忍者ブログ

空の青さが、やけにムカツク

『揺れるココロ、と高鳴るドウキ』__完全自作の小説・詩・散文サイト。携帯からもどうぞ。
[ 27 ] [ 28 ] [ 29 ] [ 30 ] [ 31 ] [ 32 ]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

  

彼女は一人で風呂に入っている…ハズだった。
しかし、そこにはもう一つの存在が居た。

やっとここに来れた。
彼女が髪を洗う姿を、ぼくは後ろから見ている。
彼女には、ぼくの姿を見ることができないかもしれない。
ぼくは寂しさに捕らわれた。
そう。ぼくは三年前に、すでに死んでいるのだ。――交通事故で。残してきた恋人に会いたくて、ぼくは必死にこの世に戻る方法を探し、そして修行をしていたのだ。
三年振りに見る彼女。ぼくはそっと、心の中で『ただいま』とささやいた。

倉本ヒカリは、髪を洗う手を止めた。鏡にうつる彼女の顔は、わずかに蒼褪めていた。
何かが居る。
――自分以外の存在の気配に、彼女は気が付いたのだった。
少しの不安と、大きな恐怖。
その思いを振り払うように、彼女の手は再び頭の上で動き始めた。

ぼくは彼女に起きた、一瞬の変化に気がついた。
もしかしたらぼくのことに気付いたのかもしれない。
このチャンスを逃がしてたまるか。
もしヒカリに霊感があるのなら話ができるかもしれないんだ。
「ヒカリ」ぼくは彼女に呼びかけた。
彼女の動きが一瞬止まる。しかし、振り向かない。
ぼくはもう一度、静かな声で呼びかけた。
「ヒカリ、ぼくだ」
ヒカリはおずおずと後ろを向き、そして固まった。
みるみる顔から血の気が引いていく。そして、ようやくと言った感じで口を開く。
「…あなたなの?ケンジさん…」驚いたためか、それとも緊張しているためか、その声は普段よりも一オクターブほど高かった。
「そうだよ」ぼくは彼女を安心させようと、できるだけ穏やかに、そして短く応えた。
しかしその意図に反して、彼女の顔はますます蒼褪めていく。
「どうして――」
「君に会いたくて」
「やめて!やめてよ!」ヒカリは耳を塞いだ。「何で今ごろになって!…あ、あたし、あたしをどうするつもり?」
「どうしたんだ?」ぼくは戸惑う。もしヒカリに新しい恋人がいたとして、それは仕方のないことだ。
新しい恋人のいるヒカリの前にぼくが現れるということは、彼女にとっては『ぼくの身勝手』ということになるのだろう。
彼女に会う前に、そこまでは考えていた。そしてそれはぼくの不安の種でもあったのだ。
しかしそれでも、ぼくは訊かずにいられなかった。
「…どういうことだ?」
「しらばっくれないでよ!」ヒカリは早口でまくしたてた。「知ってるんでしょ。あたしがヒロに言われてあなたを殺したってこと!でも・・・でもあたしには、ああする以外どうしようもなかったのよ!」
混乱した頭で、ぼくはようやく応えた。
「…ヒロ・・・だって?」
ヒロはぼくの弟だ。――腹違いのぼくの弟。
「あいつが、あいつがどうしたって?」
確かに、あいつはぼくを憎んでいた。逆恨みのようなものだが、あいつはぼくを憎んでいたのだ。でも、なんでヒカリがぼくを殺す?
「あたしは」彼女の声は、半分泣き声だった。「あたしはあの時、ヒロとあなたの両方と付き合ってた。タイプが全然違うし、兄弟だなんて分からなかった」
「だからっていいわけにはならない」ぼくの感情は、彼女の告白ですでに死んでいた。
分かっているというようにヒカリは頷き、話し続けた。
「それで、そのことがヒロにバレて…ひどく、殴られたの。でもあたしはヒロの方が好きだったから、『あなたと別れる』って言って。でも、それじゃダメだって。それだけじゃだめだって言われて…それで事故死にみせかけて・・・」
「あいつが、オレのことを殺せって言ったのか」
「うん。『別れたくなければ兄貴を殺せ。俺は兄貴を殺したいくらい憎んでるんだ』って言われて」
「…それで殺したのか…」ぼくは呟いた。
独り言のようなぼくの言葉に、ヒカリは無言で頷いた。
「そんなことで、殺されたのか?オレは?」割りに合わない。
「そうよ。あたしはあなたより、ヒロの方がずっと好きだったから…」彼女は泣いていた。
浴室の中で、裸で泣き続けるヒカリを見ながらぼくは言った。
「なに泣いてやがる。そんなことで許されるとでも思ってるのか?」
「お願い、許して」
「何でだよ。何で許すんだよ。そんな必要どこにある?オレを殺した奴なんか許してたまるか!お前なんかに少しでも情けをかけるとでも思ってんのか?ふざけんなよ!誰がお前なんかに…お前なんかに!!」
ヒカリの顔が、恐怖のために醜く歪んでいくのが分った。

