉はどうしたと思います?」
「どう…したんですか」
「自殺しましたよ」
「え――」
タエコは言葉を失う。
「あなたが姉の相談を良く聞かず、適当な助言を与えたからだ!」
男はいつの間にか立ち上がり、タエコを睨んでいる。
そして右手には鈍色のナイフ。
「や…やめて下さい」
男は懇願を聞かずに話し続ける。
「あなたは先程、とても興味深いことをおっしゃった。時間が全てを解決してくれると」
「そ、そうですよ。あなたの悲しみも時とともに――」
「ならば!」タエコの声は叫びの前にかき消される。「ならば、これから私の犯す罪も、時間という偉大なる流れによって解消されるのです」
「時効になるまで逃げ回るとでも」彼女は震えている。「逃げ切れるものではありませんよ、そんなことはやめて――」
「いいえ」男はにやりと笑った。「あなたを殺してすぐに自首しますよ。うまくいけば五年で出られるかもしれない。十五年逃げずとも、はるかに早く、時が私の罪を洗い流してくれる」
「そんなバカな」タエコは絶叫した。
「バカなことではありません。これから百年も時間が流れたら、あなたも私もこの世にはいない。死が早まるだけです。悠久なる時間を前に人は無力だ。あなたはそうもおっしゃったではないですか。その通りだと私も思いますよ。あなたのおかげで決心がつきました」
男は顔に皮肉を浮かべた。
「あああ、何てこと」
ナイフがタエコに突き立てられる。
「痛いですか?痛いでしょう。しかし、それもすぐに消えますよ。良くも悪くも、偉大な時の流れによってね」
  

時計と時間は別のモノ。
そんなことは勿論分かっている。でも政夫には、その時計をいじり回すこと以外、何もする術がなかった。
駆け落ちの末に手にした生活。それが十年も保たないなんて。
エリは実家へと戻って行ってしまったのだ。対して、政夫には帰る場所などなかった。
彼は彼女家に養子として預けられた身。恩を仇で返した所に、今更帰れるわけもない。
――いったい、どこで間違ってしまったのだろう。
政夫は記念の時計の針を戻している。何周も何周も。
ワンルームマンションでのこの生活は、彼女に耐え切れるものではなかったのだろう。
所詮、エリにこの生活は不釣合いだったのだ。あの豪華な生活から転落した人生。彼女も初めは物珍しそうに楽しく生きていた。しかし段々と不機嫌になり、そのストレスはショッピングへと向けられた。盛大なブランド漁り。派手なピアス、シックなスーツ。確かにそれらの物は、彼女に似合いすぎる程だった。彼女のためにデザインされたかのように。
しかし、当然政夫の稼ぎでは追いつかない。それでもガムシャラに働いた。
するとエリは自分が構ってもらえなくなったと非難をし、派手な遊びをするようになってしまったのだ。
お嬢様育ちの彼女には働く気などなく、足りない金は消費者金融から借り出されていた。
政夫が借金に気づいた時には、金額は一千万以上にも膨らんでいた。
――もう無理だ。
彼は彼女を懸命に説得した。
しかし思いは伝わらず、愛が足りないと逆に罵られた。
限界を突破した政夫は、養父に泣きついた。
条件は彼女の返還。
彼は幾日も悩んだ。
その間に養父は娘に接触していた。
エリは憤慨し、政夫をなじる。
「二人でやっていこうって言ってたじゃない!」「どうしてお父様に助けてもらおうとするの!」「私を愛していないのね!」
エリは出て行き、彼は彼女を追おうとしなかった。
――ありふれた話なのかもしれない。
しかし政夫は堪らなかった。
涙を流し、ヤケ酒を呷った。
そして手にした、この時計。
あの家に引き取られ、初めての誕生日に彼女から貰ったプレゼントだ。
政夫は飽きずに何時間も時計の針を回していた。反時計回りに。
彼の感情は麻痺してしまっていたのかもしれない。それまでどれほどの心の動きがあっただろうか。
エリへの未練。エリとの思い出。エリの言葉の数々。エリの様々な表情。養父へ対する複雑な感情。自分の不甲斐なさ。悔い。安堵。遣瀬なさ。エリへの愛。彼女への憎悪。
憑かれたように時計の針を回す。仕事に行く時間を過ぎても。酒による酔いが覚めてもまだ。
麻痺していた感情が息を吹き返し、政夫を苛む。
狂うほどの激情が揺り返す。
感情など殺したい!
彼はそう思った。
感情なんて消えて無くなればいい!
政夫はそう願った。
「でも、本当にそれでいいの?」声が聞こえる。
「誰だ!」政夫は時計を手放し、叫んだ。
周りを見渡すが、狭い部屋には自分以外の誰かがいる筈もなかった。
空耳かと思う。
そして彼は時計を再び手にし、目を見張った。
時計の針が、無くなっている。
――否。
目に見えない程の速さで、独りでに逆回転をしていたのだ。
「そんなバカな――」思わず呟いた。
針を回転させている時計の歯車から、軋んだ音がかすかに聞こえる。その音は徐々に大きくなり、笑い声にも似た音をたてている。
高速で回る針、歯車の笑い声――
政夫は幻惑されていった。
頭の中は空っぽに、しかし意識は知覚されないくらいの高速で働いている。そして視界は、真っ白になった。

