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空の青さが、やけにムカツク

『揺れるココロ、と高鳴るドウキ』__完全自作の小説・詩・散文サイト。携帯からもどうぞ。
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 入梅のニュースが流れてから数日後、雨の間を狙って、私は散歩に出かけることにした。
 空は白く曇っていて、湿気の多い朝八時。スーツ、制服、自転車、自動車。そんな中を、私はゆっくりとした歩調で歩く。
 通りの生垣を観察し、種類の分からない葉っぱの形の違いを見つけてみたり、開いた花弁や蕾の色を楽しんだりみたりする。
 赤い花、白い花、青い花。
 しかし植物に詳しくない私には、何の花だかさっぱりだ。
 分かるのは、あじさい、ひまわり、チューリップ、そのくらいのレベル。
 それでも十分に楽しめた。
 赤い花も良く見ると微妙に色彩が違っていたり、一枚の葉と思っていたものが近付いてみると、いくつもの葉で作られていたりして。
 特に興味を惹かれたのが枝の分岐具合。
 地面から生える三木の高さの三分の一から太い枝が出ていて、その枝の長さの三分の一から、さらに細い枝が伸びている。細い枝の三分の一の位置に葉っぱや花が咲いていて、私はカオス理論の相似性だとかフラクタルだとかを思い出し、自然の神秘性に浸った気分を味わった。
 同時に、何かで見た絵のことを思い出す。
 一本の花を人間の器官に当てはめた場合、どんな感じになるのかといった絵だ。
 茎は胴体、葉は鼻、根っこは口や頭脳で、花弁が生殖器になっていた。
 してみると、花を観察するのは卑猥な行為なのかもしれないな。なんて思って、苦笑いしつつも散歩を続ける。
 大通りから横道へ入ってみると、田舎とはいえ住宅地。一戸建ての家々が密集している。
 ちょっとしたガレージや狭い庭。中には感心させられる庭造りの家もあったりして足を止め、しばし眺める。
 和というものに感じ入り、素人ながらも庭に関心を寄せている自分。
 風流を味わう。
 大人になったのか年をとったのか。
 ふと動くものを見た気がして、そちらに目を向けてみた。
 湿気に黒味がかったブロック塀の上に、一匹の猫がいた。
 白地に両耳の辺りが黒くてシンメトリーになっている。
 目のぱっちりした、可愛らしい猫だった。体も大きくなく、一歳くらいの猫だろうか。
 顔だけをこちらに向けている。
「こんにちは」私は猫に挨拶をして手を伸ばした。
 その距離、二メートル。
 一瞬、体をビクリと動かしはしたが、猫は逃げずにこちらを見ている。
「撫でさせてくれないかな」指先を動かしながら言ってみた。
 けれども猫は緊張を解かない。
 猫は目を合わせるのを嫌がるだとか、相手に向かって目を閉じる仕草は人間でいうとウィンクと同じとかいう知識をどこかで読んでいた私は、そっと目を閉じ、二秒ほどして目を開く。
 その間に逃げられたらどうしようかとも思っていたが、猫はまだそこにいた。
 ほっとした私は同じ動作をしながら「おいで、おいで」と言う。
 でも猫は警戒したままだ。
 あーあ、やっぱり触らせてくれないかな。残念に思いながらも諦め、私は散歩を再開する。
 散歩行った所で十字路となり、どこへ進もうかと考え、立ち止まる。
 目的の無い散歩。
 どこでも良いやと思いながらも心は猫に惹かれたまま。
 思わず振り返る。
 するとブロック塀の先端に足を掛け、葉っぱから顔を出して猫がこちらを窺っている。
 いじらしい臆病さ。
 私はニッコリ笑って近付いていく。
 猫の足がサッと退く。
 こちらに興味はあるものの、まだ心を許してはくれないらしい。
 私はゆっくりと、数秒をかけて一歩ずつ進む。円を描くように、慎重にして。
 猫は私の進行に従って首の角度を変えていく。しかし腰は浮かんでいる様子。いつでも逃げる準備はできているといった感じだ。
 じりじりと近寄る私。
 ちょこちょこっと足を入れ替える猫。
 あと二メートル。
 そこで猫はサッと逃げる。
 やっぱり駄目かぁ。そう思いながらも塀の奥を覗くと、猫は初めの位置に立ち止まり、こちらを見ている。
 ちょっとしたゲームのよう。
 私はまた手を伸ばし、声をかける。
 すると、背後からカサカサと音がする。
 見ると黒猫。こちらは立派な成猫だ。
 目が合うも、黒猫は堂々としたもの。振り返りもせずに悠然と歩き去ってしまった。
 幼さの残る白黒猫に目を戻す。こっちはまだ私を観察し、どうしたものかと迷っているようにも見える。
 その違いが、少し楽しい気分にさせてくれた。
 まぁいいや。可愛い猫と出会えただけでも。
 私は十字路へ向かって歩き出す。
 振り返ると、猫は再び塀の先端からこちらを見ている。
 十字路を左に曲がり、数歩行った所で十字路に戻り、塀の上を見る。ちょっとした心残り。
 猫は、もういなくなっていた。
 また十字路へ戻り、先程と同じ道へ私は曲がる。
 友達になりたかったな。
 そんな思いの残る中、右手側、遠くの道をのんびりと歩く黒猫の姿が見えた。
「うん。なるほど」
 何がわかったわけでもないが、私はそうつぶやいて頷くと、帰途へついた。
 とても楽しい散歩の時間でありました。
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