男はすでに修羅と化していた。
精神のみの存在は弱く、そして強い。
男は女の顔の歪みが恐怖のためではなく、自分の力によるものだということも分らなかった。
浴室の中を、彼女の悲鳴が駆け巡る――
PR
  

飛べない鳥が木から跳ぶ
するとどうなる?
クルクルクルクル回りながら
枝葉に体を打ちながら
ただただ地面に堕ちていくだけ

飛ばない鳥が地面を歩く
するとどうなる?
地を這う獣に襲われて
ジタバタジタバタ逃げ回り
爪で背中をかき切られ
牙でノド笛かみくだかれ
ただただ死を待つばかり

そんなのイヤだ!ぼくは飛ぶ!
  

ピンポーン
誰かが来たようだ。ぼくはカギを外し、ドアを開ける。
しかし、そこには誰もいない。
おかしいな。ぼくは首を傾げた。
にゃー
ドアのスキ間から入ってきた黒猫が、ぼくの足に巻きついてきた。
「?どうした?お前」
ぼくは、猫が嫌いではない。
「あたしぁ、使い魔でさぁ」
黒猫がしゃべった。
「え?…あ、あの、使い魔って…え?」
ぼくを無視して、黒猫が言う。
「ご主人様から、ここへ来るよう命令されたんでさぁ」
「め、命令って、ぼくを殺すのか」
黒猫はぼくを一瞥すると、息をついた。
「そんな滅相もないこと、しやぁしませんよ。あたしにできるいたずらなんて、病気にさせるか無気力にさせるとか、そんなモンですよ。まぁ、あたしがこちらへ出向いたのは、そんな理由でもございやせんがね」
「じゃ、じゃあなんだっていうんだ?」
すると黒猫は、うんざりしたように首を振った。
「そんなに恐がらないで下さいよ。あたしぁいたずらをしに来たんじゃない。お手伝いに来たんでさぁ」
「手伝い?何でまた…」
「それは、あたしにもよく分かりませんがね。まあ、そんなことはどうでもいいんですよ。使い魔なんてものは、命令されたらそれをすればいいだけなんですからね。おっと、申し遅れました。あたしの名前はニスロクと申します。一番得意なのは料理なんですが、命令されれば何でもやりまさぁ」

こうして、黒猫、いや、使い魔ニスロクは、ぼくの部屋に居付いてしまった。
確かに、ニスロクは料理が上手かった。イモリとかカエルとか、そんなものを使いはしないかと心配していたが、そんなことはなかった。普通の料理、いや、普通以上の料理を作ってくれた。それも低予算の食材で。
ニスロクにかかると、ナットウですら、上等な宝石に変わってしまうようだった。彼はその他、与えられた仕事はなんでもこなした。スピーディーに、そして正確に。
ぼくの性分として、彼の力を悪い方に使うことはできなかった。ぼくが彼女に振られた時も、彼の力を使って彼女の心を引き戻す・・・なんてことはしなかった。
そのかわり、ニスロクはその力を使ってぼくを励ましてくれたのだ。