気が付くと、政夫は広い室内に居た。
見覚えのある天井。見覚えのあるベッド。見覚えのあるカーテン。見覚えのあるテレビ、そしてパソコン、そして本棚、そしてカーペット…
彼は身を強張らせる。ここは彼女家。養父が彼のために用意してくれた部屋だった。
跳ね起きる。
ベッドから下り、しばらく部屋をウロウロしていた。と、政夫は何かがおかしい事に気付く。
――視線が低い。
明らかに背が縮んでいる。
政夫はクローゼットを開けると鏡を見る。
そこには、子供時代の政夫が居た。
あの時の声――
政夫は辺りを調べている。
クローゼットは空だ。タンスも。机の抽き出しも。
目についたバック。
この家に住むことになった時に持ってきたショルダーバックだ。
ジッパーを開ける。
見知った物ばかり。中には着古した服が新品同様に入っていた。
テレビをつける。
昔の番組…再放送?――いや、CMまで昔のものだ。
どうやら、本当に過去へ戻ってきたらしい。しかもあの日、この家に住むことになった運命の日に。
「……」
政夫は頭の中を整理しようとするが、うまくいかない。
すべてをありのままに受け入れるしかないのだろうか。
「――ならば」
政夫は覚悟を決めた。

政夫は徹底的にエリを遠避けた。
無愛想な顔をし、言葉は最小限。話をしても短いセンテンス。あくまで他人行儀に。心の内を隠し、悲しみを胸に秘めて…

時は流れ、二人は大人になった。
エリは養父の経営する会社に勤める若手エリートと結婚をし、政夫は大学で出来た彼女と付き合っていた。
彼の中の悲哀は時とともに薄れている。
エリは子を産み、家庭は円満。十分に幸せそうだった。
やはり自分は彼女の相手として相応しくなかったのだろう。
彼女は無事に、運命の人と出会えたようだった。
政夫も養父の仕事を手伝い、公私共に充実していた。
このまま、今の恋人と結婚してもいいかな。
彼はそう思い始めている。
そんなある日の事だった。
政夫が部屋で寛いでいると、聴いていたレコードプレイヤーが不自然なタイミングで止まった。
気持ち良く聴いていた歓喜の歌。政夫は少し不機嫌になる。
プレイヤーに近付き、調べてみても故障はない。
どうしたものかと考えていると、忘れもしない、あの時の声が聞こえてきた。
「本当に、これでいいの?」
懐かしさと衝撃。
そして一抹の不安。
「本当に、これで良かったの?」
あの時とは違い、声は再び問い掛けてくる。
政夫はそこで、ふと気付いた。
この声は――物心が付く前に聞いた、母の声だ。
「うん。これでいいんだ」感謝の念を込め、彼は言った。「俺は、もう泣かない。これからは誰も泣かせない。一人でもやっていけるよ」
――そして、声は聞こえなくなった。
レコードが流れる。
山場のコーラス部分だ。
殺し続けていた感情が蘇り、途端に涙が溢れ出す。
「あれ?おかしいな」政夫は抑制の効かない心の奔流に困惑した。
スピーカーからは、神へと捧げる生の喜びが高らかに歌われていた。
「母さんと約束したばかりなのに、困ったな」政夫は笑顔で泣いていた。「もう泣かないって約束したのにな」
  