半年もすると、ぼくの心にある不安が生まれた。
優秀な秘書のようなニスロクは、ぼくの表情やしぐさから、そのことに気づいたようだった。
ニスロクは、ぼくの目をジッと見詰める。
ぼくはいつものように、黒猫の姿の内に大きな存在を感じる。
その存在があまりにも黒く、深い闇であるために、ぼくはいつものように眩暈を感じる。
「なにか、不安でも?」
ぼくは薄笑いを浮かべ、照れながら話しだす。
「いや、君にはいつも見破られてしまうな。実は、君がいつの日にかぼくの前から消えてしまうんじゃないか?なんて思ってしまってね。使い魔とかなんとかそういうことじゃなく、友人として。君が居なくなってしまったらぼくはひどく悲しむだろう。そう考えると、その日が来ることがとても恐く感じてしまうんだ。」
どうしてニスロクの前では、何もかも打ち明けることができるのだろう?
まるで昔から大の親友のように。
ニスロクの瞳が潤んだ。
「ありがとうございやす。これも使い魔冥利に尽きるってモンでさぁ。なーに、心配なさるこたぁねぇ。今のあたしのご主人様はあなたでございまさぁね。あなたの元にあたしをよこした前のご主人様も、あなたがこの世にいる限りおつかいしろと、あたしにそうおっしゃりましたんで」
「じゃあ、前のご主人という人の所へ戻る、なんてことは…」
「ございやせん」
ぼくはニスロクを抱きかかえた。ひどく甘ったるい、ニスロクの匂いがした。
彼がぼくの前から消える心配がなくなった以上、ぼくには何の心配も不安もなくなった。
ぼくには、使い魔がついているのだ。
ぼくらは主従の関係というよりも友人として、より強いキズナを深めた。

・・・そしてぼくはニスロクに頼りきりになった。ぼくは一人では何もできなく、何もしたくなくなった。
ぼくはただ命令をするだけ、ニスロクは一人で全てをこなす。なんたって、あいつは使い魔なのだ。
・・・そう、確かにあいつは悪魔だ。
あいつをよこしたのが誰にせよ、そいつの思い通りになってしまったのだろう。
ぼくはあいつに頼りきり。自堕落な人間になってしまった。もう一人では、テレビのスイッチを押すのも面倒くさい。
まったく、大した使い魔だ。
  

泣き声が聞こえてきた。
ぼくは歩みを止め、辺りを見回す。
そのものすごい泣き声。近くの空き地から聞えてくる様だった。
気になったぼくは、泣き声の方へと歩きだした。
空き地に着く。
その真ん中で、中年の男が泣いていた。
地面にしゃがみこみ、丸くなって号泣している。
彼に近付き、ぼくは声を掛けた。
それでも彼は泣き止まず、ぼくを無視して泣き続けた。
やれやれとため息をつく。
男を観察してみると、顔がアザだらけなのに気が付いた。どうやら誰かにさんざん殴られた後らしい。
ぼくは何度も、男に向かって声を掛けた。
なのに彼は泣き続ける。
まったく、いい年をした大の大人が、こんなトコで何泣いてんだか。
見ているうちに、ぼくにムラムラとした気持ちがわき起った。
『こんなダメな人間、こうなってもしかたがないのだ。ホントにウジウジしてて、何もできなくて…ぼくもコイツを殴ってやろうか』
ぼくはその男の胸ぐらを掴むと、ムリヤリ立たせて、横っツラを張り倒した。
「ヒィィ」男が悲鳴をあげる。「ヒイィィィー」
この男に、ふさわしい、ひどく悲しそうなミジメな悲鳴。
まるで豚の悲鳴だ。
それはぼくの嗜虐心を大きく煽る。
襟を掴み、ぼくは何度も殴りつけた。
男の口から血が流れ、鼻血も出て、それでもぼくは殴り続けた。
どんなに殴っても、男は気を失わない。
根を上げたのはぼくの方だった。
殴り疲れて、襟を放す。
男は地面に倒れこむ。
「ヒック、ヒック、ウェ~」
男は、今までよりも大きな声を張り上げて泣き出した。
ぼくはその声に満足すると、空き地を後にした。
すっきりした気持ちで帰途につく。
泣きじゃくる、誰かを置いて。
  

Google
カレンダー
10 2024/11 12
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
最新コメント
[09/26 小山ぼんさん]
[08/09 眠]
[04/22 眠]
[04/22 眠]
[01/15 眠]
最新トラックバック
プロフィール
HN:
クモリのちハレ
性別:
非公開
バーコード
忍者ブログ [PR]