「あ」犬のタローは言った。「あ、あ、あ、耳に虫が入った。うるさいうるさい」
タローはしきりに耳をいじっている。
しかし前足はピンと立った耳を寝かせるだけ。犬の足では耳の穴の虫を取り出せるはずもなかった。
「あっ。もう。じれったいなぁ」タローは次第にイライラしてくる。「誰でもいいから取ってもらわないと」
そこに運よく、知り合いの三毛猫がやって来た。
猫は歩みを止め、ニヤニヤと面白そうにタローのしぐさを見つめている。
タローはやがて三毛猫に気付き、声をかける。
「おお、ミケさんじゃないか。ボーっと見てないで手伝ってくれよ」
「手伝うって、何を手伝うんだい?」ミケはチョコンと座り顔を洗う。「顔の洗い方だったらこうすればいいだけだよ。しかし珍しいね。犬が顔を洗うなんて。明日は月でも降ってくるのかねぇ」
「何を呑気なことを言っているんだい。今はそんな冗談を聞いてる場合じゃないんだよ」
切羽詰ったタローの言い草に、ミケは興味を掻きたてられる。
「タローさん、一体全体どうしたって言うんだい?」
「耳に虫が入っちまって」タローは耳をヒクヒクさせながら言った。「うるさくてたまらんのだよ。ミケさんお願いだ、耳の中の虫を取っ払ってくれないかね」
「何だい、そんなことかい」ミケは一気に興味を失ったようだった。「全くタローさんときた日にゃいつもその調子だから、こっちのほうが参っちまうよ。食べ物見りゃすぐにヨダレを垂らすし、人間が来ればすぐに尻尾を振る。何だろね、即物的って言うのかねぇ。その単純さは確かに愛らしいところもあるよ。けれどもいつまでもその調子じゃ――」
「止めとくれ止めとくれ。自分の単純さは自分が一番良く知っている。そんな説教を聞くために声をかけたんじゃないんだ。ミケさんや、早くこの虫を取っておくれよ」
「分かったよ。仕方がないねぇ」
ミケは調子良く話していた所に水を差された腹いせのためか、気怠そうに、しかし優雅に尻尾を立てて近寄ってくる。
「どれどれ、ちょいと失礼するよ」
タローの頭に前足を乗せ、耳の中を覗き込む。
「ありゃあ、これはデッカイ蝿だねぇ。こんなのがあたしの耳に入ったら気絶しっちまうよぅ」
「だから言ったじゃねぇか」タローは苦言を呈す。
しかしミケはいたってマイペースだ。
「蝿も出たがってるみたいだねぇ。ぶぶぶ、ぶぶぶともがいているよ。しかしあんたの耳毛が絡まって出られない様子さね」
「止しとくれ止しとくれ。そんな観察をしてもらうためにお前さんに声をかけたわけじゃないんだよ」
「分かっているよ。うるさいねぇ」
しかしミケの瞳は爛々と光っている。
「分かっているなら早いところ取っておくれ」
タローは耳を動かしたいのを我慢しながら言う。前足でタッスタッスと地面を踏みつけた。
ゴクリと唾を飲む音。
「ミケさんや?」タローは少し不安になる。
「ミケさん、どうしたのかね?」
ミケは返事をせず、ニュウッと爪を伸ばす。
「おいおいミケさん、何か言っとくれ。不安になるじゃあないか」気を紛らわそうと、タローは努めてオドケてみる。
「心配することはないよ」
ようやく返ってきたミケの言葉。
だがどこか上気したように熱っぽい。
タローは嫌な予感がした。
「ニャ!ニャニャアニャア!」
タローの嫌な予感は的中したようだ。
猫の本能。ミケはそこが耳の中なのを忘れて、もがく蝿に踊りかかった。
バリバリと引っ掻かれるタローの耳。
「キャンキャイン」
「痛い!痛いよミケさん!」
「うるさいニャー!黙れニャ!フギャーフニャー!」
タローの悲鳴も、蝿にじゃれつくことに夢中なミケには届かない。
「ギャインギャイン!非道いよミケさん――」
ズタボロになった血塗れの耳を被うようにタローは逃げる。
いつまでも追い続けるミケ。

――こうして、犬と猫の仲が悪くなったとかならなかったとか。
  

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